クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その2)

前稿でご紹介したデータが示すように、クラス内にある程度の学力差があった方がクラス全体での学習成果の総量は大きくなるとはいえ、度を過ぎては弊害が大きくなるのもまた事実です。日々の授業で成果を一つひとつ着実に積み上げ、新たな差を作らないようにしたいものです。日々の授業で成果を積み上げる上で問題となるのは、学力差ではなく前提知識の有無です。授業の成否を分けるのは、その科目の総合的な学力ではなく、その日の…

クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その1)

クラス内に生じた学力差を、クラスを分割することで小さく抑えようというのが、習熟度別クラスを導入するときの発想ですが、生徒の理解度に合わせた指導が行いやすいかと思いきや、分割後のクラス内で再拡大する学力差や、下位クラスの学習意欲や自己肯定観の低下といった別の問題を抱え込みます。こうした問題を踏まえてなお、習熟度別、あるいはほかの視点でクラスを分割する方が、生徒が積み上げる学習の総量が本当に大きくなる…

難易度からの得意/苦手の意識が受ける影響

教材や課題の難易度が上がるとその科目への苦手意識が膨らむのは容易に想像できますし、実際のデータでも確認できます。しかしながら、苦手意識の発生には様々な要因が絡み合っており、目標水準を引き上げたからといってそのまま苦手の拡大に直結するわけではありません。以前の記事「活動性を高めて苦手意識を抑える」でデータを示してお伝えした通り、授業内活動には苦手意識の発生を抑える効果があります。教え合いや学び合いを…

主体的・対話的で深い学び~どこまで実現したか #2

新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を図る中で「主体的・対話的で深い学び」がどこまで実現できたか測定することは、これまでに重ねた授業改善に向けた行動の妥当性を検証し、効果を挙げてきた優良実践を抽出するために欠かせません。今後のさらなる改善に向けて、どこに次の一歩を踏み出すべきかの判断をするにも欠かせないデータの一つになるはずです。授業者としての行動/活動の配列などに視点を置くことも大切でしょうが、…

主体的・対話的で深い学び~どこまで実現したか #1

現場で頑張る先生方が「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指して様々な工夫を凝らし、日々の授業改善に取り組んでおられる様子に大いに刺激される今日この頃です。このキーフレーズを定義し直し、構成要素ごとに到達段階の指標を書き出せれば、新しい授業観にそった学ばせ方の転換がどこまで進んできているかの検証もできそうです。 2018/06/19 公開の記事をアップデートしました。 ❏ 検証の指標は、授業者では…

評価スキルの獲得とメタ認知の向上~思考・表現力を養う

高校教育でも、その先の大学教育や社会生活でも、思考、判断、表現の力が今後ますます重視されていくことには間違いなさそうです。思考力や表現力(加えて判断力)を効果的に鍛えるには、振り返りの正しい方法、言い換えれば評価スキルを身に付け、メタ認知を高めていくことが「前提要件」ということになります。これらは、「勉強を好きにさせる学ばせ方」にも通じるアプローチだと思います。 2018/02/19 公開のまとめ…

評価規準は使いながらブラッシュアップ

別稿では、必要な事柄を正しく記述したシラバスであれば、学習者に熟読させることで到達目標の達成が容易になるとのデータを示しました。同じことは、英語のCAN-DO List や活動評価のための基準表、あるいは記述問題の採点ルーブリックについても言えます。 2017/04/05 公開の記事をアップデートしました。 ❏ 目標の共有、課題形成、メタ認知 評価規準は、目指すべき到達状態を記述したものですから、…

論述問題対策の前段階~要約の練習(後編)

答えが一つに決まらない問題や、多量の文章や資料を読ませて、そこで理解したことを元に思考させ、その結果を論述させる問題が増えてくる中、その前段階である要約についても、しっかりと力をつけさせておく必要があるのは、前稿で申し上げた通りです。要約力の向上には、先生方による添削も重要でしょうが、いつまでも隣にいてあげることもできません。生徒自らが、より良い要約にするには何が必要かを見つけ出せるようにしてあげ…

論述問題対策の前段階~要約の練習(前編)

新課程への移行で、思考力、表現力、判断力の重要性が高まりました。読んで理解したことを元に思考を展開し、その結果に他者の理解と共感を得られるよう適切な表現を与える力を育み、評価する手段として「論述問題」を課すシーンも、以前に増して多くなっているかと思います。読んだり話し合ったりして集めた様々な材料(情報、知識、気づき)を土台に、自分の考えを展開する前に、しっかり行わせたいのが、それらの材料を筋道を立…

到達目標は適正な水準にあるか~大学編(後編)

前の記事では、大学で行われる授業評価アンケートで、到達目標の設定が適正な水準にない授業でうけた高い評価を鵜呑みにすることのリスクを指摘させていただきました。目標水準の設定が適正かどうかを確かめる仕組を整える必要があります。既にご紹介した通り、授業の目標を達成できた/できそうかを尋ねる質問と、学習時間を把握する質問とが併存している授業アンケートでは、後者の結果で回答を二分したうえで、前者の回答を捉え…

