授業で学んだことを用いて問いに答えを導く場や、調べてきたことに基づく討論や発表など、学びの成果のアウトプットには様々なものがありますが、一連の学習活動の「終端」と捉えていては、その機能を十分に活かせません。アウトプットはゴールではないということです。
アウトプットを通して、そこまでの学習(インプットとインテイク)に不備や不足がなかったかを確かめ、補うべきもの、修正すべき点を正しく認識させてこそ、有為な学びの実現に結び付いていきます。
2015/01/05 公開の記事をアップデートしました。
❏ 理解しているかどうかは習ったときと違う形で確かめる
授業で学んだこと/読んで理解したこと/調べて知ったことをもとに課題を解決したり、初見の問いに答えを導いたりするのは、アウトプットの最もよくある形です。
習ったことをそのまま再現させても、覚えたかどうかを確かめているのにすぎません。授業で扱ったのと同じ問題に正解できても、「答えを知っている」だけで「解けるようにはなっていない」かもしれません。
本当に理解できたかは、学んだことを新たな問いや学んだときと異なる文脈に当てはめさせて、正しい答えを導けるかどうかを観察して確かめる必要があります。
例えば、説明文を与えて該当する用語を答えさせる場合と、用語を与えて説明をさせる場合とでは、確かめられているものは全く違います。
直接金融、間接金融という用語を導入した後、後者タイプの「銀行と証券会社の違いを、直接、間接の2語を用いて説明せよ」という問いにきちんと答えを作れたら、十分に理解しているとみなせそうですよね。
前者タイプのプリントの空所に「直接」と「間接」を正しく埋めるというタスクでは、概念をどこまで理解してるのか正しく推定するのは難しいのではないでしょうか。
❏ 教室を離れる前に5分間のアウトプット
導入→展開→演習→まとめ、という伝統的な授業展開では、まとめの後はそれを覚えるだけという流れになりがちです。
これに対して、終業前の5分間を使って、本時の学びの成果をアウトプットする機会を作れば、そこまでのインプットやインテイクに不備がなかったかを生徒自身が確かめられるようになります。
その日に学んだことを俯瞰し得る1問を用意して、その場で答えを作らせてみれば、わかっていないことの所在を明らかにできますよね。
5分間アウトプットの費用対効果で示した通り、50分の授業を「45分+5分」に分けて、最後の5分は授業で習ったことを別の文脈で使ってみるアウトプットに充てた場合、教える時間は減ったとしても、学びの総量は増える可能性があります。
5分では答えを仕上げ切れない本格的な問題なら、その場では仮の答えを作ることで止め、隣同士や小グループで互いの答えを見比べさせてから、宿題に持ち帰らせるという手もあります。
答えを仕上げようとする中で、足りない知識や掘り下げなければならない理解の所在に気づくことで学びが深まり、より確かなものになるのは、答えを仕上げる中で学びは深まるで申し上げた通りです。
❏ 定期考査の問題も、記憶再現タイプに偏らないように
定期考査も、学びの成果をアウトプットする重要な機会ですが、様々な学校で実際の考査問題を拝見していると、教えたことを同じ形で問うタイプの問題が多くを占めていることがあります。
授業を中心においた学習習慣を確立する段階では、「ちゃんと授業を受けていれば、きちんと得点できるよ」というメッセージを出すことも重要でしょう。
しかしながら、いつまでもそこに立ち止まっては、せっかくのアウトプットが、振り返りを通じた課題形成の機会として機能しません。
例えば、英語の考査問題で、授業中に扱った英文の一部に下線を施して和訳させるのでは、仮に英文の構造や語彙の知識に不足があったとしても、日本語での「内容の記憶」でそれらしい和訳ができてしまいます。
先生にとっては、生徒がどこを分かっていないのか把握できませんし、生徒は習ったことを覚えていれば、それで十分という誤った学習観を身につけてしまいます。
“正解を言って欲しい”と言う生徒が現れるのは、こうした考査問題にも一因があるのではないでしょうか。
学ばせたのは、本文の内容ではなく、そこで使われている言語材料(単語や熟語、定型表現、文法や論理構造など)の知識や理解であり、試すべきはそれらを使って何ができるようになっているか(=コンピテンシーの獲得)です。
これらを測定しようと思ったら、拙稿「考査問題に使う初見材料をどこから調達するか」にも書いた通り、同じ言語材料を用いた別の英文を読ませたり書かせたりする必要があるのは自明です。
❏ わかっていないことに気づくことが学びの始まり
勉強を好きにさせる学ばせ方でも紹介した通り、「テストで間違えた問題をやり直す」というやり方では、能動的な学びの姿勢は生まれにくいようです。
東大社会科学研究所とベネッセ教育総研の共同研究では、「何がわかっていないか確かめながら勉強する」ことが、勉強を好きにさせるのに有効であり、「メタ認知」が成績上昇に効果をもたらすことが明らかになってきました。
そうした学びを実現するには、適切なアウトプットの機会を整えることで、生徒自身がどこまでわかっているか/どこから先がわかっていないのかを知ることができるようにしてあげることが重要です。
たとえ、ファースト・トライで正解が導けなかったとしても、何がまずかったのか自覚できれば、「こうすればうまくいきそうだ」という展望も開け、「次の機会には何としても」というリベンジへの意欲も生まれるのではないでしょうか。
生徒一人ひとりの振り返りのためのアウトプットの機会を作ることは、指導者の大切な役割の一つであり、指導者の側でも生徒にアウトプットさせてみることで自分の指導をさらに良いものにする方策を見つけるきっかけになるはずです。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一