校種間での学びの接続に大きな効果が期待できる「異校種間の先生が協働で行う授業研究」ですが、高校にとっては自校の教育活動への理解者と共感者を地域に増やす絶好の機会にもなり得ます。生徒募集の改善のみにならず、目指す教育を実現する土台作りにも繋がる活動ですので、場の創出・提供には積極的に取り組みたいものです。
新たに開催を企画するとなると準備段階での負荷も小さくありません。研究授業や教員による相互参観などがこれまでも定期的に行われてきたのであれば、それを転用して増える手間を最小限に抑えましょう。
2014/05/15 公開の記事をアップデートしました。
❏ 高校で行われる研究授業・授業公開を機会として
研究授業というスタイルでは定期的な開催がなかった学校でも、たいていの場合、外部からの参観者を受け入れる授業公開は行われています。公開されている授業の中から、研究の対象とする授業を指定し、意見交換や協議の場を設けるだけなら、それほど手間は増えません。
授業公開が終わった後で、校種を異にする先生方に集まっていただき、研究協議(もう少しカジュアルに「懇談」でも結構ですが)の場を設ければ、様々な意見交換もできますし互いに多くの気づきがあります。
前稿で書いた通り、高校(中学)に進んでからの学びを、中学校(小学校)の先生に知ってもらうことは、高校(中学)での学習に必要な学力/レディネスを調えて生徒を送り出してもらうことに繋がります。
生徒は学校以外に塾でも勉強しますので、対象者を進学塾の関係者にも広げて、授業を参観してもらい、自校が取り組んでいる教育に理解を深めてもらうことも大切だと思います。
❏ 参観者に対して、指導に込めた意図をきちんと説明
異校種から参観に来て下さった先生方に指導法や生徒の反応を見てもらい感想やご意見を仰ぐだけでは、せっかくの機会を活かしきれません。
授業者(高校の先生)の側から積極的に、
- どのような意図で本時の授業が設計されたか
- 指導を通して生徒が3年間でどのように成長していくか
- 高校での学習に適応させるためにどんな初期指導をしたか
- 入学してくる生徒の学力に近年どのような変化が生じているか
- 大学入試が求める学力はどのような方向にむかっているか
など、日々の授業に込めた意図やその背景にある事情などをしっかりと説明しましょう。
教室を観察すればわかることばかりではありません。説明を聞かなければわからないこと(ときには曲解してしまうこと)もありますよね。
説明を聞いてはじめて気づくことや、そこから改めて考えられることもありますので、正しいフィードバックをもらおうとするなら、まずは意図をきちんと伝えることが重要です。
❏ 高校教育改革の成否は、小中学校との意図共有にかかる
高大接続改革は、社会の変化により大学教育が果たす役割が変わり、それを実現するために大学入学時に求める学力も変わらなければならないという流れの中で進められています。
大学入試が変われば、自ずと高校での学びにも変化が生じますが、同じメカニズムは高校と中学の間、中学と小学校の間にも働きます。
高校でも、学力の三要素をバランスよく育てる教育の実現に向けて教育活動の再設計が急速に進んでいますが、それに対応できる生徒を中学校で育ててもらわないことには、設計図通りの教育は実践できません。
だからこそ、実際の授業を見てもらい、新しい設計図に込めた考えを中学校、さらには小学校で指導に当たる先生たちときちんと共有することが大切だと思います。
学校説明会は基本的には生徒・保護者向けのものですので、中学校や進学塾の先生方向けの広報の場としても、如上の授業公開&意見交換の場は重要だと思います。
❏ 協議の場では小中学校側からも積極的に発信を
協議会の場では、参観した小中学校の先生からも積極的な発信が期待されます。中学校(あるいは小学校)での学びで生徒が身につけたこと/取り組んだことを高校の先生が知らずに、せっかく養った資質や能力を高校の授業で活かしきれてない場合だってあるはずです。
生徒はこんな活動を通して、こんなことができるようになっているはずだからやらせてみて欲しい、せっかくに身につけさせた力なのでさらに伸ばす機会を作って欲しいと感じる場面があったら、遠慮せずにその思いを高校の先生方に伝えましょう。
せっかくの対面コミュニケーションの機会です。双方から積極的な発信があってこその相互理解だと思います。
意見と発想の交換を活発にするために、外部からファシリテーターを招いてコミュニケーションデザインを依頼しているケースもありました。
中高連携や高大連携事業では、上級学校のことを知りたいと思っても、下の校種から見たハードルは上級学校が想像しているよりも高いものです。「いつでも来てください」 「なんでもお尋ねください」と言われても、最初の一言の切り出しは容易ではありません。
ファシリテーターがうまく協議を仕切って、双方から発言を引き出してこそ意見交換や研究協議は大きな実を結びます。
その3(異校種の生徒に教えてみることのメリット)に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一