志望理由を言葉にしてみる~ゼロ学期の始まりに

所謂「ゼロ学期」を間近に控える高2生は、先輩たちの受験生としての日々を目にしながら、自らの進路希望の実現という大きな挑戦を、強く意識し始めているかと思います。ゴールまでの長期戦のスタートをどう切るかは、結果とともにその過程での成長の度合いも大きく変えます。

2016/03/25 公開の記事を再アップデートしました。

旧タイトル: 志望理由を書いて選択に向き合う

❏ 明確な目標を持つことが「頑張りへの自分の理由」に

第一志望を実現できたかどうかという最終的な結果ももちろん大事ですが、「受験期は、またとない成長の好機」で書いた通り、頑張り続ける中で遂げた成長そのものが、生徒の将来の大きな糧になるはずです。
目標とするところやそれを目指す自分の理由をどれだけ強く持っているかが、自分の頑張りを支える力の大きさを大方決めてしまいます。
「大学に進んでどんなことを学びたいのか」

「学んだことを使って、社会にどんな関りを持ちたいのか」
これらの問いに、強い思いを持って答えられるようなら、勉強の成果があまり出ずにつらいときにも、諦めることなく頑張れるはずです。

学ぶことへの自分の理由を持っているか/作り出せたかどうかを生徒自身に確かめさせるためにも、この機に、如上の問いへの答えを「志望理由書(あるいは第一志望宣言)」の形に言語化させてみましょう。

❏ 志望理由がどう生まれたかが問題

現時点でもすでに「明確な志望校」を持っていたとしても、それを選んだ理由がはっきりしていないことも少なくありません。
科目の得意/苦手や模擬試験での成績、(良く調べもしないで抱いている)漠然とした大学のイメージなどで選んだ「志望校」に過ぎず、志望の理由が「後付け」で考え出したものに過ぎなかったとしたら、…
土台のない理由は、別の理由(多くは「言い訳」)で容易に上書きされてしまうもの。頑張りを支える力にはなりにくいように思います。
上の質問2つへの答えが、生徒自身が経験してきたことの中に、どれだけ強い「根っこ」を持っているかは、どこかで確かめておきましょう。
別稿「進路希望を調べるときは、前段階の確認も併せて」でも書いた通り、「選択の結果」を訊くなら、選択に至るプロセスをきちんと踏んできたか、前段階の履行状態も、併せて確かめておく必要があります。

❏ 書き出すことで「自分の理由」を確認させる

これらを確かめるために、以下のような質問を提示して、生徒に答えを書かせてみましょう。これまでの自分をじっくりと振り返ることも目的ですので、宿題にするなど十分な時間を掛けさせるのが好適です。

  1. 現段階で、どんなことに興味を持っているか(大学で何を研究したいと思っているか)
  2. それに興味を持つようになったきっかけ[原体験]は何か(読んでみた本、聞いた話、ニュースや報道、体験、…)
  3. その興味に基づいて、これまでどんな行動を重ねてきたか(調べてみたこと[探究]、話を聞きに行ったこと、体験したこと)
  4. その行動の中で、学問や研究とどんな接点が見つかったか(それを学べる学部・学科、先端研究や社会の課題、…)
  5. 自分は社会の中でどんな役割を引き受けたいか/どう貢献したいか(活躍する自分のイメージ、自分が持つ可能性、…)[実践力

人は、問われて初めて自分と向き合うことも少なくありません。質問に答えようと、考えるところを言葉にしてみる中で、欠落や矛盾、気づいていなかった自分の思いなどがはっきりしてきます。

志望大学を訊くのは、如上の質問に答えさせた後にすべきです。「それらを学ぶのに最も適した大学・学部はどこだと考えていますか」と尋ねるのは、如上の問いの 5.の後、少なくとも 4.に答えてからでしょう。
ここで訊く順序を間違えてしまうと「志望理由」が「後付け」になっていても、それと気づけず、必要な立ち止まりのチャンスを失います。

❏ 補うべきものに気づくだけでも大きな進歩

きちんと書けるようになっているなら「あとは頑張るだけ」ですが、実際に書かせてみると、最初の質問で躓く生徒も少なくないようです。
如上の質問の一つひとつに向き合い、自分の中にあるものを言語化する中で、以下のそれぞれがどう分布しているか気づけます。この状態に達してこそ、次にやるべきことがはっきりと見えてくるはずです。

  • 現時点できちんと答えが書けるもの
  • 内容に曖昧さが残ってしまうもの
  • 書くことが思いつきさえしないもの

中には、やりたい事が見つからないことに悩んだり、自分を責めてしまったりする生徒もいるでしょうが、質問に答えようとすることを通し、現状を冷静に捉えてこそ、次への一歩が踏み出せます。
先生方をはじめとする、信頼できる相談相手との対話の中で、現況とこれからの課題を整理していけば、書けるものは徐々に増えていきます。
面談などを通じて、生徒の進路意識の形成や進路希望の具体化をサポートしていくにも、まずは、生徒一人ひとりが、如上の質問のそれぞれにどの段階にいるのかを知るところからではないでしょうか。

❏ 遅れがあっても焦らずに着実に歩を進めさせる

進路意識と進路希望を作らせる指導は重要ですが、遅れがあるからと言って徒に焦らせるのは避けたいところ。とりあえずの選択を促してしまうと、選んだ以外の可能性を探さなくなるリスクが膨らみます。
本来なら、如上の質問群には、ゼロ学期(2年生)のうちにある程度以上の答えが書けるようになるべきでしょうが、進級後の日々の学びに取り組みながら、自分の(より良い)答えを探していくのも大切です。
ゼロ学期を迎える時点で行う如上の指導は、生徒一人ひとりの現在位置を、生徒と先生が正しく認識するためのもの。ここから何をすべきかを捉えて、それを一つひとつクリアさせていくのが肝要です。
進路を選べないこと/選んだ理由が書けないことに思い悩んで、勉強が疎かになっては本末転倒。興味は、努力して達成した中に生まれるものですから、「やりたいことが見つからないなら、なおさら勉強」です。
言うまでもありませんが、悩みを抱えて勉強がお留守になっては、成績も伸びません。ようやく進路を見つけ出したときに今度は学力が壁になってその道を選べない、という事態は何としても避けたいところです。

❏ 自分の選択に向き合うことを目的に

総合型選抜など、志望理由書の提出が求められる場合を除けば、志望理由書を無理に書かせる必要はないのかもしれませんが、言語化することを通して自分が選択したことに向き合う機会は有益です。
このステップをしっかり踏んだかどうかは、「受験に向けての頑張り」はもとより、「大学に進んでからの学業」への意欲も左右します。
実際の受験期を迎えて、選択した結果に向き合うことができるかどうかも、進路意識の形成過程をしっかり踏めたかが大きく左右されます。
もちろん、18歳での選択にその後の人生が縛られる必要はなく、新たな興味を見出したら自由にそれを追求していくべきでしょう。言うまでもありませんが、キャリアは選ぶものではなく重ねるものです。
しかしながら、選択に向き合えないと、その後の行動にも悔いが付きまといがち。後ろ向きな気持ちでは、チャンスがあっても活かせません。

現時点での選択に向き合うからこそ、頑張れるし、その結果、新たな世界が拓かれていく可能性が広がるということだと思います。立ち止まっていては、クランボルツが「計画的偶発性理論」で言うところの「偶然との出会い」は生じなくなってしまいます。
■ご参考記事:

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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