個人の練習やグループでの活動の成果を発表させるとき、生徒に自己評価や相互評価を行わせることで、取り組みの成果のたな卸しもできますし、さらに良くなる/良くするための手掛かりも見つけられます。
しかしながら、形だけの自己評価/相互評価を繰り返してもその効果は限定的です。効果に繋げるために必要な工夫について考えてみました。
2017/09/11 公開の記事をアップデートしました。
❏ 評価をさせることはメタ認知を高めさせること
相互評価を行わせれば、他の生徒・グループの発表を聞いているだけのときに比べて、注意力も洞察力も高まりますので、「多様な意見に触れることでの学び」がぐんと大きくなるはずです。
幾つかの評価段階(A~Dなど)から一つを選ばなければならず、その理由も明確に(=言語化)しなければならないとなれば、自ずと
- どのような要件を満たしていればOKなのか
- まずいと感じるのは何が足りないからなのか
をしっかりと考える姿勢も身についてきます。加えて「より良いものにするには、何をどうすれば良いのか」も考え始めるはずです。
ここで培われたメタ認知・適応的学習力は、自ら学びを進める上で大切な土台になります。別稿で触れた「勉強を好きにさせる学ばせ方」に必要なものを作っていくことにも繋がりそうです。
❏ 評価機会を重ねて観点や評価規準を理解させる
自己評価、相互評価を行わせるときは、当然ながらいくつかの観点を置いて行わせますが、観点とそれぞれに付された評価の規準を理解すること自体も、生徒にとっては大きなハードルです。
いくども評価を行う活動を繰り返す中で、徐々に観点と規準を理解させていくつもりで臨みましょう。
このスタンスを持たないと、やり始めたばかりで「できるようになるのはこれから」という局面なのに、「やらせてみたけど、あんまりパッとしない」という漠然とした否定的な印象で、せっかくの取り組みが早いうちに勢いを失いかねません。
評価活動に限らず、新しいことに取り組ませた当初は、生徒がやり方を理解し、慣れてくるまでは上手くいかないのが普通。新しいことに生徒が戸惑いを見せても、粘り強く続けていくことが大事だと思います。
❏ 目指すべき到達状態をセンテンスの形で明示
評価の観点を「語句」で表現しただけでは、観点の理解は進みません。センテンスで記述された「規準」をきちんと添えましょう。
例えば、「正確さ」「流暢さ」「感情移入」(音読の場合)、「主張の明確さ」「十分な論拠」「実現の可能性」(提案づくり)などと言われても、具体的にどんなことかピンとはこないもの。解釈も割れます。
ましてや、学習者として発展途上にある生徒にとってはなおさら。語句から想像できるものが大きいプロ(教員)同士の場合とは違います。
評価規準は、「目指すべき到達状態をセンテンスの形で示す」のが鉄則です。語句は概念であり、成否判断の対象になりません。評価規準は成否を判定すべきものであり、センテンス以外の形態では機能しません。
❏ 規準を満したA評価をベースに評価段階を設ける
評価規準に表現された「目指すべき到達状態」を十分に満たしているのが、「A評価」であるのは言うまでもありません。
目指すべき状態を超えていれば「S評価」、目標状態に近いが満たしきれていない部分が残れば「B評価」、満たしていないものが多く、目標状態に遠ければ「C評価」ということになります。
SABCの4段階では、一番下のC評価は、他人に対して与えにくいものです。最低評価をつけることへの「抵抗感」は小さくありません。
こんなとき、もう一つ下に「D評価」(要件の大半を満たしていない)を設けると、C評価を与えることへの心理的抵抗が減るようです。一番下は、選ぶケースが実際にはない「捨て段階」であっても、それが用意されていること自体に意味がありそうです。
❏ その評価を選んだ理由を言葉にさせる
センテンスで記述された規準(=目標とすべき到達状態)の理解も、そこからどれだけ離れている(遠い)かの判定も、最初の内は生徒にとって難しいもの。生徒それぞれで規準の解釈も違っているはずです。
評価という活動に取り組ませ始めた当初は、先生がつけた評価と生徒がつけた評価が一致しない方が多いかと思います。評価を行う機会を重ねる中で、徐々に規準を正しく理解させていくという発想が大切です。
上記のSABC(D)での評価をさせながら、そのうちの一つを選んだ理由を言葉にさせていきましょう。
ある生徒のパフォーマンスに対して、自分が付けた評価と、他の生徒や先生が付けた評価の違いや、その理由の違いに触れる中での「気づき」も多々あるはずです。
こうした「すり合わせ」を繰り返していく中で、生徒は各評価段階の間にある「境界」の位置を徐々に明確にイメージするようになり、「メタ認知」の獲得も進んでいくのではないでしょうか。
❏ 「十分」と「普通」の違い~点数方式の落とし穴
興味深いことに、同じ5段階評価でも数字を使って「5点満点」で点数をつけさせると、それだけでうまく行かなくなるケースが増えます。
用いる記号が違うだけで、捉え方が変わってくるのかもしれません。
きちんとしたオリエンテーションや十分なトレーニングが行われていない状態では、「ふつう」の出来に対して、自己評価では「3」、他者評価では「4」をつける傾向があります。
この「ふつう」というのが曲者です。「クラスのみんなの平均的な出来栄え」だったり、「ちゃんと真面目に頑張った」というあいまいな基準になりがちです。
充足要件を「十分」に満たしている状態と、感覚的にとらえた「普通」では、大違いです。
記号そのものが段階性と結びついたイメージを持つことを踏まえると、点数をつけさせるよりも、ABC評価をベースにした「期待を超えるS」と「捨て段階としてD」を加えた形にした方が好適なようです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一