発問で引き出した生徒の発言をどう扱うか

対話的な学びを実現するのに、生徒同士の対話ばかりを増やしても十分とは言えません。教科書や資料を読んでのテクストとの対話や、問答を通した先生との対話をしっかり充実させる必要があります。
テクストを介した先人との対話については以下の記事もお読みいただきたく存じますが、本稿は後者にスポットを当ててみます。

2018/06/25 公開の記事をアップデートしました。

問いを投げかけ考えさせ、せっかく生徒の発言を引き出しても、その後のアクションを間違えてしまっては、学びが膨らむ(対話により思考を深める)チャンスを逃してしまいます。
日々の教室での生徒とのやり取りを思い出してみたとき、

  1. 生徒が正解できたのでOKとして、そのまま先に進んだ
  2. 正解が出ないので、解説して答えを教えた/ヒントで答えを誘導した

といった対応をした場面はなかったでしょうか。思い当たるところが多いようなら、今後はちょっと注意が必要かもしれません。

❏ 正解であっても理由を聞いてみるのは鉄則のひとつ

発問に対して正しい答えが返ってきたときに、それ以上「深掘り」をしている場面は、教室で授業を拝見していてもあまり多く見かけません。
なぜそう考えたのかを本人に聞いたり、その答えで良い理由を他の生徒に訊いてみることも必要です。
理由を尋ねてみないと、本当にわかっているのか、当てずっぽうなのか判定ができません。「プロセスに焦点を当てた問い」をどれだけ繰り出せるかが、生徒の思考と学びの深まりを左右します。
また、問われて考えたことを言葉にする(答える)ことを繰り返す中で生徒は表現力(自らの考えを他者に伝える能力)を高めていきます。
これからの社会では「協働で課題解決に当たる場面において自分の考えに他者の理解と共感を得られるような表現を与える力」が必要であり、教室の学びの中にそうした力の獲得機会をしっかり整えるべきです。

❏ 他の生徒の発言をヒントに答えを作り直させる

発問への答えが間違っていたり、答えられなかったりしたときは、正誤判定をいったん留保して、他の生徒にも答えさせてみましょう。
別の生徒には質問の角度を変えてみても良いですし、同じ質問を幾人かに繰り返して聞いてみても良いと思います。
いくつか発言がでたら、最初に当てた生徒に戻して、改めて答えを言葉にさせることで、思考と言語活動を完遂させることが大切です。
これらのプロセスを通して、「他の生徒の発言に耳を傾ける」「それをヒントに自分で考える」「考えたことを言葉にして伝える」という対話の要素をいくつも積み上げていることになります。
間違った/答えられなかった時点で終わり、というのとはだいぶ活動量が違い、そこで得られる成果(思考力や表現力の高まり)にもより多くのものが期待できます。

❏ 考えるための材料の不足は、生徒自身に補わさせる

生徒が答えられないときに、先生の側からすぐにヒントを出してしまうのでは、生徒は自力で不明を解消する方策を身につけられません。
隣同士で相談させるのも良いですが、教科書や資料集、副教材に載っていることなら、まずは自力で調べさせることも大事です。
第三の「対話の相手」として、教科書・資料・副教材などのテクストの向こうにいる「先人」に問い掛けさせ、その答えに耳を傾けさせ(目を向けさせ?)ましょう。
これを習慣づけるには、日頃から参照型教材を徹底して使い倒すことを求めていくことが肝要です。
生徒が読んで理解した(不明を解消できた)ら、その結果を改めて言葉にさせることも忘れないようにしたいところです。
言語化させてみないと「きちんと理解できたか、思考に欠落はないか」を確かめる機会が得られず、「わかった気になった」ところで学びを止めさせてしまうリスクを抱えます。
生徒自身に思考と言語活動を完遂させてこそ、OECDの「キー・コンピテンシー(主要能力)」に挙がっている「言語、シンボル、テクストを活用する能力」などを高めることができるはずです。

❏ 生徒の発言を拾い上げてこそ、キャッチボールに

発問は対話的な学びを作るうえでの柱ですが、生徒の発言を拾い上げて再び投げ返してこそ、キャッチボールが成立します。
ガンガン発問して、生徒が必死に考えて答えを返してきても、先生がそれを拾わないのでは、キャッチボールではなく「ノック」ですよね。
教室の様子を思い出してみると生徒が投げ返したボールがバックネットに向かって転がっていないでしょうか。
思考を次のステップに進めるような発言が出たら、黒板に書き出し、クラス全体で共有してから、それを起点に問いを重ねていきましょう。
逆に、典型的な間違えや掘り下げてみるべき疑問などを含む発言が出たときも、クラス全体の学びに展開するチャンスだと思います。
その(間違った)考えに沿って解法を進め、袋小路に入り込む様を見せた上で、どこでどう間違ったかクラス全体(あるいはペアやグループ)で考えさせてみたら、学びはぐんと深くなるかもしれません。
生徒の意見や所感をシェアするに続く。
■ ご参考記事:

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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