定期考査の出題計画作りで、指導目標の確認と目線合わせ

新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を図るべく、様々な場面で工夫が重ねられる中、どのような学力を獲得させていくのか、時々は立ち止まって、周囲の先生方との間で確認と目線合わせを行いたいところ。
確認と目線合わせと言っても、あれこれ話し合ってみるだけでは、議論が空回りしたり、具体的なところを共有できなかったりします。そこで採り入れてみたい活動が、教科会や学年教科で行う「定期考査の年間出題計画作り」とそれに沿った具体的な「問題素案の起草」です。

❏  測定する(=獲得を図る)学力を、問題の形で具体化

考査問題をどんな内容と構成にするのか、各回の出題を素案として具体化してみれば、「測定する学力=指導を通して獲得を図るべきところ」も明確になり、担当者間に残っていた学力観のズレ(あるいはそれに起因する共通指導案の解釈の違い)の解消も進むのではないでしょうか。
考査で測定する学力(知識や技能、基礎力や思考力)を先に決め、それを「核」に、授業計画や各授業に組み込む学習活動を考えるようにすれば、指導から評価の流れに筋の通ったストーリーが作りだせます。

また、先生方が同じ方向を向いて(=同じ学力観の下で、解釈を共有した指導目標で)それぞれに指導法の工夫を重ねた成果も、共通のモノサシ(=出題方針を予め共有した考査問題)で測定・比較ができます。
その結果で所在を特定した「より大きな指導成果を得た授業」の工夫を実践報告や相互参観で共有すれば、さらなる改善の土台も築けます。

❏  指導方法を考える前に、目標と評価方法の確認

定期考査の問題は、指導期間の終わりに近づき、試験期間に入るところで作成するのが「普通」でしょうが、ここでご提案するのは、指導期間に入る前に定期考査の問題を予め作るという、普通とは逆の手順です。
考査問題を予め作っておけば、授業を通じて生徒にどんな知識や技能を獲得させ、どんな思考や表現ができるように生徒を導くのか、具体的なイメージが持てますし、複数の先生が担当する場合に、そのイメージを共有することもできます。
作ってみた「試案」を前にすれば、思考の要素が足りないとか、表現力を試す問題を増やそうといった点検や議論も容易になります。
どんな問題で評価を行う/点数をつけるのかを決めるのは、取りも直さず、どんな学力の獲得を目標に指導を進めていくかを決めることです。
指導の方法/学ばせ方を考えたり議論したりする前に、目標と評価方法の確認をしっかり行いましょう。この順番が逆になると、指導法の選択も恣意的/場当たり的なものになりがちです。
出題が決まれば、学ばせ方も自ずとそれに沿ったものになるはず。考査問題を予め作り、先生方の間で十分に揉んで行く(検討や議論で改善を重ねる)中で、学ばせ方の方向を定めるというのがここでの趣旨です。

❏  記憶再現型からコンピテンシーを測る問題への転換

言うまでもありませんが、習ったことを覚えて答案上に再現すれば丸がもらえるような問題ばかりで考査問題が構成されていたら、予め問題を作ることは何を教えて何を省くかという線引きにしかならず、高い確率で「ただのテスト対策のための授業」に堕してしまいます。
高大接続改革以降、「習ったことを覚えただけでは通用しない問題」も多く見かけるようになりました。これに合わせて日々の学びや定期考査も変わるべきだと思います。

教えたことを問うだけでは、試せるのは「覚えたかどうか」だけです。正解しても、きちんと理解しているか、知識や技能が生きて働くものになっているか定かではありません。
生徒にとって初見の問題文や資料を用意し、授業で学んだことを活用してその場で解法や答えを考える問題を一定の割合で課す必要があるはずです。(cf. 考査問題に使う初見材料をどこから調達するか
少なくとも、こうした主旨で課す問題だけは、指導期間が始まる前に作り込んでおく必要があろうかと思います。コンピテンシーを測るための問題は、事前に授業で扱わないようにする必要がありますが、どの問題を考査に出すか決めておかないと、そうした運用も徹底できません。

❏  新たな文脈を与える/初見の材料を用いる

同じ知識・理解を問う問題でも、授業で扱った時と違う文脈(別の例文や条件設定など)を与えれば、その知識・理解が「生きて働いている」かどうかを確かめやすくなります。
授業で教えていないことを試験に出すことに不安や躊躇いを感じる先生もいらっしゃるかもしれませんが、その不安や戸惑いを断ち切らないと新しい学力観に沿った指導や評価への転換は図れません。
生徒は、先生方が作る定期考査に合わせて勉強のスタイルを確立していきます。如上の「新しい学力観に沿った問題」を定期考査で課すことで生徒の学びに正しい方向性を与えることもできるはずです。
初見材料を用いる場合、生徒の既得知識が追い付かない部分が含まれて当然ですが、知識や理解の不足は、問題中に「説明」を与えて、それを読ませ、理解と活用を求めれば、学習型問題への対応力を高めるとともに、その力を身につけることの必要性を学ばせる効果も期待できます。
新しい学力観に沿った定期考査への転換を図るとなれば、「正解が一つに決まらない問題」も、積極的に出題に含みたいところです。
この手の問題では、合理的な採点基準を構築できるかどうかがネックですが、事前に素案を作って協議を重ねないと、採点基準も付け焼刃なものになる上、基準作りのノウハウも蓄積されにくくなります。

❏  問題案に加えて、配点や採点後の処理もしっかり検討

定期考査の出題内容を、指導期間が始まる前に検討しておく(可能ならば、問題案を作り上げておく)必要があるのは、既に申し上げた通りですが、併せて以下の事柄もしっかりと検討しておきたいところです。

  • 学んだことをきちんと理解して覚えたかを試す問題と、それらが十分に生きて働いているかを試す問題を、どんな割合にするか(配点)
  • 記述問題、論述問題における採点基準(観点をいくつか設け、それぞれに段階的な評価規準を設けた「採点ルーブリック」を活用)
  • 得点集計の方法(学力要素ごとに各生徒の得点率や各クラスの正答率を算出しないと、各々が抱える学習上の課題を特定できません)
  • 考査の結果から、優良実践(大きな指導効果を得た授業)を抽出し、そこでの手法を互いに学ぶ仕組みと機会(先生方の振り返り)

コンピテンシーを測り得る「新しい学力観に沿った出題」も、配点が小さ過ぎては、学習成果を測る分解能(解像度)が不足します。生徒の学びに方向性を与える機能も、「この問題、配点も小さいから捨てても良いよね?」となっては、所期の効果は得られないでしょう。
採点基準にしても、完成度を高めるには十分な時間を掛けた議論と調整が必要なはずであり、考査期間を迎える前に、日々の課題の評価に転用してみることで、その合理性や実用性を点検しながらブラッシュアップを図るべきです。定期考査が近付いて慌てて起こすのでは泥縄です。
また、先生方の創意と工夫で、大きな指導成果を得る手法が作り上げられても、それを個々の先生の内に止めてしまっては、教科/学校全体での授業改善は加速しません。学力要素ごとにクラス間での比較ができる状態を整えておきましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一