同じ教材を使って同じように教えているのに、模試や考査での成績分布に違いが出たり、授業評価アンケートの集計結果がクラスごとに大きく違ったりすることも珍しくありません。
学習者がこれまでに身につけてきた「学び方」と、先生方が授業で実践している「学ばせ方」のマッチングの度合いによって生じた違いです。
テストなどの成績、観察を通した行動評価やアンケートの集計結果、ポートフォリオに残った様々なログなどを手掛かりに、集団/個人の学習者特性を「多角的」に把握することが、深く確かな学びを広く実現させるための前提です。
2017/10/06 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 学習履歴によって学びのレディネスに違いが生じる
生徒は、それまで自分が受けてきた様々な授業の中で、学習観を作り、それに応じた学習方策を身につけてきています。
自分の学び方を、教えてくれる先生のやり方に合わせて、無意識のうちにアジャストしてきた、ということもできそうです。
また、学習を通じて積み重ねてきた成功体験、特に不明が生じたときに自力で克服した体験の量によって「負荷耐性」も異なります。
様々な背景や学習履歴をもった生徒が構成するクラスでは、集団としての特性も異なる以上、教え方・学ばせ方というインプットが同じであっても、それに対する反応/アウトプットが異なるのは当然のことです。
前年度までの担当クラスでは上手くいった方法も、学習者特性の異なる新たな集団に対しては、アレンジ/アジャストが必要になります。
❏ 成績だけを見ても、クラスの特性は把握できない
テストの成績などの「結果学力」でクラスを分けたとしても、教室にいる生徒が学習方策や負荷耐性を一様に身につけているとは限りません。
定期考査の成績で習熟度別にクラスを分けても、入試のスコアで合否を分けても、そこでの出題が測定した結果学力(知識・理解とその活かし方など)以外は何も把握できていないと考えるべきだと思います。
成績良好な生徒の中にも、教わったことをきちんと覚えるだけでここまでやって来た生徒もいれば、やり方を工夫してこれからの学びに必要な方策や姿勢を獲得している生徒もいるはずです。
学習行動の観察や授業評価アンケートの結果なども併用して、集団としての学習者特性を多角的に把握しないと、効果的な学びを実現するための「学ばせ方のアジャスト」ができません。
当然ながら、学習方策や学びの姿勢に改めるべき点を抱える生徒がいたら、個々にその獲得を図らせる支援策を講じる必要もあるはずです。
特に、年度替わりで新たな生徒を迎え入れたときは、「集団としての学習者特性の把握」にいち早く取り組むべき場面です。
❏ 学ばせ方のひとつひとつにアレンジが必要
例えば、同じように学習目標を示しているつもりなのに、授業評価アンケートで尋ねた「先生は学習目標や取り組み上のポイントをきちんと示してくれる」への回答分布がクラスで全く違うこともしばしばです。
解くべき課題を導入フェイズで示すだけでうまく行くクラスもあれば、少し考えさせただけでは十分な効果が上がらず、改めて先生の側で目標を言語化して確認させる必要があることもあります。
理解の確認にしても、教室全体に問いを投げかけて、反応の様子を伺うだけで十分なこともあれば、生徒一人ひとりに理解したことをしっかり言語化させるべきクラスもあるはずです。
板書を使った視覚での理解補助/知識の固定を必要とする度合いもクラスによって大なり小なり異なります。
そうした支援をあまり必要としないクラスで過剰に丁寧な指導を続けていては、学びにブレーキを掛けますし、必要な相手/場面で端折ってしまっては、置いてけぼりを食らう生徒が続出です。
教え方・学ばせ方には、外せない「鉄則」もあれば、学習者の集団としての特性によって左右される部分もあるとお考え下さい。
❏ クラスの特性を知るには「相対化」が不可欠
集団/個人の学習者特性を知るには、相対化が大きな助けになります。あるクラス/生徒だけを見るだけでは重大な見落としも発生します。
他のクラスや前年度の学年との相違や、平均値からの乖離などは、違いの存在を示唆する貴重な資料です。違いが生じていることに気づけば、その原因を探り、有効な対策を講じる「入り口」に立てます。
例えば、授業評価アンケートを行っている学校でも、クラス間の比較ができない集計方式を採っているケースがありますが、これでは「集団としての学習者特性の把握」に必要な相対化に利用できません。
もし、現状でクラス間、学年間の比較を行えないようなら、集計方法を早期に改めるべきです。また、一つ上の学年の1年前との比較も必要です。経年的に蓄積したデータが参照できるでしょうか。
相対化のために把握すべきは、授業の進め方/学ばせ方にアレンジの必要が生じ得るところすべて、と言いたいところですが、いっぺんにやろうとしても無理がかさみます。まずは優先順位の高いところからです。
- これから学ぶ単元の理解の前提となる既習内容の定着・習熟
- その科目に対する自己効力感(≒得意・苦手意識の分布)の度合い
- 好ましい学習方法(授業準備や復習のやり方など)の獲得
といったところは外せません。それぞれに応じた方法(成績データ、アンケート、行動観察、これまでに蓄積したリフレクション・ログなど)で把握を急ぎましょう。
教えているときの手応えや直観だけで、状況を正しく捉えきれる保証はありません。「予測と観測結果の乖離」に気付くことは、生徒を観察する目を更新し、その精度を高めるのに欠かせないことのひとつです。
別稿「勘に頼らず、データに偏り過ぎず」で書いた通り、直観を磨くのは客観的なデータとの照らし合わせの中でこそ可能だと思います。
❏ はじめてのクラスでは科目への意識を質すところから
初めて教えるクラス/生徒に対しては、まずはその科目(あるいは生徒がそれまでに履修してきた関連性の高い教科・科目)への得意/苦手意識を尋ねておきましょう。
「とても得意」から「とても苦手」の4~6段階程度の選択肢を用意するだけでも、参考になるデータが取れますし、個々の生徒がどう答えたか知っておけば、その後の生徒観察にも視点を持ちやすくなります。
得意/苦手の分布をクラスごとに把握(可能ならば前年度の学年と比較も)すれば、別稿「負荷を抑えて「できた気」にさせてしまうことのリスク」で書いたような事態も避けやすくなります。
蛇足ながら、得意/苦手の意識は、学びの成果のたな卸しが進んだり、課題解決における達成感の積み上げで変化してくるため、定期的に状況を把握しないと、調整のタイミングを逸します。
学期ごと、単元ごとといった節目で「定点観測」を行い、経年的にデータを蓄積しておけば、苦手の増大などのリスクに対する先回りもでき、どんな指導が科目への自己肯定感を高めるかの知見も得られます。
まもなく新年度です。新たな生徒を教室に迎えると「これまでに続けてきた観察による生徒理解」に頼れないことは言うまでもありません。
課題を与えてどう取り組むかを観察したり、最初の数週間を経たときにミニアンケートを行ったり、前年度までの成績データやポートフォリオに目を通したりといった、あらゆる手段を講じて、生徒の状況をいち早く、多面的に把握して、円滑なスタートと実りの多い学びの実現を図りましょう。(授業開き/オリエンテーション)
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一