授業内外に用いる課題に、生徒が志望する/目標とする大学群の入試出題から選び出した良問を用いることで、様々な効果が得られます。
今学んでいることが、どのような問われ方をするのかを知れば、学び方にも方向性が得られますし、解けたことで、自分の進路希望が「努力で届く範囲」にあると感じることからの好影響も小さくありません。
過去問から好適な問題を選び出して授業に用いるためには、出題研究の充実が欠かせませんが、先生方が一人ひとりで黙々と進めるより、教科の中でチームを組んだ分業と協働で進めた方がはるかに効率的です。
また、選び出した良問の使い方について考えるときも、多くの先生方の発想と手札、実際の指導に使ってみて得られた知見をシェアできれば、より良い学ばせ方の実現に大きく弾みがつくはずです。
2014/12/19 公開の記事をアップデートしました。
今、教えていることがどう問われるのか
好適な出題例は、本時の学習目標を示すのに使える
課題ありきで授業を設計すれば…
目標大学の過去問を解けた経験が、自信とやる気に
好適な出題例の収集と蓄積は、教科内の協働で
課題を与える以上、達成させるのが責任
問題を解いてみる中で、足りないものを特定しておく
補うべき学力要素によって、課すべき学習活動は異なる
良問を見つけるたびに、指導カレンダーに配置
進路希望の分布から、研究対象の優先順位を決める
各先生が個々に全問題を解くのでは過剰負担
絞り込んだ問題の使い方こそ時間をかけて考える
能な限り多くの出題例に目を通す
出題研究の協働と分業は学校間でも
年度を跨いで経年的に良問をストック
残した問題には大問ごとにタグをつける
教科書をはみ出す部分の大きさを評価
注目すべき部分にはコメントを残し、後の擦り合わせに
各大問に総合評価を与えて、その後の作業を効率化
授業への組み入れ、扱い方を先生方の話し合いで吟味
「S評価」を与えた問題はマイルストーンに
各単元の内容を学ぶ中で身に付けていく能力・資質
どこまで学びが進んだときにチャレンジさせるか
タイミングしだいで学びの成果や広がりは異なる
協働場面での学び方や探究スキルの獲得なども踏まえて
どんな生徒を対象に、どんな場面の教材に活用するか
必要に応じて問題を加工、教材としての好適性を確保
生徒にどう取り組ませるかで問いの価値は変わる
良問は、定期考査にも積極的に組み入れる
正答率で中間検証、結果を比較して優れた実践を抽出
指導で得た知見や教訓は、メモに残して次年度に継承
追記:あらためて「分業と協働」のススメ
教科書を丁寧に教え、そこに書かれている事柄を一つひとつ理解させていくというだけのアプローチでは、学ぶことへの自分の理由や、自分なりの目的意識をもった授業参加を促すことは難しそうです。
生徒は、解くべき課題を通じて学習目標を認識します。学びを経て解を導くべき適切な課題が導入フェイズで示されることで、問題意識も刺激されますし、不明に気づけばそれを解消したいとの意欲も芽生えます。
授業内のターゲット設問に持ち込まれた課題が、自分が目標とする大学群の入試過去問だったら、さらに大きな効果も期待できそうです。
しかしながら、過去問演習を授業に取り入れればそれで良いという単純なことではありません。入試問題を授業の教材に使うときには注意しなくてはならないことも多々あります。
高大接続改革以降、入試問題も大きく変わってきました。従来の感覚だけを頼りに授業を設計していては、目指すべき方向と生徒を導いている方向にずれが生じてくるのではないでしょうか。
教科書を使って今教えていることが、どのように問われるのか、どんな使い方を求められるのか、常に認識を更新し続ける必要があり、その唯一の方法は出題研究だと思います。
多忙を極める日々の校務の中で、出題研究に投じられる時間は限られます。教科内での分業と協働によって負荷を分散するとともに、出題研究の範囲を広げ、その成果をより良い授業の実現に活かしましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一