予習というと「次の授業で新たに学ぶことに生徒が自力で理解を試み、学びの土台を整えたり、疑問点を洗い出したりすること」と捉えるのが一般的ですが、それが上手くいくケースばかりではありません。
生徒が自力でできることには、小さからぬ個人差があり、十分な策を講じることなく「生徒任せ」にしては、次の授業を始めるのにスタートがバラバラになります。発走地点に到着していない生徒も続出でしょう。
その日の授業に向けた「予習」は、前提知識を確保したり、学習内容に対する問題意識を持ったりするのに欠かせませんが、次の授業の予習ができる状態を作って授業を終えることをルーチンにしないと、せっかく予習に課した課題やタスクが、学力差を拡大させるだけになります。
2017/11/20 公開の記事をアップデートしました。
❏ 「予習→授業→復習」の学習サイクルに潜む問題
昭和から続く昔ながらの「授業と予復習からなる学習サイクル」は、
- 予習: はじめて学ぶ内容を、予め自力で勉強しておく
- 授業: 予習で得た理解を土台に、より深い学びに進む
- 復習: 授業で学んだことの定着を目的とした反復学習
といったところではないでしょうか。反転学習が試されるようになった現在でも、基本的な形は大きく変わっていないように思います。
ここで問題となるのは、予習フェイズにおいて、関連する既習単元の理解が不十分であったり、辞書を含む参照型教材の使用に習熟していなかったりした場合、予習そのものができないということです。
その結果、本時の授業を理解したり、授業内活動に参加したりするのに必要な前提理解や問題意識を十分に整えられないまま、授業に臨む生徒が混じることになります。
十分なレディネス(学ぶ準備)を整えていた生徒は、その日の授業でも新たな成果を積み上げ、自力で予習できることがさらに増えますが、それ以外の生徒に顕著な進歩は期待できそうもありません。
知識や技能、思考力といった結果学力だけでなく、「予習を行う力」にもクラス内の差が拡大し、問題はますます深刻化していきそうです。
❏ 予習ができる状態にして教室を離れさせる
如上の「悪循環」が生まれる原因は、予習ができるだけのレディネスが確保されていないまま、予習を課してしまったことにあります。
授業を終えるときに、次の授業の予習ができるようにしておくことが、問題の解決に向かう鍵です。
次回の授業の予告を行いながら、学びの前提となる既得知識の再記銘を図るとともに、問題意識を刺激するようにしてみましょう。
予告と言っても、単元名の提示だけでは大した効果は期待できません。次の授業を通して答えを導くことを目指す問い(ターゲット設問)を示した方が、よほど効果的です。授業の「山場」も想像できるでしょう。
関連する(=その問いに繋がる)既習内容を2つ、3つ問いかけてみるのも好適です。既習内容を学んだ時のノートやプリント、教科書の該当ページを開かせれば、不明解消に参照すべき箇所の確認もできます。
問いに触れて、生徒の頭の中に「疑問符」が浮かべば、学ぶことへの自分の理由も作れる上に、何を目指すのか展望も描けるかもしれません。
それでも「次回の学びへのイメージ」がわかない様子なら、ペアや前後左右の小グループで、問いへのアプローチを話し合わせてみましょう。
❏ 次回予告は、授業の導入フェイズと同じ機能を持つ
前段で書いた「予習をできる/しようと思う状態」を作るには、授業の導入フェイズを進めるときのやり方を、ほぼそのまま使えるはずです。
授業理解の土台を作り、積極的な参加姿勢を引き出そうとするのなら、導入フェイズをきちんと設計する必要がありますが、そこで講じる手段は、生徒を次の授業の予習に向かわせる上でも有効ということです。
授業におけるメインパート(学びの本体となる学習活動)に導くためのレディネス作りが、「授業の導入」であり、予習に向かわせるのが、前時の授業の終わりに行う、「次の学びへのウォーミングアップ」です。
予習ができるだけの前提知識を整える方策を生徒に持たせ、予習してみようという気にさせてこそ、生徒を予習に向かわせることが可能です。
❏ 自力でできるようになるにつれて徐々に手を放す
こうした指導を重ねて習慣化を図り、予習を行う方法と姿勢を生徒の中に育みましょう。そこに至れば「次回の予告パート」をわざわざ設ける必要もなくなります。タイミングを見て手を放していきましょう。
いつまでも先生が丁寧にガイドしていては、学習者としての自立が遅れます。少し手を放して(=生徒に任せて)みて、様子を見ながら、手引きをやめるタイミングを判断していくことが大切です。
目安として、生徒の7割くらいが「具体的な指示をすれば、適切に予習に取り組める」状態に達したら、細かな指示を控えて良いはずです。
指示を間引いたところも、生徒が頭で考えて補えている様子なら問題はないはず。中にはピンとこない生徒もいるかもしれませんが、周囲の生徒がやっていることを見て理解したり、尋ね合ったりもできます。
拙稿「学び方における守破離」でも書いた通り、生徒が学びを積んで学習者として成長しているのに、いつまでも先生が先導し、手を引っ張っていては、生徒の成長にブレーキを掛けることになりかねません。
最初のうちは、ついてきているか注意しながら先導し、徐々に「並走」に切り替え、やがては「見送る」のが教師の仕事の本質だと思います。
❏ 学習のサイクルそのものを変えてしまうのも好適
ここまでにご紹介してきたアプローチ以外にも、「予習の履行不足」という問題が授業に与える悪影響を排除するやり方は色々でしょう。その一つが、学習サイクルの「切れ目」の位置を変えてしまうことです。
授業開始前に行っていた、所謂「予習」に該当するものを、授業内(冒頭)に組み入れて、その代わりに「導入→展開→演習→まとめ」における後段フェイズを、授業後の個別学習に切り出す形です。
- 授業準備では、新しい単元や教科書の未習箇所の「予習」を課さず、
- 授業が始まってから導入(ターゲット設問の提示と既得知識の確認)を行い、
- 教えたり、調べさせたりた後に、教え合いや討論を経て、学びを広げて深めつつ、
- ターゲット設問に立ち戻り、答えをまとめる方法を考えさせたら、
- 自分の意見をまとめたり、答案を仕上げたりすることを次回までの宿題とする。
次回の授業では、生徒が持ち寄った「宿題の答え」(各々が考え尽くしてきたもの)を教室でシェアすることができるため、さらなる「学びの進化と拡充」が期待できるのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一