大学・学部選びに加え、入試選びも重要になる時代

高大接続改革と並行して、本丸とされる高校教育改革に加え、大学教育改革も進められています。この中で大学には、

  • 学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)
  • 教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)
  • 入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)

という三つのポリシーの策定と運用が求められます。

❏ 選抜方式ごとに設けられるアドミッション・ポリシー

最初の2つ、「学位授与の方針」と「教育課程編成・実施の方針」は、大学に入ってからの教育そのものである以上、どの選抜方式を経て入学してきた学生に対しても同じものが適応されます。
しかしながら、アドミッション・ポリシーについては、選抜方法ごとに重点的に測定できるものが異なるだけに、どの入試を選んだかで、求められる学生像が異なるということになります。
一般選抜(←一般入試)では、知識・技能、思考力・判断力・表現力が重点的に評価されるのに対して、学校推薦型選抜(←推薦入試)や総合型選抜(←AO入試)では知識・技能に加えて、より強いスポットライトをその他の学力要素に当てた選考がなされます。

❏ 多様性を高める”アドミッション・ポリシーの配合”

ここまで読まれて、「あれっ?」と感じる部分はないでしょうか。
ディプロマ・ポリシーやカリキュラム・ポリシーが同じ(つまりは大学教育の目標と中身は共通)なのに、入り口での要求学力(=学習成果)が異なるということに違和感のようなものがありますよね。
普通に考えると、ちぐはぐな印象もありますが、実はここにひとつの意図、様々なタイプの学生を選抜方式ごとの定員に応じた割合で組み合わせることで”多様性をもった学生群”を形成するという戦略があります。
チームワークに長けた生徒、新奇な発想ができる生徒、処理能力に優れた生徒、…様々なタイプが混在してこそ、答えの見つからない課題に協働で挑めるコミュニティが形成できると考えられます。

様々な金融商品を組み合わせて資産を運用するとき「ポートフォリオ」という言葉を使いますが、大学における学生のポートフォリオと捉えることで、単一のディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに対する複数のアドミッション・ポリシーの組み合わせを理解すべきです。

❏ 資質を見極め、入試を選ぶことがより重要に

どの選抜方式を選ぶかで、大学に対して示すべき”学習成果”が違うことになり、進路希望を固めるときに、学部・学科選びに加えて、これまで以上に入試選びが重要になるということです。
AO・推薦入試で不合格になっても一般入試には挑戦できるとはいえ、本命を見つけてそこで求められる力の養成に時間とエネルギーの重点配分ができるかどうかで、合否の結果が変わります。
国立大学では平成26年度に15%程度であったAO・推薦での入学者を定員の3割程度まで増やすという方針ですから、一般入試で勝負という一点張りにはどこかで無理が生じてきそうです。
もっとも、どの選抜方式でも知識・技能や思考力・判断力・表現力が求められることには変わりありませんので、確かな学力形成は引き続き最優先課題ですが…。

❏ 評価の方法と機会の確立が重要課題に

指導する側としては、生徒一人ひとりの特性や資質を見極めて、持っているものを最大限に評価してもらえる選抜方式は何かを考えなければならない場面が増えるということです。
特性や資質を見極めるための機会を指導計画の中にきちんと設け、観察と評価の結果をその都度レコードとして蓄積していく必要性はこれからさらに大きくなるはずです。
eポートフォリオなど、一見すると面倒が増えるばかりと感じますが、如上の流れを踏まえると導入は必然なのかもしれません。
いよいよ受験期を迎えた段階で、どの選抜方式でチャレンジするかを考えるのでは、活かすべき資質・能力を伸ばしきる時間が残りません。
選抜方式が求める学習成果を高めておくには、従来より早いタイミングでの見極めが必要になりますし、生徒自身にも自分の良さ/強みを知る内省を重ねさせていくことが重要になると考えます。



ご参考: 三つのポリシーの策定と運用に係るガイドラインより

ディプロマ  ポリシー:各大学がその教育理念を踏まえ,どのような力を身に付ければ学位を授与するのかを定める基本的な方針であり、学生の学修成果の目標ともなるもの。
カリキュラム ポリシー:ディプロマ・ポリシーの達成のために,どのような教育課程を編成し、どのような教育内容・方法を実施するのかを定める基本的な方針。
アドミッションポリシー:各大学が、教育理念、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ、入学者を受け入れるための基本的な方針であり、受け入れる学生に求める学習成果を示すもの。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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