前々稿の発問による理解度の確認 、前稿の小テストによる確認 に続いて、「提出された課題を通して行う理解度の確認」について考えてみたいと思います。
この方法で確かめる「理解度」は「知識・理解が生きて働くものになっているか」に焦点を据えます。言うまでもないことですが、教えたことを生徒が正確に覚え、答案に再現できたことをもって「理解できた」と判断しては、新しい学力観に沿った学ばせ方とは言えません。
2014/05/27 公開の記事をアップデートしました。
❏ 記憶と再現に偏りがちな小テストを補完するために
小テストは短時間で終える都合上、じっくり構成から考えて理解や思考を言語化する(=文字を起こす)のにあまり向いていません。
問われて反射的に答えるタイプの問題ばかりでは、記憶したことを再現することに頭の働きが偏りますので、思考力、判断力、表現力といったところまで踏み込んだ確認はできません。
教室での学びを通して得た「知識や理解」「気づき」を携えて課題にじっくり取り組み、答えを仕上げさせるには、宿題/課題として、教室を離れたところで取り組ませるのが好適です。
自分の答えを仕上げようとする中では自ずと、生徒は「ここまでに得た知識・理解に不足や抜けがないかを自ら確かめる」ことになります。
課題を与えるのは、生徒自身に「理解の確認」をさせることです。
答えを仕上げるのに必要な知識や理解などの不足に気づけば、自ずとそれを補おうとします。考える、調べる、質問するといった行動を重ねる中で、学びは深く確かなものになっていきます。
授業内では、そこまでの理解を整理したり、まとめ上げる方針を考えたり、それを周囲と話し合って足りないものを補ったりすることに止め、仮のアウトプットを経たら、後は自宅や自習室で取り組ませましょう。
❏ 課題の添削、仕上げ直しは生徒自身の手で
前回の授業で準備・前提を整え、今日の授業で仕上げていく予定の課題を課したら、事前に回収して目を通しておきましょう。ざっと目を通すだけでも、理解の濃淡/不明の分布を把握することができます。
抜け落ちていたところは、その日以降の指導で補っていく必要がありますが、すでに十分な理解・定着が図られている部分に時間をかけるのは無駄というもの。生徒も退屈して集中力を欠くばかりです。
課題は回収したからと言って、必ずしも教員が採点・添削して返す必要はありません。目を通したら生徒の手元に戻し、授業内で学びを深め/広げた後に、生徒自身に仕上げ直させる(更なるブラッシュアップに挑ませる)方が、よほど学習の成果は大きくなります。
先生が丁寧に採点・添削しても、生徒が「何点もらえたか」しか気にしないことも少なくありません。先生方が手間をかけることが却って生徒から「どうして間違えたのか、どうすればより良い答案になるのか」を考える(=メタ認知を形成する)機会を奪っていることもあります。
❏ 課題に挑ませる前に、準備が整っているか確認
課題にじっくり取り組ませることで、獲得させた知識・理解がきちんと生きて働くものになっているか確かめるにも、生徒側での準備が整っていない状態で「さあ、頑張れ」では、生徒は返り討ちに会います。
どうして良いかもわからず、答えが作れない自分を突き付けられるのでは、学びに対する自己効力感も失い、その科目の学びから遠ざかりたいとの気持ちを膨らませるばかりです。
授業を設計する段階から、「学び終えたときに挑ませる課題」を明確に設定しておき、その解決に必要なパーツは、授業内外の学習活動できちんとカバーするようにしなければなりません。
答えを作るのに必要なパーツをしっかり洗い出した上で、どんな学習活動を通してそれらを獲得させるのがベストかを考えるのが授業デザインです。ここでの「活動」は大別すると以下の3つでしょうか。
- 生徒自身に教科書や副教材を読ませて必要な知を編ませる。
- 問答や話し合いなどを通して気づきを携えさせる。
- それでも足りないところに限って、先生が説明して理解させる。
また、課題に挑ませる前に、そこまでの理解を確かめておきましょう。
課題を与えたら、どのような方針・手順で答えを作るかを生徒に考えさせた後に、隣同士などでそれを話し合わせてみると、足りないパーツの所在にも気づけますし、互いに補うこともできるはずです。
自宅に帰ってからわからないことを見つけ、その解消法を思いつかなかったりしたら、課題を前に何もできません。
❏ 公開添削で、さらに深いところまで理解を確認
先ほど、「課題を提出することで、理解の確認を最初に行うのは生徒」と書きましたが、自分の作った答えに対して無批判に納得していたら、わかっていないこと/より良い答えが存在することに気づけません。
結局は、わかっていないこと/思慮の足りないところに気づかず、そのままにしてしまうということです。
先生が添削するだけでは、生徒は添削結果を「答え」として受け取ってしまい、そこから先のさらに深い学びに展開しにくいものです。
別稿「生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)」で書いた通り、生徒が提出した答案/課題を材料に使い、生徒間に相互啓発をしっかりと働かせることが大切です。
幾つかの答案をサンプルに、公開添削を行う中で、良いところ/改めるべきところを挙げさせ、どう直せばより良い答案になるかを問い掛けて言語化させていけば、理解の度合いや思考の深さ・広がりを改めて把握することもできるはずです。
その上で、改めて「自分の答えの仕上げ直し」に挑ませて再提出させれば、公開添削という活動自体の中で得た理解や、そこでの学びの成果を確かめられるのではないでしょうか。
先生が用意した「模範解答」にどれだけ近いかを着眼点にしていては、新しい学力観の下での理解の確認はできないということです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一