いよいよ、この4月からの新課程で「総合的な探究の時間」が本格的に始まります。既に2019年度には先行実施が始まっていますが、これまでのところ、学校ごとに取り組みはまちまちのようです。
指導を行う以上、きちんとその効果を測定し、「良いもの(効果をあげた働きかけなど)は教員間で共有するとともに、継承したものを土台に更なるブラッシュアップを図る」「改めるべきところは遅滞なく改善を図り、問題を残さない」ようにすることが大切です。
言うまでもありませんが、評価(=効果測定)は様々なツールを用いて多面的に行うもの。個々の生徒の成果や取り組みをルーブリック(観点別の段階的評価規準群)に照らして評価したり、ポートフォリオに残されたログを解析したりすることに加えて、「生徒自身に尋ねてみないと判らないところ」はアンケートなども併用する必要があります。
❏ 指導期間を挟んで生じた差分が「指導の効果」
各教科の学習指導にしろ、進路指導にしろ、指導の成果は指導を行った期間の前と後を比べたときに観察される「差分」(生徒の行動や考え方などの変容)に現れます。
探究学習のプログラムが始まる前と、一連の指導を終えた後で、同じアンケートに答えさせれば、回答分布の違いからプログラム/指導の効果を推し量ることができるはずです。
指導を始める前(4月ですね)には、最初のアンケートを行っておかないと、中間や最終でのデータとの比較ができないということですが…。
質問文は、探究活動を通して獲得させたい能力・資質や姿勢などに焦点を当て、生徒を主語とするセンテンスで起こすことになります。
質問文に対して{よく当てはまる~当てはまらない}などの4~5択でシンプルに答えてもらう方が後の解析が楽です。
アンケートの実施時期ごとの回答を保存しておき、その分布を回次間でクロス集計して残差分析を行えば、有意差が生じているかどうかの検定もできます。
やろうと思えば、前年度までの「先行実施」で行ってきた指導と比べた場合の今期の指導の改善度や、各担当者の工夫がもたらした成果の違いも調べる方法だってあります。
❏ どんな観点でアンケートの質問文を起こすべきか
探究活動が目的とするのは、自分を取り巻く世界に、いまだ解明されていないことや解決策が未確立の問題を見つけて、解明や解決に取り組むことを通し、新たな知を創造する方法と姿勢を身につけることです。
その上で、それらの課題に自分はどう向き合うのか/どんな接点で社会に関わっていくのかを考えることもまた、重要な目的の一つでしょう。
自己の在り方・生き方に照らし,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、自ら問いを見いだし探究する力を育成することが「総合的な探究の時間」の目標ですから、以下のような質問に対して、肯定的な答えを選ぶ生徒が増えてきたら、指導は目標を一定のところで達成したと言えそうです。
- より良い社会の実現に、未来の自分ができることが何かあると思う。
- 自分の進路や将来の夢などについて、家族や友人に本音で話せる。
- プログラムに参加する前と比べ、自分の進路を具体的に考えるようになった。(中間、最終)
新課程の土台になった「21世紀型能力」でも、「社会参画力、持続可能な未来への責任」は「実践力」の構成要素の一つです。
また、生徒が自ら、自分事としての課題を発見・解決していくことも目標ですから、こんなことも訊いておき、どれだけ回答に変化があるか、しっかりと追跡したいところです。
- 社会問題などに関心を持って、新聞を読んだりニュースを見たりしている。
- 興味を持ったことは放置せず、自分から調べたり聞いたりして深く知ろうとしている。
- 見聞きしたことは鵜呑みにせず、信ぴょう性(事実かどうか)を確かめようとしている。
- 身の回りのことに問題を見つけたら、その解決に自分や社会に何ができるか考えている。
学びに向かう姿勢や、そこで必要とされる学習方策の獲得を図ることも大切な目標でしょう。となれば、この辺りもきちんと訊くべきです。
- 難しい問題にも諦めず、どうすれば良いか粘り強く考えられる。
- テーマを決めて広く調べたり、深く考えたりするのは楽しい。
協働で課題の解決に向かう場面でのふるまいなども身につけさせていきたいところですし、そこで働く相互啓発が生徒の成長を促すことも狙いの一つではないでしょうか。
- 自分の考えや意見を、他の人にきちんと伝えたり説明したりすることができる。
- 周囲の人と協力して目的を達成したり課題を解決することを楽しいと感じる。
- 考え方や意見の異なる人とも、議論を投げ出さず、建設的に話し合いができる。
- 他の生徒の発表や取り組みに刺激を受けて、自分の行動や考えも変わった。
また、プログラムそのものに生徒が魅力を感じ、積極的にかつ楽しく参加しているかどうかも大切です。生徒募集の段階で、自校の「特色ある教育活動」について周知を図り、期待を十分に高めておきましょう。
- 探究学習のプログラムに参加できることを楽しみにしていた。
- 各プログラムには、目的意識を持って、積極的に参加してきた/取り組んできた。
- プログラムに参加中の悩み事は、先生方や周りの仲間と相談して解決できていた。
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❏ ルーブリックやポートフォリオもきちんと併用
冒頭にも書きましたが、指導の効果測定は様々なツールを用いた多面的な評価の結果を用いて行うものです。アンケートだけでどうにかしようとしても、評価できないところがあちらこちらに残り、効果測定も偏りと抜け落ちの多いものになってしまいます。
探究活動では「テスト」は評価に使いようがありませんが、ルーブリックを用いた観点別の評価(成果や観察可能な行動について)やポートフォリオに残されたログを用いた評価もきちんと併用しましょう。
ルーブリックに照らした評価の結果を用いる場面
探究テーマを選ぶとき、リサーチクエスチョンを立てるとき、検証法を考えるときなどの探究活動を進める中での各フェイズでの生徒の取り組みやその成果を評価するには、観点別に段階的な評価規準を設けて作るルーブリックを利用します。
例えば、探究テーマを選ぶフェイズであれば、別稿「探究活動の目的から考えるテーマ選び」などで申し上げたことを踏まえて観点を定めることになるのではないでしょうか。
各観点における「評価A」の規準は、それぞれについて生徒に求めたい/期待する行動を書き出すことで作ります。ちなみに、評価Aに少し足りない状態を記述したのがB規準、だいぶ遠いのがC規準です。
指導を始める前と、指導を進めた中間期、指導を終えた後で同じルーブリックを用いた評価結果を比較してみれば、その分布の変化に「先生方の指導の成果」が現れているはずです。
ポートフォリオに残されたログを材料とする場面
ポートフォリオに残された各種ログを材料に、指導の効果を測るには、そこに現れた「好適な記述」(指導を計画するときに期待していたことが実現したことを伺わせるもの)をカウントするという手もあります。
言うまでもありませんが、指導計画を立案するときに、指導機会を経て生徒にどんな気づきを持ってもらいたいか、どんなことを考えてもらいたいかを明確にした上で、指導に当たる全ての先生がそれらを共有しておく(目線を合せておく)ことが重要です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一