シラバスや年間授業計画を書き起こしたり、改定したりするときのスタートは、前稿でもふれた「3年/6年を見渡したグランドデザインを描くこと」ですが、グランドデザインができたからといって、すぐに各科目で起草に進むのは早計です。
指導や学習の方法・手順を考える前には、学年・学期といった時期ごとの到達目標と、達成検証の手段を決定する必要があります。
❏ 教科✕時期ごとに、目指すべき到達状態を規定する
指導計画を先に作って、後になってから「さて、目標はどうしようか」という進め方では、3年間/6年間の指導成果を保証できなくなってしまいます。
各科目の指導計画を起こす前に、どんな指標を使い、どの水準に目標を設定するかを考えなければいけない、ということです。
目指すべき到達状態がはっきりしてこそ、その達成のために何をどのような方法で学ばせていくべきかが決められます。
当然ながら、グランドデザインに示された最終ゴール(卒業時に目指すもの)に無理なく到達できる「ペース」も考慮しなければいけません。
先行逃げ切りのつもりが途中でバテてしまっては意味がありませんし、ある段階で負荷が足りなければ、次に進んだときのハードルが高くなりすぎます。
教科・科目に固有の知識・技能については、目標設定も達成検証も、テストや課題の結果を用いて定量的に行うもの。
指標には、模擬試験や外部検定の数字を使うのが一般的でしょう。
❏ 学年×教科の到達目標をまとめたリスト
各科目のシラバスや年間授業計画を書き起こす前に、全教科×全学年の到達目標一覧にまとめて、比較検討できるようにしておきましょう。
ある科目に閉じて、どれだけ熟慮を重ねたところで、前後の学年との連続性・段階性が担保されなければ「3年間/6年間を通した計画」になりません。
また、ある学年を見たとき、ある教科で設定した目標水準と隣の教科のそれとが、かけ離れたものであるのもおかしな話です。
ましてや同一教科の中で、科目間でのずれがあっては…。でも、実際のシラバスを拝見すると、「ん?」というケースは少なくありません。
全科目の到達目標を学年✕教科・科目のマトリクスにまとめてみることで、こうした不整合にも気づけ、修正するチャンスが生まれます。
ちなみに、コミュニケーション英語と英語表現のように、同じ教科の複数科目がひとつの学年に配置され相補的な位置づけになっている場合、到達目標を科目ごとに規定するより、教科で一本化してしまった方が扱いやすいこともあります。
外部検定の技能別スコアを数値目標に使うなら、各科目の学習成果をある程度の「分離」はできるかもしれませんが、分けきれない部分もあり、達成検証にかける負担だけが大きくなるのでは本末転倒です。
❏ 目標の設定は{到達水準×到達率}で、かつ複線的に
学年に在籍するすべての生徒に対して、単一の目標値しか用意しないのでは、個々の生徒の実情に見合った指導はできません。
「センター試験で学年平均80点」という書き方をしている学校も少なくありませんが、違和感を覚えます。
そもそも、センター試験の平均点は年度ごとに大きく変わりますし、そうでなくても、上記の水準では最難関を目指すには足りず、中堅私大への進学を目指している生徒にはハードルが高すぎます。
また、大半の生徒に成績変化がなくても、一部の生徒に極端な変化があれば引きずられる性質がある平均値は目標管理には向きません。
学校経営計画でも同じですが、在籍生の大半に対して保証したい出口学力や進路と、意欲に応じて挑ませる目標とを「複線的」に設けるのが好適です。
先に挙げた外部検定の技能別スコアなどにしても、学年平均ではなく、「○○以上の達成者○人/%に加えて、○○以上を○人/%」というように、到達水準✕到達率で目標を書き出した方が、合理的です。
こうした把握をしておけば、模試成績に基づく中間検証のたびにどの層に対し、どの領域での指導・補強が必要なのか判断が容易に行えます。
❏ 学ぶ意欲、学習方策、協働性・主体性などにも言及
教科学習指導が目指すものは、教科・科目に固有の知識や技能を身につけさせることだけではありません。
学び方(学習方策)の獲得や、課題解決に必要な汎用スキル、協働性や主体性、将来の学びに向けた意欲・関心なども含まれるはずです。
これらについても、質問紙法(アンケート)や、先生方からの観察に基づく活動評価(パフォーマンス評価)などでの達成検証も考えていくことになります。
また、教科シラバスで扱う「学習」だけでなく、「生活」「進路」の2領域でも、同様の仕組みを整える必要があるのではないでしょうか。
❏ 定性的目標も工夫次第で定量的に達成管理ができる
内部の優良差分を探し出すためにも、クラス間、担当者間での比較が可能な形で到達状況を把握する仕組みは必要です。
所謂「定性的な目標」でも、生徒に見られた行動などについて評価規準を用意しておけば、A評価以上が○人/○%という、数値化しての把握が可能です。
進路講演を聞いた後のレポートで、狙い通りの気づきがあったと思われる生徒の数をカウントするという方法だってあり得ます。
何でもかんでも数値で管理しようとしては、作業が煩雑になるばかりで、鬱陶しいことこの上ありません。
指導機会ごとの重点目標以外は、如上の評価規準を元に、生徒による自己評価を促すぐらいでもよさそうです。
ただし、評価規準をきちんと用意しておかないと、生徒に自己点検させることもできませんが…。
❏ 教科・科目間の関連付けや重ね合わせにも注目を
高大接続改革でも合科型学力への転換が迫られますが、もともと、各教科・科目の学習内容は、それぞれ独立したものではありません。
教える都合によって、切り分けられて、教科・科目といった範囲をさだめることで、便宜上の「境界」を引いたものに過ぎません。
世の中が複雑化していく中、そうした境界が邪魔になるケースも今後ますます増えそうです。
各科目が互いの学習成果を利用し、互いの学習の土台を作っていくのは、次期学習指導用要領で求められる「カリキュラム・マネジメント」の視点からも重要です。すでに、物理で運動方程式を学ぶときに微積の導入を行ってしまうというのも珍しくなくなりました。
教科学習指導に限らず、あらゆる教育活動を俯瞰して学びの重なりを上手に利用したコンパクトな学校経営を実現したいものです。
その3に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一