ひと通りの学習を終えた場面で生徒に質問を考えさせれば、そこまでの学びを振り返らせることができます。質問を考えさせるのは、生徒に問いを立てさせることに他ならず、教材に深く関わる好機になります。
しかしながら、「質問はありませんか」と声を掛けるだけでは、その後の展開は期待薄でしょう。もともと積極的な生徒が手を挙げてくれたとしても、他の生徒は押し黙ったまま時間が過ぎるのを待っています。
生徒からの質問があれば受けるという「待ちの姿勢」ではなく、「質問をさせる/質問を作らせる」ことに踏み込んでいきましょう。
2016/08/19 に公開した記事を再アップデートしました。
❏ 質問を考えるだけでも学んだ内容と向き合うことに
質問をしなければならないとなれば、生徒はノートや教科書、プリントを見返して、「疑問点」や「その先を覗きたい箇所」を探し始めます。
それまで「教わったこと/書かれていることを覚えればそれでOK」と考えていた生徒は、初めて「質問を作れ」と言われて面食らうかもしれませんが、そうした誤った学習観は拭い去っていきましょう。
教科書に書かれているのは、基本的には、事実であることを確かめられた事柄ですが、背景の記述や理由の説明などが必ずしも十分になされているわけではなく、読んだだけでは「?」が残って然るべきです。
先生方のご説明の中にも、真剣に聴いていれば、「それってどういうこと?」「なぜそういえるの?」という疑問が生まれますし、発問に触れて自ら考えた中に、別の疑問を新たに持つこともあろうかと思います。
また、質問をするには、自分の中に芽生えた疑問や見つけた不明を言語化しなければなりません。これまで、漠然と「良く分からない」で済ませていたことに向き合い、「何がどうわからない」のか明らかにしようとすることで、学びはより深く確かなものになっていきます。
❏ 「こんな質問をしたら」という不安を消すために
疑問を見つけて、その正体を探り出したとしても、それを「質問」として周囲の耳目にさらすのに戸惑いや不安を感じる生徒もいます。
「もしかしたら、理解できていないのは自分だけ?」
「こんな質問をしたら馬鹿にされる/呆れられるのでは?」
と余計な心配をして言葉に出すのを躊躇う生徒は少なくないようです。
そんな生徒の不安を解すのに挟んでおきたいワンステップが、ペアや数人の小グループの中で「作った質問」をシェアすること。知られる範囲を狭くすることで、如上の不安も幾分かは小さくなります。
まずは各自で質問を考え、それを紙に書き出して「質問」の形に調えさせることもお忘れなく。生徒一人ひとりが考え尽くしていないうちに、話し合いに進めさせては、疑問への向き合いが十分に行われません。
❏ 相手の質問を自分の言葉でパラフレーズ
各自で書き出した質問をペア/小グループでシェアするときは、口頭で伝え合うのでも良いかと思いますが、せっかく書き出しているので「輪読(回し読み)」させるのも好適です。
口頭での伝え合いより、輪読の方が効率に勝る上、文字にしていないところを残したことで意図や趣旨が正しく伝わらないことを経験する中、言語化(=質問の起草)をより精緻に行おうとするようになります。
輪読(回し読み)がひと通り終わったら、互いの質問内容を自分の言葉で表現し直す(パラフレーズする)ようにさせてみましょう。
紙に起こした質問が言語化しきれていない箇所は、伝わらなかったり、誤解されたりしているはず。そこを補う説明を試みることで、当初の疑問はより具体的になり、問いは本質的なものになって行きます。
話し合いの中で、自らの/互いの疑問を具体化し、掘り下げていくことはまさに「対話的で深い学び」のひとつ。答えを教え合っているわけではないのに、互いが抱いた疑問が学びを膨らませます。
ちなみに、質問や相談が上手にできないと、必要な助言やサポートを上手に受けることもできません。日頃から抱えている悩みや問題を言語化する練習を積ませる上でも、こうした機会は有用なはずです。
❏ 残った疑問はできるだけ生徒同士で解消させる
出てきた疑問が、生徒同士で解消できるようなものなら、教え合い・学び合いを通して、解消に努めさせましょう。先生が答えてあげるだけでは、不明解消の方法と姿勢を学ぶ機会を生徒は持てません。
生徒同士であれこれ調べ、知恵を出し合ってもなお、解消されずに残った疑問は、より深い学びを作る起点になるはずです。
グループでの話し合いを経てもなお「解消できずに残った質問」は発表させ、クラス全体でシェアしてみましょう。自分たちが思いつかなかった疑問に触れるだけでも、学びは広がり、深まります。
各グループが発表した「質問」は、先生が聞き取って黒板に書き出してあげましょう。時間の使い方としても効率的ですし、板書されたものは生徒のノートにも記録されますので、後に触れる機会も残せます。
未解消の質問には、先生がダイレクトに答えてあげるのも良いですが、参照型副教材をしっかり読みさえすれば、解消できる/その糸口がつかめるようなものなら、まずはそれを求めましょう。
先生が答えるのは、どうしても生徒の手に余るものに絞るべきです。疑問を解消する方法と姿勢を学ばせることもまた、重要な指導目標の一つであり、その機会を無為に逃さないようにしたいところです。
❏ 問いの難度や深さに応じて、扱い方を分ける
個人ワーク(質問を作る)とペアやグループでの活動(質問のシェアと解決への協働)を経てもなお解消されずに残った問いは、以下のようなカテゴリーに分けて、それぞれに応じた対応を取るのが好適です。
- 単元理解の中核をなす、全員がしっかり理解すべきもの(A)
- 興味と意欲のある生徒が挑むべき、深く掘り下げるもの(B)
Aに該当するものなら、質問をシェアした上で、次回の授業までの宿題にするのが好適です。解決に必要な情報を集めるべきソースを示し(あるいは与え)、しっかりと調べ/考えさせましょう。
他方、Bに該当するものなら、全員必須ではなく、余裕のある生徒だけが任意に取り組む挑戦課題にしてみては如何でしょうか。
やる気のある生徒が作ってきた答えを、提出した生徒たちに「解答例」として(もちろん、先生が調えた答えを添えて)共有させれば、他の生徒の答えから学べるところも大きいかと思います。
任意課題とする以外には、上級学校に進んでその単元の先を学ぶことになる生徒を集めた講習などで扱うことにして、興味がある生徒に参加を促すという手もありますし、探究活動におけるリサーチクエスチョンの候補にさせる手もありそうです。
生徒から寄せられた質問には、その場で答えてあげるのが一般的かと思いますが、先生が答えを示した瞬間に、質問は答えを探して考えるものから、答えを覚えるものに変容してしまいます。せっかくの質問ですから、学びの充実に最大限の活用を図りましょう。(続編に続く。)
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一