理科の授業では「実験」が欠かせませんが、そこで使用されているワークシートを見ると「うまくいったとき」「予想通りの結果が出たとき」だけを想定した書式になっていることが少なくないように思います。
すべての実験が上手くいくとは限らず、ちょっとしたところで操作を誤っただけで、想定した結果にならないこともあれば、機器の扱いが拙いなどの理由で測定誤差が大きく出たりすることも少なくないはずです。
こうした場面に遭遇したときのことを考えると、狙い通りに事が進んだケースだけを想定したワークシートやその使い方には見直しが必要かもしれません。「失敗」から学べるところも大きくなるはずです。
❏ 失敗を放置し、代替手段で知識の獲得を図らせても
幾つかの手順を経て進める実験を行い、各段階の様子を観察したり、結果を測定したりする場合、手順をどこかで一つ誤ったり、ミスをしたりするだけで、当然ながら、結果は想定と違ったものになるはずです。
これを単に「失敗しちゃった」と片付けては何の学びにもなりません。
失敗を放置しても、教科書や資料集を調べれば正しい結果を知ることはできますので、単元固有の必要な知識は獲得できるでしょうが、何かを確かめるときに必要になる「やり方」を学ぶチャンスは逃します。
失敗したのは何が拙かったのか、どこでどうするべきだったのかを考えさせる必要があるはずです。
失敗の原因がどこにあったのか、どうすれば良いのかを考え出すというのは、問題発見力・問題解決力にほかならず、その獲得を図らせるのは各教科(+探究活動など)における重要な指導目標の一つです。
❏ 想定と違ったこと、誤差が大きいことを知るところから
あちらこちらで授業を拝見していると、班ごとに取り組んだ実験の結果をワークシートに書き込ませるだけで、教科書などに載っている結果や他班が得た結果と突き合わせてみる機会はあまりないようです。
自班の結果が、教科書や他班のものと大きく違っているなら、そこには違いを生じさせた何らかの原因があるはずであり、それを特定しないことには、次に似たような機会があっても同じことを繰り返すだけです。
失敗の原因を究明しないまま、教科書を参照して得た正解で知識を「上書き」して覚えるだけでは、実験を行った意味も薄れてしまいます。
ワークシートに記入した自班の結果を、教科書などと突き合わせるスペースと、両者が大きく違っていたときに、どこでその違いが生じたのかを考えた/話し合った結果を書き込む欄を設けても良いかと思います。
❏ 違いを生じた原因ごとに、そこで学べるものも様々
想定通りの結果が出なかったのには、様々な原因があるはずです。容易に考えつくのは、以下のようなところでしょうか。
- プリント等に書かれている実験の手順をきちんと読まずにいた/理解することができなかった
- 頭で考えていたこと(=理解していたこと)と、手の動きが一致しなかった(器具の使い方への未習熟、不注意など)
- 実験そのものはうまくいったのに、正確に測定できなかった/計算や有効数字の扱いを間違えた
それぞれの場面で、生徒が学ぶべきこともまた違っているはずです。ワークシートには、「どうするべきだったか」まで考えたり、話し合ったりした結果を記入するスペースも設けたいところです。
ワークシートに書かれたことからは、生徒が「失敗からの学び」をどこまで得たかどうか点検できますので、後の指導で気づきを促したり、学ぶべきことをきちんと押さえ直したりすることもできるはずです。
ちなみに、失敗を想定した記入スペースを盛り込んだワークシートは、うまくいった場合に不要な空欄があるなど「肥大化」しがちです。
この対策として、失敗を想定した記入スペースは、ワークシートの裏面に設定するようにしている先生もいらっしゃいました。
たしかに、この方法なら、実験がうまくいった(正しく行えた)場合は表面だけでスッキリとまとまります。ちょっとした工夫で、学びやすさや学びの記録の残しやすさが各段に向上しそうです。
本稿で取り上げたのは、理科などの授業での「実験」ですが、総合的な探究の時間の本格スタートで、生徒が調査や検証の方法を考え、それを実行してみる場面は他にも増えてくるはずです。
そうした場面でも、予想と違う結果がでてしまい、どうしたものか生徒が立ちすくむようなこともあろうかと思います。
アンケートの調査でも期待したような回答分布にならなかったり、仮説を検証するための実験で想定外の結果がでてしまった場合などです。
仮説を放棄して最初からやり直す前に、「正確な結果が出なかった理由がどこかにあるのでは?」と考えてみて、調査・検証のより良い方法を工夫してみることの中にも大きな学びがあるのではないでしょうか。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一