分業で行う出題研究のフィルタリング(その4)

生徒の進路希望の分布などに基づき出題研究の対象とする範囲(大学や学部)を決めたら、各々に担当を割り振って、第一段階の審査(価値の低い問題を予め除外するフィルタリング作業)に取り掛かりましょう。
個々の授業/単元での授業のデザイン(指導計画の中への「良問」の配列とその使い方)の検討に十分な時間を確保できるように、如上の第一フェイズまではできるだけスピーディーに通過したいところです。

❏ 残した問題には大問ごとにタグをつける

出題研究は「大問」ごとに行います。教室に課題として持ち込むときも、基本的には大問ごとに切り出して用いているはずだと思います。
1回分の入試問題をフルセットで扱うのは、受験期を迎えて志望校が具体化した後、時間配分の感覚を学ばせたりするときぐらいでしょう。
最初のフィルタリングを行うときに、良問の候補として残していく大問を見つけたら、その場で「検索に用いる情報(タグ)」をつけていくと後で探したりするときの手間も大きく減らせます。
どんな情報を検索のキーにするかは、出題研究を協働で行うメンバー間で前もっておおまかには決めておくべきでしょうが、一般的には、

  • 単元や項目の名称などの「学習内容」に関するもの
  • 大問の中でメインを占める設問の「形式」に関するもの
  • 添えられた資料の「タイプ」(図、データなど)に関するもの
  • 難易度や解答所要時間などに関するもの

などをそれぞれ独立させておき、それらを組み合わせたものになろうかと思います。
大問が焦点を当てて測定しようとしている学力(基礎力、思考力の各構成要素など)まで細分化することも可能ですが、作業が煩雑になる上、担当者間で解釈も割れがちです。後の擦り合わせを待ちましょう。
如上のタグの書き込みには、付箋を使ったり余白を利用したりすることもできますが、散逸したり、スペースが足りなかったりと、後フェイズでの作業を考えると、やや不向きかと思います。
問題のコピーを貼り込んで整理する台紙にヘッダやフッタを設けたり、あるいは画像を貼り込む「ひな形」の1枚目を「かがみ」にして、そこにタグを書き込むようにした方が、作業も効率的かと思います。

❏ 教科書をはみ出す部分の大きさを評価

本シリーズの第2稿では以下のベン図を示し、教科書の記載(=教科書から学べるもの)と出題の要求の差分をイメージしていただきました。

画像



各大問が、如上のA~Cのそれぞれをどのくらい含んでいるかもここで点検し、タグにして付しておくと、後の整理に便利かもしれません。

  • 副教材やプリントで補うべき知識量(A)
  • 解答プロセスにおける思考や判断の手順量(B1)
  • 論述問題などが求める記述量や構成力など(B2)
  • 題意理解が求める言語、数量、情報の各スキル(C)

などを問題評価の基準(観点)として並べて置き、それぞれの要求水準を{多い~少ない}{高度~平易}などの3~4段階で仮の評価をしてもらい、チェック欄にレ点を入れることにするのは如何でしょうか。
増える手間はそれほど大きくないと思います。その上、授業に使う問題を探すときも対象を絞りやすくなりますし、評価結果を互いに突き合わせてみれば、先生方の間にあった「感覚のズレ」も詰められるといったメリットもあり、トータルでのコスパは悪くないように思います。

❏ 注目すべき部分にはコメントを残し、後の擦り合わせに

大問ごとのインデックス(如上のタグの集合体)を書き上げるのと同時に、着目すべき箇所や検討が必要と思われる箇所にはコメントをつけておく(紙のファイルなら付箋を貼る)のが好適です。
特に優れた設問(小問や枝問)を見つけたら、高く評価した理由や、教室内外での活用場面などをコメントに残しておくと、後から見る他の先生にとっても大いに参考になろうかと思います。
前項の「個々の問題に対する観点評価」の場合と同じく、ここでの評価理由などにも点検した先生によって小さからぬズレや違いがあります。
そうした食い違いを、話し合いや意見交換の中で解消を図れば、学力観の擦り合わせが進み、より良い学習指導の実現にむけた協働も、方向性を持ったものになり、そのスピードも上がってくるはずです。

❏ 各大問に総合評価を与えて、その後の作業を効率化

ここまでの一連の作業を終えると、各大問が教材として適性を備えているか、どんな場面で活用できるか、明確になってきているはずです。
この段階まで来たら、初期作業(フィルタリング)の仕上げとして、大問ごとに「総合評価」を与えてみましょう。評価区分は、あまり細かくしても意味がありませんので、

授業で是非とも使いたい、“マイルストーン”になり得る良問
教室内外の課題として十分な適性を備える問題
わざわざ時間を割いてまで教室で扱う必要性の低そうな問題
生徒に見せない方が良い問題=悪問(少なからずあります)


といった具合に、4段階程度に分ければそれで十分だと思います。総合評価を記号化しておくのは、個々の検討に入る時に、抽出やソートの手間を小さくするためであるのは言うまでもありません。
Sから順番に吟味や検討を進めて「すぐに使える問題」を指導計画に落とし込むまでの時間を短縮することが大切だと思います。

❏ 授業への組み入れ、扱い方を先生方の話し合いで吟味

それぞれの先生方が担当する問題をひと通り解き終え、総合評価に沿って検討の優先順位を決めたら、他の先生を交えた検討に進みます。
対面で行う時間が取れないときは、電子会議室などを介して、時間と空間を共有せずに進めていく方法もありますが、できれば「対面でわいわい」やりながら進めたいところ。実のある協議になりやすいはずです。
先生方の話し合い/意見交換の中で行う吟味・検討の着眼点は、

  • その問題をどの時期に扱うか、どの生徒を対象にするのか
  • どのような採点基準にすれば、測定項目を正しく点数化できるか
  • 問題に挑ませる前に、どのような事前指導(仕込み)が必要か

といった、授業への組み込み方、指導計画上の位置づけなどです。本当に良い問題なら、個々の先生の判断で取捨選択するよりも、共通指導案に組み込んで、すべてのクラスの学びに活用したいものです。
なお、S評価を与えた大問でも、削除しておいた方が良い小問や、問題に付加して補足した方が良い事柄などもあるはずです。こうしたことも先生方の意見をすり合わせて具体化していきましょう。
別稿「入試問題を授業の教材に使うときに」でも書きましたが、問題に適切な手を入れて(加工して)から生徒に与えた方が好ましい結果を得ることも少なくありません。
その5に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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