秋には、生徒が様々な「選択」の場に臨みます。1年生は2年からの履修科目群、2年生は進路希望の具体化の中での志望学部、3年生は出願する先を決める中で、先生方との面談は非常に大きな意味を持ちます。
それぞれが、進路学習を通して得た情報を消化し、自分事として解釈していかなければなりませんが、刺激を上手に消化するには、信頼出来る相手との相談も欠かせないもの。当座の正解を見つけるだけでなく、正しい選択をする方法と姿勢を学ばせる面談にしましょう。
限られた期間に大勢の生徒との面談が控えていますので、面談は効率的に進めたいところ。本音を上手く引き出せなかったり、話が脇道にズレたのを修正できずにいたりすると、目的を達する前に時間切れです。
結論を急ぐだけでは、見落としが増え、選択の力も育てられません。結果的に面談の意味も失います。一方、話が核心に近づけないのも大きな問題になります。面談本番だけでなく、事前のやり取りも通して、対話の焦点をしっかりと持てるようにしておくことが大切です。
❏ 面談の目的を、予めしっかり伝えて準備をさせる
面談の場での対話が頓挫する(とまでは言わずとも、なかなか核心に迫れない)のは、生徒側での準備不足による場合が少なくないはずです。
履修科目選択を控えた場面で、進路希望とその理由を確かめようと面談を行っても、生徒がしっかり考えていないのでは、聞けることなどありません。無理に答えを求めては、考えなしの選択を強いるだけです。
面談期間を迎える前に十分な時間を取って、「面談までに考えておくこと」をリストで示し、しっかり準備させておくことが何より重要。
別稿「先に控える選択の機会をいつ認識させるか」でも書いた通り、どの段階から準備に意識を向けさせるかは指導計画の要です。3か月、半年先に迫る分岐やハードルを示し、それに備えて何を準備していくか、生徒自身にもしっかり考えさせましょう。
もし面談開始後に、生徒の準備不足に気づいたら、そのまま面談を続けるより、「やり直し」の日を決めて仕切り直しとするのが好適です。
❏ 面談フォームへの事前記入とそれを介した先行対話
とはいえ、面談への準備が十分でない生徒が一定数を占めていたら、再設定による延期が頻発。それでは、面談を終わらせるべき時期を超過してしまいかねません。選択の期限は動かせないことも多いはず。
予めできることは、事前準備をいかに担保するか。上述の通り、面談の予定を伝えて、それまでに考えておくべきことを明示しておくのは大切ですが、それだけでは宿題の場合と同じで、やらない生徒がいます。
面談フォームを事前に配布し、それに記入させたものを面談の1週間前などに提出させて、準備が十分か予め点検しておくのが有効です。
現時点での選択や希望をただ書かせるのではなく、現時点でその選択に至った経緯と、選択の先にどんな風景を想像しているか(進路をイメージしているか)を尋ねて、言語化させるようなフォームにしましょう。
以下のようなことをGoogleフォームなどで尋ねるので十分かと。勿論、フェイズに応じて項目は変わり、指導方針でのアレンジも必要です。
- 進路の方向性(文理・学部・職業イメージなど)
- そう考えるようになったきっかけ
- 3年次に履修したい科目(候補)
- その理由
- 進路の先のイメージ(大学で学びたいこと/将来の姿など)
- 不安に感じていること/まだ決めきれていないこと
- 今後さらに調べたいこと/誰かに話を聴いてみたいこと
紙ではなくクラウドでフォームを用意すれば、入力や回収の手間を省くだけでなく、書かれた内容へのコメント返信も簡単に行えます。
返信コメントで、「生徒が言語化できていないこと」を尋ねることで、思考の不足に気づかせ、面談本番までに改めて思考を深めておくように仕向ければ、面談の場で立ち往生することも減るはずです。
そもそも事前にフォームを通じて、一度やり取りしているので、生徒は自分の選択により向き合っているはずであり、その様子を先生方もある程度のところまで把握できていますので、面談はよりフォーカスの明確なものになり、実りある対話が実現する可能性が高まるはずです。
❏ 面談への事前準備の効率化を図るためにAIも利用
生徒がフォームに記入したものを吟味・評価し、コメントを返すのは手間ですが、とても大事なこと。AIの活用で効率化しましょう。
生徒が送ってきた回答データと、適切なプロンプトさえ与えれば、返信コメント(面談までの宿題など)の案くらいは作ってくれます。
もちろん、AIは「適当なこと」を平気で言いますので、出力されたものをそのまま生徒に返信してはいけません。しっかりと吟味して、必要な修正を加えて、コメントを調えるべきなのは言うまでもありません。
プロンプトには、学校や学年の進路指導方針をしっかり書き込みましょう。何も指定しないと、AIが出力するのは「一般的な間尺に照らした尤もらしいこと」だけ。指導方針と競合も起こしかねません。
これまでの面談記録(進路希望などの変遷も読み取れます)や、模試や定期考査の振り返りを通して起こしたリフレクション・ログなども、記録が残っているなら一緒にアップロードするのが好適です。
一定期間を経た生徒の成長(進路希望の具体化、明確化)も読み取れ、認めるべき「進捗」も明らかになるとともに、まだ残っている改善課題も特定しやすくなります。また、記述の矛盾も検知できますので、面談での対話を通じた確認をし損ねるリスクも減らせます。
❏ フォームへの記入の背後にも想像を巡らせる
事前フォームに生徒が「しっかり」と(矛盾なく、ある程度具体的に)記入しているとしても、それが本音であるとは限りません。
様々な理由で、生徒は本心を隠して、周囲から認められやすいことを口にしたりすることもありますし、自分の選択に自信が持てずに選択を他者に委ねて(本音から離れて)しまっていることもあります。
本当の想いを親や先生に伝えても、選択に反対されたり、無理だと言われたりしないかと不安や葛藤を抱けば、無難なストーリーを作ってしまうこともあり得ます。やがてそれを「自分の選択」と思い込むようになっては、本当の自分との出会いはなくなってしまうかも…。
以下のようなパターンもあることを想定し、選択の背後にあるものをしっかり捉えることは、面談本番での最優先課題の一つでしょう。
- 「正解を求める心理」(生徒が自分の判断に自信を持てずにいる)
- 「面談に臨む前の準備が不十分」(自分事として整理していない)
- 「叱責を受けるのではとの不安」(話題を避ける、はぐらかす)
- 「プロセス軽視で結論を急ぐ」(決めること優先で過程を省く)
- 「言語化できていない不安や葛藤」(内省不足で悩みが未整理)
こうした事情に想像が及ばず、事前フォームに書き込まれたことを先生が鵜呑みにしてしまったら、生徒は本当になりたいものに近づくチャンスを失いかねません。生徒が言葉にしたことは、一つひとつその真意を確かめるべく、問いを重ねてみるようにしましょう。
鵜呑みにしては、目指したはずの「生徒理解」とは程遠く、面談を行った意味も薄まります。少々の苦難に直面しても、諦めずに目標の実現に歩みを進められるのは、本音で向き合った結果としての選択の場合だけです。cf. 諦めない心は諦めたくないものを見つけた人に
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一