予習というと、これから学ぶ/まだ教わっていない範囲を自力で学んで内容を理解したり、課題を解いたりすることを思い浮かべることが多いと思いますが、この発想だけではうまく行かないことも多いようです。
その日の授業で学ぶことを「予め学習」しておくのは、前提知識を確保したり学習内容に対する問題意識を持ったりするのに欠かせませんが、「その日の授業で学ぶこと」をどのように位置づけるかにより、予習で取り組むことは大きく変わってくるはずです。
❏ 予習→授業→復習のサイクルを組み直す
昔から馴染みのある「授業と予復習からなる学習サイクル」は、
予習: はじめて学ぶ内容を、予め勉強しておく
授業: 導入・展開・演習・まとめのサイクルで学習が完結する
復習: 授業で学んだことの定着を目的とした反復学習
といったところではないでしょうか。
ここで問題となるのは、予習フェイズにおいて、関連する既習単元の理解が不十分であったり、辞書を含む参照型教材の使用に習熟していなかったりした場合、予習そのものができないということです。
その結果、本時の授業を理解したり、授業内活動に参加したりするのに必要な前提理解や問題意識を整えられないまま、授業に臨む生徒が混じることになります。
十分なレディネスを整えていた生徒は、その日の授業でも新たな成果を積み上げ、自力で予習できることがさらに増えますが、それ以外の生徒に進歩はありません。
学力だけでなく、予習を行う力そのものに差が拡大していき、問題はますます深刻化していきそうです。
❏ 予習ができる状態にして教室を離れさせる
如上の”悪循環”を生み出している原因は、予習ができるだけのレディネスが確保されていないまま、予習を課してしまったことにあります。
授業を終えるときに、次回の予習ができるようにしておくことが、問題の解決に向かう鍵です。
次回の授業の予告を行いながら、学びの前提となる既得知識の再記銘を図るとともに、問題意識を刺激するようにしてみましょう。
予告と言っても単元名を示しただけでは効果は期待できません。次回の授業で山場となる「問い」を示した方が、よほど効果的です。
それと関わる既習内容を2つ、3つ問いかけて、既習内容を学んだ時のノートやプリント、教科書の該当ページを開かせれば、参照すべき箇所の確認もできます。
問いに触れて生徒の頭の中に疑問符が浮かべば、学ぶことへの自分の理由も作れるはずです。
それでもレディネスが整っていないと見たら、前後左右で小グループを作らせ、解法/問題へのアプローチを話し合わせてみましょう。
❏ 次回予告は、授業の導入フェイズと同じ機能を持つ
よくよく見ると、前段でご提案した「予習をできる/しようと思う状態」を作る方法は、授業の導入フェイズで行うべきことと同じです。
つまりは、
「授業理解の土台を作り、積極的に参加する姿勢を引き出そうとするなら、導入フェイズをきちんと設計する必要がある」
のと同じように、
「生徒に予習をさせたいなら、予習ができるだけの前提知識を整える場を生徒に持たせ、予習してみようという気にさせる必要がある」
ということだと思います。
❏ 自力でできるようになるにつれて徐々に手を放す
こうした指導を重ねるなかで習慣化を図れば、わざわざ「次回の予告パート」を作らなくても、予習を行う方法と姿勢が生徒の中に育まれるはずです。
そうなってきたら、少しずつ手を放すタイミングでしょう。
いつまでも先生が丁寧にガイドしていては、学習者としての自立が遅れます。少し手を放して(=生徒に任せて)みて、様子を見ながら、手の引きどころを判断していくことが大切です。
拙稿「学び方における守破離」でも書いた通り、生徒が学びを積み上げ、学習者として成長しているのに、いつまでも先生が先導し、手を引っ張ってあげるのでは、生徒の成長にブレーキを掛けてしまいます。
❏ 授業のサイクルそのものを変えてしまうという手も
如上の方法のほかにも、科目や単元の特性によっては、別のサイクルで予復習を含めた学習のデザインも可能です。
- 授業準備では、新しい単元や教科書の未習箇所の”予習”を課さず、
- 授業が始まってから導入(ターゲット設問の提示と既得知識の確認)を行い、
- 教えたり(先生との対話)、調べさせたり(文字を介した書き手との対話)、教え合い・学び合い、討論させたり(生徒同士の対話)する中で、学びを広げて深めたのちに、
- ターゲット設問に立ち戻り、答えをまとめる方法を考えさせたら、
- 自分の意見をまとめたり、答案を仕上げたりすることを次回までの宿題(=予習の代わり)とし、
- 次回の授業では、提出された答案を元に、学びの更なる拡充と深化を図る
という流れもあるはずです。拙稿「目標理解と活用機会を整える授業デザイン」も併せてご参照いただければ幸甚です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一