選定理由の言語化を~探究活動の成果発表会

探究活動や課題研究には代表者による成果発表がつきものですが、代表者や発表作品を選定した理由はきちんと言語化してレジュメや作品に添えて表示したいものです。発表や作品に触れた生徒に「なぜ選定されたのか」を知らしめることは、探究活動の目指すべきあり方を示すことに外ならず、それ自体が生徒に対するとても重要な指導だと思います。

❏ 合理的な理由なしに代表作品を選ぶことで生じる問題

発表会や展示されているそのポスターを見た他の生徒や後輩たちは、選ばれたものを「倣うべきモデル」として認識します。
探究活動が満たすべき要件を欠いている作品を代表として発表・展示しては「こんなもので良いんだ」との誤解を生徒の中に植え付けます。
表面的な面白さだけを追っかけたような作品を代表に選んでは。次年度以降も後輩たちの作品にも再生産が続くのは半ば当然です。
場合によっては、次年度の指導を担う先生方にも同様の誤解を抱かせるリスクすら懸念されます。
選ばれた生徒も、自分がやってきたことを肯定されたことになりますので、探究活動を学校が導入したときの狙いを達成しないまま卒業することになり、その後も問題意識も持たずに過ごしかねません。
大学の出願に際しても、探究活動を通した経験と結び付けた志望理由を書き上げるのも難しそうですよね。
代表作品を選ぶときには、選者の責任が問われているのだという認識が必要なのは、教科学習指導で評定に合理性と公平性が求められるのと同じではないでしょうか。
その責任を明確にするにも、選定理由の言語化は欠かせません。

❏ 選定理由そのものを教員間で突き合わせる

代表作品の選び方は様々だと思いますが、先生方が各々担当するゼミの中から“優秀作品”を選んでいるというパターンが多いようです。
各担当者が担当生徒の作品を評価して、最も高いスコアをつけた作品を代表に選出している以上、担当者間で評価の観点や規準にばらつきがあるのは好ましくありません。
成果発表会が担う、「次年度に向けたモデルの提示」という機能がゆがめられ、きちんと働かなくなるからです。
探究活動の入り口では、ガイダンスを行ったり、手引きを配ったりすることで、“探究活動の作法”を学ぶ機会を設けたはずです。
そこで生徒に示したものに立ち返り、評価の観点と規準を改めてシェアし直し、必要なアップデートを施してから選考に臨むべきと考えます。
代表に選出しようとしている作品は、それを選定する理由を文字に起こしたものを添えて選考会議などの協議の場に持ち寄り、選定理由を確かめ合ってから、最終決定に進むという手順も可能なはずです。
個々の担当者に選考を任せっぱなしにするのは、如上の責任を個々の教員に押し付けるということかもしれません。

❏ 選定理由を言語化することで改善課題が見えてくる

発表者や代表作品を選ぶときには、発表のクオリティの高さやテーマの独創性などに加えて、

  • テーマを選んだときのプロセスに学ぶべきものがある
  • 先行研究に当たり、事実関係を確かめている
  • 仮説の検証が信頼のおけるデータに基づき的確に行われている
  • 研究テーマに対して当事者として向き合う姿勢が明確

といった要件を満たしているかも見ているはずです。
選定理由を言語化する工程は、どのような観点で生徒の活動や作品を評価しているかを、自分自身で客観的に捉え直す絶好の機会です。
指導における観点を教員間で共有するためにも欠かせません。
他教員の選定理由に触れることで、新たな着眼点を得ることも、それまでの自分の見方に改めるべき点があったことに気づくこともあります。
こうした担当者間の相互啓発が働かなければ、探究活動の指導スキルや評価眼の獲得・確立は遅れるばかりではないでしょうか。

❏ 探究活動を評価するルーブリックは整っているか

指導を担当した生徒の作品を評価するときに、担当者間で共有した評価の観点と規準が必要である以上、ルーブリック様式(観点毎に段階的な到達規準を配列したもの)にまとめておくのが好適かと思います。
評価規準は使いながらブラッシュアップにも書きましたが、ルーブリックは、実際に使う中で改善を重ねるべきものです。
たとえ暫定版であっても、形ができたら、実際に指導の場で使いながら朱入れをして改善していくというスタンスが大事です。
評価規準の文言を頭に浮かべながら生徒の行動を観察していると、その中に「好ましい学習者行動をもっと良く表現する新たな文言」に思い当たることもあります。
完成度が高まるまで使わないという判断では、そうした気づきも期待できず、いつまで経っても完成に向かえません。

❏ 適切な評価・選定で、探究活動の成果を確かなものに

探究活動のプロセスにおいて、各フェイズできちんと方向を示すととももに、評価とフィードバックを行ってきたら、生徒自身も「探究活動の評価観点」をある程度までは身につけます。
成果発表会に臨む代表作品を選び出す工程に生徒も参加させてみても良いのではないでしょうか。
それまでの指導の成果によっては、個々の教員が恣意的に選び出すより合理的な評価・選択ができることもありそうです。
どのような理由で、どの作品を高く評価するかを言語化させ、それを生徒間でシェアして議論させれば、その中で探究活動が求めるものをより深く認識していくはずです。
仮に高校での探究活動が時間切れやその他の理由で上手くいかなかったとしても、最終局面できちんとした振り返りができれば、卒業後の様々な場面(学業や研究、社会活動)における土台の一部を築くことができたと言えるのではないでしょうか。
高校での探究には時間的にも、土台にも限界はありますが、そこでの経験を通じて自分に足りないものに気づけてこそ、大学に進んでの学究に正しい姿勢で臨めるはずです。



探究活動は、教科学習指導に比べてはるかに歴史が短く、指導ノウハウも確立途上の真っただ中です。指導ノウハウの確立に向けた取り組みは先生方にとって協働で取り組むべき課題であり、教員団にとっての探究活動そのものなのではないでしょうか。
仮説を立てて検証し、新たな知(=指導ノウハウ)を創り上げていくプロセスを経験してこそ、生徒の探究活動を指導する基盤が得られるのだと思います。
生徒の探究活動を評価する手法が確立しなければ、探究活動やその指導の効果測定もできず、改善に向けた課題形成もできません。
成果発表会の代表選出は、評価観点の共有と再確認の絶好機と考えれば、そこにはしっかりと関心とエネルギーを注ぐべきだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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