効果測定は、理解者と賛同者を増やすため

以前の記事「 効果測定とスクラップ&ビルド(教育資源の最適配分)」 をお読みいただいた先生から、「効果測定や成果検証の必要性は十分にわかっているが、作業が増えることに負担感もあり、どうしても二の足を踏んでしまう」とのご感想を頂戴しました。
確かに、指導の効果測定を行うには相応の手間がかかります。「足し算だけのビルド&ビルドから抜け出そう」との文脈なのに、そこに無駄な作業を新たに作るのでは、何を目指しているのかわからなくなります。
しかしながら、効果的な指導/取り組みなら、周囲の先生にも理解してもらい、賛同者を増やす必要があります。そのために欠かせないのが、効果を示す記録(データ)の収集と整理です。効果検証の手間よりも、優れた指導の広がりという利益の方が大きいように思います。

2016/11/11 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 周囲の理解を得るには、効果を実証的に示す必要性

お一人の先生がどれほど素晴らしい教育を行っても、その恩恵にあずかれるのは、その先生に直接教わっている生徒だけです。
効果を上げている指導や教育手法を周囲にしっかりと伝えて、それに対する理解者と賛同者を増やすことは、より多くの生徒に成長のチャンスを与えることを意味します。
上手くいった方法を周囲に押し付けるということではなく、互いが持つ優れた工夫を組み合わせて、さらなる進化を目指すということです。

ご自身が感じる手応えや、成果への確信という感覚的なものだけでは、周囲の先生方に納得してもらい、同じ方向に歩む協働者になっていただけるとは限りません。もともと違うアプローチを採っていた方々を巻き込もうとするなら、尚更でしょう。
そこで必要になるのが、効果を実証してみせることです。指導に要する手間の大きさより、得られる効果の方がはるかに大きいことをデータで示すことができれば、「なるほど、ちょっとやってみるか」という気持ちになっていただけるのではないでしょうか。
ここで活用すべきデータは、考査や模試などのテストの成績、あるいはレポートの採点結果などに現れた「アウトプット」や、ルーブリックに照らした活動評価の結果、アンケートの回答の分布など様々。後述の通り、指導期間を経た「前後の差分」に成果を読み取りましょう。
学校に限ったことではありませんが、周囲を巻き込むには、先ずは自分の取り組みと意図を伝え、効果のほども含めた具体的なところを知ってもらい、一緒にやってみようと思ってもらう(いわゆる【認知→理解→共感】の3フェイズを経る)ことが欠かせません。
最初のステップである【認知】は、実践報告や授業公開などでも作れるかもしれませんが、取り組みで得られた効果をデータを用いて実証的に示さないことには、【理解】や【共感】への到達は困難でしょう。

❏ 新たな工夫で生じた「変化」に着目して成果を把握

指導法の改善に取り組む中で、新たな工夫を取り込んでみると、生徒の反応やアウトプット(答案や課題のできなど)に変化が見られます。
その変化の量は、まさに新たに採り入れた工夫がもたらした成果です。
様々な改善を重ねてきた複合的な結果としての「現時点の生徒のパフォーマンス」を伝えるより、「こういう取り組みで、このような変化/改善が生じた」と変化に焦点を当てた方が、取り組みへの理解と共感も得やすく、実践に倣ってみようとする機運も刺激しやすいはずです。
実際、大きな効果を期待してどんどん新しい工夫を採り入れていると、どの工夫がどんな効果を得ているのか、本人すらわからなくなってしまうことがあります。そんな状態で実践を伝えても、「何がどう作用して得られた効果なのか」、周囲の先生もピンとこないはずです。
新たな手法を試すときには、ビフォア/アフターを比較できるよう、改善前の学習評価の結果(答案、レポート、行動評価、アンケートなど)をきちんと記録しておき、同じモノサシを改善後の状況に当てて、両者の差分(=指導の効果)を明らかにできるよう準備をしましょう。

良かれと思い試した工夫が、どれだけの成果を得ているのか、費用対効果は十分か、ネガティブな影響はないかを確かめるにも、改善を図った前と後の比較は不可欠ですが、その比較資料は、取り組みに対する周囲の認知・理解・共感を得る材料に転用できるということです。
試行錯誤に生徒を巻き込み、成長を足止めするリスクを避ける必要があるのは当然ですが、実践を伝えて周囲の理解と共感を得るときも、誤った方向に周囲を巻き込まない(ミスリードを起こさない)よう、効果測定の方法は、他条件を揃えるなど、慎重な設計が求められます。

❏ 効果を測定する活動そのものにも、賛同者を増やす

繰り返しになりますが、それぞれの先生方が工夫を重ねて得た指導手法に関する知見は、教科や学校の中で認知・理解・共感を得て、指導手法のさらなるブラッシュアップに向けた協働につなげたいもの。
この「効果測定を行うことで、実践への理解者と賛同者を増やす」という取り組みそのものもまた、より多くの先生方に共有・実践してもらうべきものだと思います。発信者が一部の先生に限られては、優れた知見の少なからぬところが埋もれたままになってしまいます。
とは言え、周囲の先生方に「取り組みには効果測定を」と熱く語ったとしても、思いは届かないことの方が多いかもしれません。頭でわかっても【認知】や【理解】で止まってしまい、【共感】には至らず、ときには「ブーメラン効果」で余計な反発を生むことすらあり得ます。
必要性を訴えて義務感/やらされ感を刺激するよりも、ご自身の取り組みを伝えるときに効果測定の結果をデータで示すことを繰り返す中で、効果測定の方法を知ってもらったり、データが説得力を補強することなどを実感してもらった方が、周囲の望ましい行動に結びつきそうです。
効果測定という活動そのものへの賛同者を増やすにも、【認知・理解・共感】の3ステップを順番に踏んでいく必要があるということです。

❏ 管理職の立場からの働きかけも、活動の後押しに不可欠

個々の先生や、教科、分掌、学年などの組織が、新しいことを発案してきたとき、効果が見込めそうだと思ったら、管理職の先生方は「それは面白そうだね。かなりの効果も期待できそうだ」といったコメントを添えて活動の開始を承認されているかと思います。
ここでもう一言、「効果が確認できたら、理解者と協力者を増やし学校全体の取り組みに根付かせたいから、データで効果を検証する方法も考えてください」とつけ加えていただきたいところ。
効果が不確かな(あるいは小さい)教育活動にまで教育リソースを分散させてしまっては、学校の教育目標の達成を遠ざけかねません。活動を承認する以上、効果測定を求めるのは管理職の責任と言えそうです。

効果のない取り組みに生徒を巻き込むことはできませんし、優れた実践を一部のものに止めてしまったり埋もれさせてしまうのでは、より良い学校を作っていくことに不要なブレーキを踏むことになります。
指導の効果を測定するデータの取得に、他の組織(分掌や学年など)との連携が必要なときも、組織を跨いだ協力体制が必要なときも、管理職の後押しや働きかけがあれば、スムーズな動き出しになるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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