前稿「質問を引き出す~学びを深め、広げるために」で書いた通り、質問を見つけ出して文字に起こすことを求めたら、生徒はノートや教科書を見返して「疑問点」や「その先を覗きたい箇所」を探し始めます。
漠然とした「よくわからない」に止まっていては、質問の形での言語化はできませんので、否が応でも「何がどうわからないのか」を明らかにせざるを得ず、その中で学びはより深く確かなものとなっていきます。同時に、対象を精緻に観察し、問題を見つける力も養われるはずです。
本日の記事は、この続き、補足として起こしました。お時間の許すときに、前稿と併せてご高覧をいただければ光栄です。
2017/08/23 公開の記事をアップデートしました。
❏ 質問をさせることの効果(再)
単元の学習や毎回の授業を終える場面で、学習した範囲から問いを起こすことを生徒に求めてみると、どこかに疑問や不明が残っていないか、生徒は教科書やノート、プリントを開いて見直し始めます。
その中では自ずと、学んだことをひと通り見直すことになり、学習内容を再記銘する機会も得られ、多少なりとも定着も進むはずですが、「質問を起こさせることの効果」はこれに止まりません。
書かれていることの一つひとつに対して、「具体的にはどういうことなのか」「どうしてこう言えるのか」「この但し書きにどんな意味があるのか」などを自ら問い、学習内容を深掘りしていきます。
テストに備えて「書かれていることを覚える」という意識だけで教科書やノートを見返す場合とは違った教材への向き合い方になるはずです。
不明や疑問を掘り起こす中には、新たな興味が生まれることもあるでしょう。それを掘り下げていけば、学びはより深く広いものになります。
❏ ひとりの疑問を起点に全員の学びを広げ、深める
授業を終えた後や机間指導の最中に生徒からの質問を受けることがありますが、その場で本人の不明を解き、疑問に答えるだけでは、クラス全体の学びにはならず、少々もったいない気がします。
質問をした生徒は、求める答えを得られて満足でしょうが、同じような不明を抱えながら、疑問を感じずにいる生徒がいるかもしれません。
そうした生徒に気づき(不明の発見、興味や関心の喚起)の機会を与えるには、一人の疑問をクラス全体でシェアすることも必要です。
生徒からの質問に対して、すぐに答えを示すのではなく、先生からの発問として、クラス全体に投げかけ直し、思考を促していきましょう。
自分が発した質問が、クラスみんなのより深い学びに繋がった/貢献できたという経験に「問いを起こすこと」の意義を見出してくれるかも。
考え尽くした結果を伝えることはコミュニティへの貢献ですが、どうにもわからないことを言葉にして尋ねてみることも、その一つの形です。
❏ その場で疑問を解消するか、学ばせる手順を熟慮するか
簡単な(=掘り下げる必要性が低く、ダイレクトに答えを示せば十分な理解を形成できる)疑問なら、答えを持っていそうな表情の生徒を探して、説明させてみれば十分だろうと思います。
それ以前に、教科書や副教材に書かれていることなのに、それを探してみようともせず、安易に訊いてきた場合は、答えてあげる前に、きちんと教材のページを開かせ、読んで理解することを求めましょう。
これに対して、問いを具体化したり、知識を拡充しなければ答えに近づけない問いや、根本的なところで誤解が生じている可能性がある問いであれば、扱い方をしっかり考えなければならないはずです。
疑問を解消するまでの工程(学ばせ方の手順)が直ぐにイメージできるなら、その場で対応しても良いですが、熟慮が必要な場合もあるはず。生徒には「次回までの宿題」としておき、準備を整えて臨みましょう。
生徒の疑問を起点に、クラス全体の学びを膨らませようと、当初の予定になかった学習活動を組み込むことになりますので、指導計画にも修正が必要になります。
年間の計画作りには多少の余裕を残し、出し入れ(カットしたり、追加したり)ができる箇所を予め考えておくことも大切だと思います。
❏ 対面以外のチャンネルで届く質問もきちんと拾い上げる
生徒からの質問は、対面で伝えられてくるものに限りません。リフレクションシートに疑問点として書き込まれているものもあるはずです。
せっかく生徒が文字にして表明した疑問を放置するわけには行きませんが、「朱書きで返信」以外にも疑問に答える方法はあるはずです。
複数の生徒が同じような疑問を書いていたら、それぞれに答えを示すよりも、次の授業で「こういう質問があった」と紹介し、クラス全体の学びにした方が好ましいはずですし、効率にも勝ります。
また、テストの答案(誤答)にも、言語化されていない疑問(生徒が抱えている不明)が隠されているかもしれません。何故こういう誤りが生じたのか、生徒の思考を想定してみる習慣を持ちましょう。
こうした様々な形で見つけ出した生徒の疑問をきちんと拾い上げて、生徒の学びに繋げていけるかどうかは、先生方の腕のみせどころです。
❏ 共有ノートなどを活用し、質問のシェアと相互回答
ICTの整備も進み、一人ひとりがタブレットなどを持っている時代ですので、引き出した質問を共有するにも、色々な方法が可能です。
ノート共有アプリを使えば、学びを進める中で浮かんだ疑問を「質問タイム」を待たずに、逐次共有していくことも難しくありません。
シェアした質問にも、ノートを共有している生徒同士で答えを作っていけば良いはずです。先生が答えを示すだけでは「覚えることがまた増えた」という認識になりがちな場面でも、生徒同士の相互啓発を兼ね、協働で答えを作り出せたら、その達成感や喜びは小さくないと思います。
生徒同士のやり取りが行き詰っているようなら、先生からの手助けも必要かと思いますが、参照すべき情報の所在を示すなど「最小限」の介入に止めつつ、協働の展開を見守ってあげましょう。
やらせれば生徒にもできることを肩代わりすることが、能力や資質の向上の妨げになることは、教える側が常に意識しておくべきことです。
ちなみに、ICTなしのグループワークなどでは机間指導で順番に見て歩くしかありませんが、モニター越しの観察なら、同時に複数のグループの様子を見守ることができるため、後手を踏まない支援ができます。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一