前稿に引き続き、教科書や資料を読むことを起点とした学習活動について考えてみます。読んで理解すること(=文字を介した先人/作者との対話)のは学びの基本ですが、活動に取り組んだ中に「何かの進歩」を実感できる仕掛けがあると、活動へのモチベーションは一層高まるのではないでしょうか。
読むという活動は、英語や国語といった言語系の教科に限ったものではありません。理科や地歴公民の教科書や資料を読みますし、数学だって解答を「読む」ことができるようにならなければいつまでたっても自学自習は不可能です。参照型教材を使いこなすのも読む力が前提です。
2015/01/23 公開の記事をアップデートしました。
❏ 問いを与えて教材を課題化することが活動の起点
文章をただ読んで、そこに書かれたことを何となく分かったというのでは、読みに深まりはなく、「正しく読めた」という手応えを得ることもなさそうです。達成感が希薄な状態であり、次に向けたモチベーションや挑戦欲がかきたてられることにはなりそうもありません。
教材はそのままではまさに「教えるための材料」に過ぎませんが、ひとたびそこに「問い」を加えると「解決すべき課題」に変貌します。
資料を読ませたり、説明を聞かせるときも、答えるべき問い/解決すべき課題があるからこそ、情報を集めて知に編むときの「焦点」を持てます…。(導入フェイズで問いを与えるところから)
これを「教材の課題化」と言いますが、そこで付与した問いが学習目標の提示や学びの仕上げにも使えるのは、別稿「学習目標は解くべき課題で示す」や「答えを仕上げる中で学びは深まる」で書いた通りです。
自分の読みが正しかったことも、作った答えを模範解答や採点基準に照らしてみて確認できます。これが確かな手応えとなり、科目の学びへの自己効力感や更なる挑戦意欲に繋がっていきます。
読むという活動を盛り上げ、成果に繋ぐには如上の「教材の課題化」がきちんと行えていることが大前提になるということです。
❏ 読んだ中に設問を立てさせる
しかしながら、先生方が与える発問や教科書会社が用意していた設問が生徒一人ひとりの興味や関心(琴線?)に触れる保証はありません。
また、教材以外の、設問が与えられていない「普通の文章」(文献や作品、記事なども含めたもの)を読むときに、漫然とした受動的な読みに戻ってしまっては元も子もありません。
日々の授業、教室の内外で「生徒に問いを立てさせる」ことを繰り返す中で、書かれていること/与えられた情報に対して自ら問いを立てられる生徒を育てていくことも重要な指導目標の一つです。
英語や国語に限らず、地歴公民や理科でも、保健でも家庭でも、教科書を読ませたら、ポイントになりそうなところを探させてみましょう。
時には生徒間で設問作りを競わせてみるのも好適です。周囲の生徒の読み取りや着眼は刺激となり、相互啓発を学びの場にもたらします。受験対策としても、出題者の意図を見抜く練習にもなりそうです。
グループで問いの案を出し合いながらベストの一問を仕上げさせることを定常的に行っている国語の授業では、参観していて「おおっ」と感動させられるような問いを生徒が立てる場面をしばしば目にします。
気の利いた問いを立てるのは、生徒にとって決して低くないハードルです。最初は、問いが立ちそうな部分を見つけて傍線を引いてくることから始めても良いと思います。どのような問いを立てたら、聞き出したいことにしっかり焦点を当てられるかは、その次の段階でしょう。
❏ 解説が書かれている場面で余計な説明はしない
外部模試のたびに「解答と解説を熟読しなさい」と指示をなさっているかと思いますが、日々の授業の中でも教科書に書かれていること(例題の解説なども含む)もきちんと生徒に読ませましょう。
もともと読んでわかるように書かれたものなのに、先生が不用意に解説してしまったら、受動的・依存的な学習姿勢を強めさせるばかりですし、やらせなければできるようになりません。
生徒にできる(ようになるべき)ことを「不用意に肩代わりしない」のは指導における鉄則の一つ。説明したくなる気持ちを抑えましょう。
ただし、「生徒に読ませる」だけでは、肝心なところに気づかず、読み飛ばしていながら、理解できた気になっている生徒も出てきます。これを放置しては、学びは穴と綻びだらけになってしまいます。
先生からの問いかけで、理由や解釈を掘り下げ、本当にわかっているか確かめましょう。問い掛けられて得た気づきの蓄積が、解答や解説を正しく読める力、ひいては答案を適切に作れる力を養っていきます。
❏ 教科書の記載を、2次元平面に展開して再構成させる
理科や地歴公民の教科書だって「読むこと」の対象です。書いてあることを分解・再構成することなく、マーカーで色を塗っているだけでは、ポイントを押さえてしっかり読んだことにはなりません。
文章で与えられる情報は、基本的には一行に延々と並べ得る「直線的」なものです。発話し、聞き取る情報と同じ構造であり、分岐や階層といった構造(項目間の連関)は明示されていません。
これを平面上に展開させる練習を重ねさせて、全体を構造化し、それぞれの項目の意味や相互の関係を把握できるようにしていきましょう。
情報収集と情報整理に関わる「読み手のスキル」を高めることに通じますし、協働の場で重宝される「ファシリテーション・グラフィック」の技法の獲得も期待できます。
最初は語句の抜出や箇条書きが精いっぱい、情報の分解と列記に止まるかもしれませんが、表組を使った交差分類、カラムを使った比較対象などの手法を、板書を通じて繰り返し見せつつ、手を動かす練習を重ねていけば、生徒は徐々にそれらを自分のスキルとして獲得していきます。
フレームを事細かに指定して、項目を埋めるだけでは、指示に従った事実だけが残り、方策の獲得、スキルの向上という成果は得られません。
それぞれの生徒が整理した結果(成果品)を互いに見比べさせれば、情報整理の手札を大きく増やしていくことも可能です。誰に教えられるわけでもなくマインドマップ的な手法を見つけ出した生徒だっています。
読んだことを分解・再構成するのは高度なスキルであり、獲得までにはかなりの時間を食うと思いますが、日々の授業の中で少しずつ、継続的に練習の場を作ってあげることが肝要です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一