自由研究/課題研究は狙い通りの成果を得たか?

まだ夏休みが始まっていないのに「何、このタイトル?」と思われた方が多いのではないかと拝察いたしますが、ひと月後に初めてこの問いを思い浮かべたのでは時すでに遅し、与えた課題の効果を検証する準備が十分に整っていない可能性が高いのではないかと考えます。
1学期の終業式を迎えて、夏休み中に取り組むべきタスクはすべて生徒に提示されているはず。生徒の時間(加えて、場合によっては教材等の購入費などの金銭)を投じさせる以上、初期の成果が得られたかどうかは、タスクを与えた側で責任を持って検証すべきではないでしょうか。
成果を検証しないまま、慣習的に同じ課題/タスクを与えては、同じ轍をいつまでも踏むかもしれませんし、きちんと成果が出ているのにその価値への認識をしっかり作れないのも勿体ない話です。成果を知り、理解と共感を持って指導に臨んでこそ、効果はより大きくなるはずです。

2016/08/17 に公開した記事を再アップデートしました。
(前回更新:2018/08/27)

❏ 自由研究、課題研究ってそもそも何?
子どもの頃(昭和です)を思い浮かべると、夏休みの宿題にはたいてい自由研究が含まれていましたが、【やりたい生徒が自由な発想と方法で研究っぽいことを経験する機会】だったように思います。
やっていたのも、植物を育てて記録したり、昆虫採集をして標本を作ったり、本を読んで調べ物をしてまとめたりと「牧歌的」なものでした。
自由研究が、内容も位置づけも大きく変化し始めたのは、総合的な学習の時間の導入がきっかけだったかもしません。
やるかどうかの選択すら自由だったのが、「やることが決まっているもの」になりましたし、教室の掲示板やロッカーの上に並べるだけだった成果物が発表会など「教室の外」に持ち出されるようにもなりました。
この結果、自由研究は【テーマを自ら(自由に?やむを得ず?)選んで研究してみた結果を、発表できる形にまとめる、全員に課される課題】に変化したように感じます。
ちなみに、解決すべき課題を設定して取り組んでいる場合にのみ、「課題研究」との呼称を与え得るのではないかというのが「私見」です。
❏ 自由研究に取り組ませる目的は明確になっていたか?
学校をお訪ねして自由研究の成果展示を拝見すると、しっかりテーマを設定してきちんと調べ、考えた痕跡が見えるものも結構な割合で見かけます。ご指導に当たる先生方の努力と工夫の賜物だと思います。
その一方で、材料やストーリーが予め用意されたものを手順に従って完成・再現しただけ?としか思えないもの、あるいは、ただ集めただけ/記録しただけで考察の痕跡が一つも見て取れないものも少なからず…。
もちろん、様々な現象を実際に目で見て/経験して、それを記録することだけでも貴重な体験ですが、決められた手順/既にわかっている結果を「再現」して形を整えたりするだけでは「研究」にはならず、そこで身につくものも限られたものになるのではないでしょうか。
自由研究や課題研究を課しているのなら、生徒に何を求め、どんな成長を期待しているのか、そのためには事前に何を学ばせ、どんなことを出来るようにさせておくべきか、きちんと考える必要があると思います。
夏休みの自由研究/課題研究にも年間指導計画の中で明確な位置づけを与えるとともに、準備と仕上げで挟み込んだ実施計画にすべきです。
教室と違う環境で知的な刺激を受ける経験をさせるだけで良いという考えもあろうかと思いますが、生徒だって忙しい日々を送っていますし、提出された宿題を点検しなければならない先生だって大変です。
小学校でも横断的・体験的な活動はしていますので、中学・高校で課題研究に取り組ませるなら、当然ながら、もう一歩踏み込んだところまで求めて行きたいところです。
現象を観察して、その背後にある仕組みを考えて仮説を起こし、それを実証する方法を考えて実験してみる。こうしたプロセスを備えたものを目指すのであれば、それなりの事前指導をしっかりと行うべきですし、生徒がこれまでにどんな活動を経験し、そこで何を学んできたか事前に把握しておく必要があるのは言うまでもありません。
❏ 夏休み明けには、「研究」の振り返りと仕上げ直し
夏休みが終わり、生徒が自由研究/課題研究の成果を提出した後の指導も大切です。当然ながら、先生が評価/採点して、成果品を並べて展示すればOKということではありません。
先生が評価するだけでは、「より良いものにするには、この後どうすれば良いか/何をしておくべきだったのか」を生徒自身が見出すとは限りませんし、展示に並ぶ他の生徒の成果物に触れた気づきを、言語化させることでより具体的で深いものにしなければ、通り一遍の学びで終わってしまいます。
展示されている各生徒の展示物を、生徒の目で評価させながら、良さの所在とその理由を言語化させる活動の場はしっかり作りたいものです。その時に用いるワークシートにも、単にABCDなどの段階評価をつけさせるだけでなく、評価の理由を言葉にさせるべきだと思います。
 ■ 自己評価、相互評価を行わせるときの工夫
 ■ 生徒は評価者としてどこまで成長しているか
他の生徒の成果に触れることで得た刺激(気づきや学び)を携えて、自分の取り組みを振り返るとともに、夏の終わりの時点での「成果物」にもう一度手を入れさせていきたいところ。
せっかくの気づきもそのまま放置しては、時間とともに消失していきますが、成果品の仕上げ直しというタスクを通して、曖昧だったところを消し込み、ブラッシュアップに具体的に手を動かせば、学びはより深く確かなものとして、生徒の中に残るはずです。
そんな時間はないとお考えになるかもしれませんが、既に夏休みの貴重な時間を投じさせた以上、このフェイズの指導を疎かにして投資の多くを無駄にしてしまうことこそ、避けるべきところではないでしょうか。
実際に時間が取れない場合でも、成果展示を見て回った後で、自分の取り組みや成果に対する振り返りだけはしっかり行わせ、リフレクションログに残させるべきだと思います。
 ■ プレゼンテーション/成果発表を機につくる成長の場
 ■ 体験のたびに感じたことをしっかり考え、言語化&記録


そもそもですが、夏休みの自由研究/課題研究は、日々の授業の中で見いだした興味を掘り下げる場として位置付けるのが好適です。先生方が普段から十分に「学びの拡張」まで考慮したカリキュラムの設計を意識していれば、日々の忙しさから解放された長期休みにやることは、生徒がそれぞれ見つけているはず。また、データを集めて解析してみるにも相応の時間が必要ですが、夏休みはそのチャンス。探究活動やPBLを通して涵養すべき統計スキルを実際に使ってみる機会にさせましょう。

夏休みを迎える前に(まとめページ)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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