昨日まで、授業評価&生徒意識アンケートの質問設計について、それぞれの評価項目に込めた意図や改善のための着眼点などの整理を試みてきました。シリーズで取り上げたのは、標準的なケースを想定した推奨パターンによる質問群です。
学校が掲げる教育目標によって、項目ごとに別のものに入れ替える「調整」が必要な場合もあるはずです。質問文の一つひとつひとつは、学校全体で実現を目指したい「校是たる授業」の姿を正しく表現するものでなければなりません。
❏ 質問設計の更新がなされないのは…
しかしながら、各地の学校を訪ねてお話を伺うと、旧課程のときに授業評価アンケートを開始しておきながら、そのまま質問設計の見直しを一度も行っていないというケースもちらほらと。
改善が進んで高止まりした項目は、新たに実現を目指したい項目に入れ替えることで、次のステップに進むきっかけが作れます。
また、蓄積されたデータを用いて、「学力向上」という目的にあまり寄与しない項目を洗い出し、より必要性・妥当性の高いものに差し替えていくのが好適です。クロス集計を行ったり、相関係数を求めたり、比較的単純な方法でもかなりの示唆を得られます。
質問設計の更新が長きにわたって行われなかったケースでは、もしかしたら「あるべき授業」 がどんなものかを議論することも、アンケートの結果を分析してみることも後回しにされてきたのかもしれません。
高大接続の在り方が大きく変わろうとしています。実現を目指す教育活動や授業のあり方も変わる必要に迫られているのは、改めて申し上げるまでもありません。校是たる授業像を改めて描き出していくには、授業評価アンケートの質問設計の見直しが、絶好の機会となるはずです。
❏ 管理職による授業観察にも観点の定立を
管理職による授業観察も、特に観点を定めないまま行われているケースが見受けられます。
学校の教育目的を実現し得る授業とは何か。学校全体でしっかりと考えたうえで、それに照らした観察とフィードバックを行わなければ、せっかくの授業観察も大きな成果につながりません。
万一、「緊張感がある」「退屈だった」「生徒が集中していた」「一方通行だった」 という主観的・感覚的な捉え方が先に立ってしまっては、何が良くて何が改めるべきところなのかが明らかにならないからです。
授業観察のチェックポイントも授業評価アンケートの質問設計も、校是たる授業像という一つのものから導かれたものである以上、両者はある程度まで一致するのが当たり前です。
もちろん、生徒には判断ができないところを授業観察で探り、学習者の視点でしか察知できない問題をアンケートで探るわけですから、片方にしか含まれない項目があっても当然ですが…。
また、観察を行うときのチェックポイントはちゃんと決めているのに、それを現場の先生方に前もって明示していないケースも見られました。求めているものがあれば、先に言ってくれないと…。「後出し」であれこれと言われても、良い気分ではありません。
どのような授業を求め、どのようなポイントで観察するかを、その目的/意義とともに、あらかじめ伝えておくことが、授業を観察した後に行うフィードバックを、建設的で意義のあるコミュニケーションの場に変えてくれます。
授業評価アンケートの質問設計の見直しで、目指すべき授業像を明らかにしたら、その結果を授業観察シートにも反映させ、両者の整合性を確保するようにしたいものです。
管理職が観察して感じたこと(観察シートに残した記録)と、生徒の側での受け取り方(アンケートの結果)を照らし合わせることで、授業をみる観察眼にさらに磨きをかけることができた、というのはある校長先生から伺ったお話です。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一