補習・講習は、一つひとつの設置目的を明確に

五月の連休が終わると、夏休みに設置する補習や講習を一覧にまとめて生徒に伝える時期を迎えます。先生方の学校でも、新学期が始まると間もなく講座開設の準備に取り掛かることになるのではないでしょうか。
生徒一人ひとりが抱える学習上の課題を解決する場として、内容や対象を明確にして、講座群を整備するとともに、各講座に用意された学びを必要とする生徒が確実に受講できるようにしたいものです。
合理的に配置された講座群とそれぞれの内容、対象となる生徒の適切な抽出が大切であることは言うまでもありません。行き当たりばったりにならないよう、講座設置の基本方針の確立から始まる「段取り」の一つひとつを事前にしっかりと検討しておくことをお勧めします。

2017/04/26 公開の記事をアップデートしました。

❏ どんな講座を置き、誰に受講させるか

補習/講習を通じて解決を図る必要がある、「生徒一人ひとりが抱える学習課題」は大きく分けると

  • これまでの考査や模試で未習熟が発見された箇所
  • 通常期の授業ではカバーしきれない発展的な内容

という2つの括りになるのではないでしょうか。
後者は、年間授業計画を立案する時点で既に、「難関大を目指す生徒を対象とする強化学習の機会」として予定されているかもしれませんし、医療看護系など、特定の学部や学科系統を志す生徒向けの講座が予定されていることもあるでしょう。
いずれの場合も、生徒が互いの頑張りを支え合う集団作りに利用することができるはずです。
個々の講座には明確な目的が必要です。可能であれば、補習/講習が完了した時点でどのように効果を測定するかも検討しておきたいところ。やりっぱなしでは継続的な改善は望めません。

❏ 模試や考査のデータを用いた計画的な補習の実施

前者タイプの所謂「補習」は、夏休みを待たずに平常授業期間にも講座を設置することもあろうかと思いますが、必要性を感じるたびに対症療法的に講座を設けるのでは、生徒も先生も疲弊します。
直近に控える次の学習への備えが十分でない生徒には事前補習が必要な場合もあろうかと思いますが、それ以外は夏休みを待ったり、受験期を迎えての生徒の自助努力を期待したりという判断もあるはずです。
これまでに受験した模試や考査の成績分析や、これから学ぶことの前提理解を確かめるプレースメントテストの結果を踏まえて、必要な講座を割り出し、対象者を慎重に選び出すようにしたいところです。
また、各教科が独自に補習を計画しては、生徒に「分身の術」の習得を求めるしかないような事態も起き得ます。
あらかじめ時間枠を教科ごとに割り振っておき、各教科はその枠の中で計画を立てるというアプローチも必要です。これにより、必要な人数と時間も算定できますので、働き過ぎも予防しやすくなるはずです。
もう一つ加えるならば、生徒は日々勉強していますので、2ヵ月前に抱えていた弱点がそのままではない可能性も念頭に置きましょう。
講座設置の原案は過年度ベースで作っておいても良いと思いますが、最新のデータに照らした対象者抽出は必須です。
その結果、対象者がごく少人数になったら、講座の設置は見送り、個人指導に切り替えるのも合理的な判断だと思います。
学校によっては、設置講座数や参加人数に数値目標を立てているケースもありますが、数字を膨らませること自体が目標ではないはずです。

❏ 成績に現れない部分は、普段の観察で補う

普段の授業での様子から、「模試成績や考査の点数に現れない弱点」を抱える集団も見えているはずです。
たとえ丸暗記でも一定の知識を備えていたり、入学前/前年度の貯金が残っていたりすれば、一定の点数は取れるでしょうが、先の学びを想定したとき補っておかなければならない部分もあると思います。
特定の思考パターンに弱い生徒、判断を求められたときに根拠を置けない生徒、理解したことを表現するときの手法が未確立の生徒はいないでしょうか。
普段の授業だけで補強が図れそうなら、わざわざ講座を設ける必要はありませんが、特定の生徒を対象に、集中強化を図った方が効率的というのであれば、夏休みなどに講座を置いてしまった方が好適です。
学び方そのものに改めるべき問題を抱えている生徒もいるはずです。
ここまでは「記憶と再現」で何とかしているが、予習などで自力でポイントを見つけられない、不明点を解消するすべを持っていないなど、次のステージに進む準備ができていない生徒には何らかのケアをしておかないと、後になって問題が大きくなります。
これらの弱点(学習上の課題)は、模試などのテストの結果だけでは、はっきり捉えきれない部分です。
普段の授業で課した課題の出来栄えや定期考査の答案、授業内での発問へのレスポンス、話し合いの場でのやり取りなどから、課題の所在と補強すべき生徒を普段からリストアップしておきたいものです。
後手を踏んでは、次の学期や学年を迎えてから、生徒も先生も負担が増すばかりです。夏休みの補習・講習を使って「学び方を学ばせる場」を作っても良いのではないかと思います。

❏ 観察結果を持ち寄って、設置すべき講座を検討

どんな学び方を期待するのか学年教科の間で共通認識を作っておけば、観察の視点も確立できるので見逃しの発生も抑えられるはずです。
学年教科担当者で集まったときに、観察所感を持ち寄り、突き合わせてみる機会も必要です。一人の観察では見落としもありますが、先生方が互いの気づきを交換すれば、より正確な観察・評価ができます。
様々な課題について、どんな教材で何を学ばせるかを考え、学年教科の中で担当講座を割り振れば、労力や手間の重複も抑えられます。
普段教えているクラスで、その講座を受けるべき生徒を特定しておき、受講すべき生徒が網から漏れることがないようにしましょう。
そのためには、どんな講座が設置されているかを先生方はしっかり認識しておくことが前提です。個々の先生が自分の考えるところに従って、独自に講座を作っている学校では、互いにどんな講座を開くのかすら知らないケースもありました。

❏ 生徒に任せ過ぎず、先回りをし過ぎない

講座への申し込みを促す指導では、最初から、「これを取れ、あれも取れ」では、長期休業期間中の自分の学習を設計してみる機会も持てないことになります。
これでは、学習者としての自立が遅れるばかりではないでしょうか。
受講すべき講座を正しく選択できるようになることも、学習者としての成長の一つ、「学び方における守破離」だと思います。
長期的/戦略的な視点をもって、そうした方向に仕向けていくこともまた、先生方の大切なお仕事だと思います。
かといって、すべてを生徒自身の判断に任せていては、せっかく設置されている講座を利用する機会を逃す生徒も出てきます。
各講座の目的に照らして受講すべき生徒をピックアップしたうえで、その生徒が自分の課題にどう取り組んでいるか/どう取り組もうとしているかを見極めて、最終的に受講させるかどうかを判断しましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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