学校では、様々な場面でアンケート調査が行われています。収集・蓄積されたデータは分析を経て、これまでの指導の成果の検証や次年度以降に向けた改善計画作りに役立てられていることと思います。
調査で得られたデータと解析の結果を、具体的な行動と結びついた改善計画にまとめるのと並行して、忘れずに取り組みたいのは、次年度に向けたアンケートの質問設計そのものの見直しと改善です。
当然ながら、新年度の教育活動のスタートに際して、新しい質問設計を校内にきちんと示し、その一つひとつが意図するところを教職員すべてが正しく理解し、共有しておく必要があります。
2019/02/13 公開の記事をアップデートしました。
❏ 質問文を書き起こすことで、目指すものを共有する
アンケートの質問文は、教育活動を通して実現を図ろうとしていることを言語化したものです。
質問文を提示して、{そう思う~そう思わない}などの選択肢から一つを選んでもらうということは、そこに書かれていることの充足度を評価してもらうわけですから、
アンケート質問文=評価規準=実現を目指す目標状態
という図式になるのは言うまでもありません。
年間を通したアンケート調査の実施計画を策定するときに、しっかりと質問文も吟味しておくことは、教育活動を通して実現を目指していることは何かをはっきりさせる一助になるはずです。
また、質問文を予め周知しておくことで、目指すべき到達状態を先生方の間/各分掌・組織の間でシェアすることもできるはずです。
分掌や学年、教科といった教員組織が各々の指導計画を固めてしまう前に、アンケートの質問文という形で目指しているものを共有することが学校の教育目標と指導計画の整合性を高めるのに役立ちます。
❏ まずは、質問文とグランドデザインとの照らし合わせ
建学の精神や学校の教育目的、重点目標といったものは、学校経営計画やグランドデザインの中に明記されているものと拝察します。
これまでに実施してきたアンケート調査の質問文が、それらとどこまで整合性を持っているかは、この機にきちんと確かめておきましょう。
重点目標に掲げたことも、その充足度を何らかの形で定量的に測定できなければ、「やりっぱなし、言いっぱなし」ですよね。
成績データや実績数値で効果を測定できるものや、ルーブリックなどを用いた活動評価が相応しいものは、それぞれに合った方法でOKです。
しかしながら、学校が目標に謳っているものには、これらに該当せず、生徒、保護者、教員、地域といったステークホルダーに対して「訊いて確かめてみる」べきものも少なくないはず。
それらについて評価を受ける機会が用意されているかどうか、アンケート調査の実施計画作りと各質問設計の点検を通して確かめておくことが肝要と考えます。
❏ 学校広報に用いるエビデンスを得るためにも
学校が取り組んできたこと、今後の実現を目指そうとしていることについて、校内外に積極的な発信をすることは、教育活動への理解者と共感者を増やし、ステークホルダーと良好な関係を結ぶ上で欠かせません。
しかしながら、やっていることを並べ立てただけでは理解も共感も得られず、そこには説明と説得のためのエビデンスが必要です。
その材料となるものは、様々な実績値に加えて、生徒・保護者からの賛同や支持の声であり、当然ながらそのソースはアンケート調査で得られたデータということになります。
学校広報というと、生徒募集のために行うものと限定的に考えがちですが、そうではありません。
校内向けにも、学校が目指そうとしていることを生徒・保護者・教職員により良く知ってもらい、共感を得てその実現に向けた協働に参加してもらう必要があります。
校外向けでも、教育活動の充実を図るために地域の方々や卒業生の協力を得るには、学校の取り組みに理解と共感を得ておく必要があり、受験生や塾関係者を相手にしているだけでは不十分なのは明らかです。
校内外に打ち出したいことを明確にしたうえで、その一つひとつに「どんなデータを用意すれば、説明と説得に役立てられるのか」を考え、アンケートで集めた声が必要となれば、質問設計に反映させましょう。
❏ 解析結果から質問設計改善のポイントを探る
アンケートを実施したとき、平均値などの記述統計量や回答分布などで概況を把握するのにとどまっていないでしょうか。
目指すべき到達状態の達成度を測り、効果測定や成果検証に役立てるだけなら、それでも十分かもしれませんが、有効な改善策を立てようと思ったらもう一歩踏み込む必要があります。
例えば、学校評価アンケートで「この学校に入学して良かった」(総合的な満足度)という質問に対して、肯定的な回答の割合を追いかけるだけでは、改善行動は試行錯誤に終始します。
その他の評価項目での回答を説明変数に、如上の質問への答えを目的変数にした重回帰分析ができれば、総合的な満足度を大きく決めている要素が何かを探ることができます。
総合満足への寄与度が大きい項目には、教育リソースを集中的に配分すべきであり、その他の教育活動は軽量化する経営判断が求められます。
アンケートの質問項目も、加えていくばかりでは回答者の負担が過重になり、正しい回答が得られにくくなるリスクも抱えます。
目的変数への寄与度が小さかったり相関係数が低かったりした項目は、質問設計から除外し、代わりに新たに採り入れた教育活動に関する項目を組み入れていくべきです。
集めたデータをもとに、説明変数を出し入れしながら、重回帰分析の決定係数の変化を確かめて、「最も少ない項目数で、十分に大きな決定係数が得られる項目の組み合わせ」を探っていけば、回答負担を抑え(=回答意欲を損ねない)つつ、有為なデータが得られるアンケートに進化を図れます。
アンケートの結果をしっかり解析し、アンケートそのものの妥当性の向上、改善を積み重ねていくことが、教育活動の効果測定と改善に向けた課題形成をより正しく、効率的に行うための土台を作ります。
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アンケートの質問設計を正しく行うと、質問文に表現されたことそのものが、教育活動の改善に関わるすべての当事者に「指導を通じて実現すべきことがら(≒校是)」を提示する機能を持ちます。
次年度の指導を立案する前に、「来期のアンケートは、このような質問項目で行う」ということを校内で共有しておけば、それに向けた指導の立案が促されます。本稿で取り上げた、学校評価のみならず、各教科の授業評価や総合的探究の時間の成果検証などでも同様です。
4月に異動や転職で新しく学校の一員に加わる先生に、「わが校が実現を目指していること」ことを端的に伝える材料にもなると思います。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一