到達目標は適正な水準にあるか~大学編(前編)

大学生があまり勉強しない――批判的な文脈でよく耳にする話題です。欧米に比べ、あるいは小学生と比べても、学習にかける時間が極端に短いとまで言われる始末。小学生と大学生を一緒くたにするのはどうかと思いますが、それはそれとしてひとまず脇に置いて…。大学からお預かりした授業評価アンケートのデータを見ても、大学設置基準が「標準」とする、授業1回あたり2時間以上の勉強時間を授業外学習に投じている学生の割合は確…

学修時間を延ばすには(大学偏)

大学における授業での「学習時間の延伸を図る方策」について、考えるところをまとめてみました。最初にこの記事を起こしてから10年近くになりますが、現実の教室での状況はあまり変わっていないようです。これまでに、様々な大学での授業評価アンケートのデータを拝見する機会を得ましたが。集計結果を合理的に説明するために立てた仮説から、具体的に採るべき「教室で採るべき方策」も見えてきたところです。 2014/11/…

学修時間を延ばすには(大学偏)(その4)

前稿の通り、発表やディスカッションの機会を用意することは「不明解消」への動機づけになりますが、活動に対する評価の基準を明確にしておかなければ、そこにどう関わればよいか学生が戸惑います。場合によっては、徒に発言数を増やすだけの学生や、相手の発言を受け取らずにあさっての方向に議論を乱してしまう学生も出てきそうです。本人のみならず、周囲の学びも歪めてしまっては一大事でしょう。 2014/08/22 公開…

学修時間を延ばすには(大学偏)(その3)

平均学習時間との間で有意な正の相関が確認される項目には、「わからないことがあったとき、自らその解消に努めているか」もあります。確かに、わからないことがあって解消しなければならなければ、方々を調べてみたり、誰かに聞いてみたりしているうちに、自ずと一定の時間を学習活動に投じますので、両項目間に相関が生じるのも当然です。 2014/08/21 公開の記事をアップデートしました。 ❏ まずは解消すべき不明…

学修時間を延ばすには(大学偏)(その2)

前稿の後半で触れた「ちゃんと課題は与えているのに学習時間が伸びないケース」では、点検してみるべきことが幾つかあります。その最たるものは、学生にとって「課題の達成可能性が担保されていたか」です。課題を解決するのに必要な知識や理解、発想、あるいは参照手段への習熟などが授業の中で十分に整えられていなければ、課題に挑もうとしても、あるいは指示に応えようとしても、躓くばかりです。課題に挑んでも「できない自分…

学修時間を延ばすには(大学偏)(その1)

授業準備(予習)や、復習を含めた事後学習に投じる時間(所謂「授業外学習時間」)の十分な確保は、中高のみならず、大学でも長らく課題とされてきました。特に関心が高まったのは、平成24年に中央教育審議会が「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」という答申をまとめた頃でしょうか。学生による授業評価アンケートで授業1回あたりの平均学習時間を尋ねる項目を追加する大学も多く見られました。以来10年余…

生徒と信頼関係を構築する

生徒から信頼される存在でありたい、というのはすべての先生の思いだと思います。信頼関係は、築くには相手と共に過ごす中での様々な積み重ねが必要な一方、些細なことで崩れてしまう「脆さ」もあります。生徒は、学校生活を送る中で大小様々な問題を抱えますが、そんなときに必要なのは、信頼して相談できる相手(=先生)の存在です。また、周囲から受けた刺激を正しく消化し、「より良い自分/より良い未来」への道筋を描くにも…

教わって知ったことvs気づいてわかったこと

授業のスタイルは実に様々ですが、個々の授業を特徴づけるパラメータの一つに「問い掛けの多さ」があります。教わったことを一つひとつしっかりと覚える努力も大事ですが、学び手の側からすれば、自らの気づきがないものを覚えるだけでは面白みもなく、自分ごととして学びに向かう意欲も維持しにくいかと思います。調べさせたり、考えさせたりして、生徒が自ら気づいてわかったことをどれだけ多く出来るかが問われるところ。調べた…

夏休みを迎える前に(まとめページ)

早いもので今年も半分が過ぎようとしています。夏休みも間もなくですが、年度当初から取り組んできたことがどれだけ成果を上げているかを点検して、秋からの指導に見通しを立て準備を進める重要な時期です。教科担当者として、ホームルーム担任として、あるいは分掌の立場で、それぞれに振り返るべき点があろうかと思います。また、管理職の視点からも学校全体の動きを俯瞰し直してみる必要があるはずです。また、授業改善を確実に…

家庭学習の質と量(深く確かな学びの実現のために)

生徒の家庭学習時間を定期的に調査している学校は少なくありません。中には、平均学習時間について数値で「指導目標」を設定している学校も見かけますが、学年平均を算出するだけだったり、データが指導の改善に有効活用されていないケースも散見されます。「学習時間調査」の目的と方法について、改めてきちんと考えてみる必要がありそうです。 ❏ 目標時間を達成したかどうかで成績などに違いはあるか 当然ながら、授業外の学…