昨日の記事に引き続き、生徒を指名して発言させる場面について、その目的に立ち戻りながら、より良い方法を考えていきたいと思います。
クラスの全員に発言の機会を与えることで、能動的に学びに関わらせたいというせっかくの意図も、やり方・手順を誤ると、意図していたのと違う結果を招きかねないことは既にお伝えした通りです。
本日は、もう一歩、根源的なところに立ち戻り、「なぜ、生徒に発言させるか」を少し掘り下げてみたいと思います。
2015/11/02 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 生徒に発言させることによって得られる効果
そもそも、生徒に発言させることの目的は何でしょうか。「黙って聞いているだけでは退屈そうだから、とりあえず何か言わせてリフレッシュさせよう」というのは違うでしょうし、本来の目的にも沿いません。
発言させることの目的や、そこから得られる指導上の効果を思いつくままに並べてみると、すぐに思い浮かぶのはこんなところでしょうか。
理解把握 | 教える側で、生徒が考えたことや、理解している範囲がどこまでかを把握できること |
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思考整理 | 理解したこと、考えたことを言葉にする機会、それまでの学びを振り返る機会を作ること |
相互啓発 | それぞれの生徒がもつ知識や気づきをシェアすることで課題解決(より良い答え)に近づくこと |
多様性理解 | 自分と異なる発想や考え方に触れて、様々な立場・意見があることに気づくこと |
ひとつの発言の場が、上の幾つかに同時に当てはまることもしばしばでしょうし、少し視野を広げてみるだけで、他にもまだ出てきそうです。
生徒に発言させようとしているとき、少し立ち止まって「この場面で満たそうとしている目的はどれか」を俯瞰的に考えてみると、「指名して発言させる」以外のより良い選択(方法)を思いつくかもしれません。
❏ 指名→発言のパターンだけでは効率も悪い
発言させることの目的、狙った効果が何かによっては、「発言」以上の効果を持ち得るほかの手段もありえます。「弊害のコントロール」のしやすさも加味して、どれを採るべきか、判断しなければなりません。
理解の確認(特に既習内容など)であれば、対話の中でテンポよく進めた方が良いのは別稿でも書いた通りですし、返ってきた答えに次の問いを繋ぐのも、問い掛け→指名→発言の流れの中で行うのが最善です。
しかしながら、誰かを指名して発言させるやり方が、前掲(+その他)の目的のすべてについて、常に最も効率的というわけではなく、むしろ望まない副作用の可能性をはらんでいることも少なくありません。
教える時間、生徒が考えたり作業したりする時間、誰かが発表(発言)する時間が仮に3分の1ずつを占めたとしても、ロスタイムを加味すれば、1回の授業のうち発表・発言に割ける時間は15分ほどでしょう。
40人の生徒で割れば、一人15秒にもならない短さです。比率を増やしたところで、1分を大きく超えることはなさそうです。
この短時間では、「まとまったことをきちんと言葉にさせる」のは難しいかと…。ましてや、発言に対して必要な評価やフィードバックを行うのは到底無理だと思います。
他の生徒が発言しているときは、耳を傾けて分析的に理解し、その上に自分の考えや意見を組み立てる練習する(=傾聴と批判的思考のスキルを獲得させる)場面でもあり、聴いた後の時間も必要になります。
思考の言語化に丁寧に取り組ませるのに「指名して発言させる」というアプローチだけでは、時間の枠に収められず、効率も著しく低下(=教室全体での学びが希薄化)するという望まない結果は明らかでしょう。
指名して発言させることの代替としては、ペアやグループでの対話が好適、トータルの発言時間は簡単に増やせます。ペアなら同時に発言する人数が20倍、グループワークでも何倍にもなるはずです。
さらに、手元で文字に書き起こさせる方法ならば、机間指導で共有に値する答えを持つ生徒をみつけることも容易になります。ICTを介してリアルタイムにシェアしていけば、さらに効率化が図れます。
❏ 発言に至るまでの準備、発言に触れて得た気づきの整理
発言させる時間の確保に気を取られ、発言に至るまでの準備、他者の発言を聴いて得た気づきの整理などを疎かにしないことも大切です。
熟慮することなく反射的に言葉を出させても、思考の深化や拡充、表現のブラッシュアップという効果はあまり期待できず、他の生徒に対する刺激(理解の共有や発想の拡大)もあまり期待できそうもありません。
じっくり考えるからこそ、思考や表現の練習になり、且つ、それに触れた他の生徒にとっても刺激(相互啓発の材料)になり得ます。問いを発したら、指名・発言させるまでしっかり時間を確保しましょう。
思考力や表現力を高め、相互啓発を働かせようというなら、問いの提示から発言に至らせるまでに生徒一人ひとりに踏ませる「内的活動」こそが重要です。指名してから発問するような「逆順序」で鍛えうるのは、考えながら言葉にする「即興力」くらいのものでしょう。
準備も整わないまま指名された生徒は、プレッシャーでさらに頭が回らなくなり、フリーズしているし周りでは、他の生徒は口を挟むこともできず、状況が変わるまでただ待っているだけになりそうです。
もちろん、単純な事柄を反復させて習熟を図ることを目的とする場面では、可能な限りテンポを上げて小気味良く進めていく方が、退屈もさせず、学びの密度を高めますが、目指すところが違う場面では、取るべき方法も違って当然です。
その3に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一