生徒が経験してきた学習活動/学習履歴は、個人でも集団でも、それぞれ異なります。学習履歴の違いは説明や指示の受け止め方などにも違いを生むため、同じ指導を行っても、各々の反応が異なるのは当然です。
どんな反応が返ってくるのか予想しきれない以上、生徒の反応を、精緻な観察とアンケートの結果なども参考にしっかり捉えながら、指導計画の修正を重ねなければ、学びを意図した方向に導くことはできません。
2014/10/29 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 反応を探りながら最適解を見つける
先生方の認識が生徒の認識とどの程度一致しているのかは、実際に生徒に尋ねてみるしか確かめる方法がありません。
ある学校で、導入フェイズでの学習目標の提示法を研究するために、先生方が協力して様々な方法を試していたことがありました。
毎回の授業で、リフレクションシートに「本時の学習目標は何であったか」を生徒自身の言葉で書かせる欄を設けて、生徒の認識とその度合いを把握し、より効果的な方法を探ろうとしておられました。
試行錯誤を繰り返すだけでなく、こまめにチェックすることで、クラスの特性に最も適した方法を、できるだけ早く見つけようとしている点には、その様子を拝見していて感心しました。
副次的な効果として、生徒が学習目標を意識し、自分の言葉にすることが習慣化され、学びに対する主体的な姿勢が育まれたとのことでした。
追記:最近は、AIの導入で自由記述の回答もデータとして解析できるようになり、生徒の認識傾向やその変化も捉えやすくなったそうです。テキストマイニングやキーワード分析、背景要因の推定からフィードバックまで手伝ってくれます。目視と手作業の時代とは隔世の違いです。
❏ 小テストの余白を使ったミニアンケートの導入例
別の学校で見かけたのは、小テストにミニアンケートを組み込むことで先生方が日々の授業を振り返ろうとされていた取り組みです。
「先生は、達成すべき目標やポイントをはっきりと示してくれた」
「今日の授業で、学びの深まりや広がり、自分の進歩を実感できた」
という2つの質問を、毎回の小テストで氏名欄に添えて印刷しておき、
「とてもそう思う」「そう思う」
「どちらかと言えばそう思う」
「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」
の選択肢のいずれかに○を付けてもらう、という単純な方法です。
前述の例に比べ、自らの認識を言語化することによる「振り返り」の効果は期待しにくくなりますが、手軽さではこちらが勝り、アンケートの結果を定量的に解析できるというメリットもあります。
ちなみにこちらも、近年ではタブレットからのアンケートフォームでの運用に変わっており、採点も集計も自動化しているとのことでした。
❏ 新しい方法を試しているときこそ、こまめに調査
上記の2例はいずれも、導入フェイズにおける学習目標提示に関するものですが、他の事項についても、何か新しい方法を試し始めた際には、いつも以上にこまめに学習者の認識を探ることが大切です。
例えば、ジグソー法を採り入れたり、PBLに転換を図ったりしたら、これまで経験したことのない学び方に生徒は多少なりとも戸惑うもの。
先生方は、熟慮を重ね、授業を設計します。そのため、自らが意図するところ(生徒の主体的な学びへの期待)は明らかなはず。しかし、それを学習者が同じように認識・理解している保証はどこにもありません。
もしかしたら、静かに座って話を聞くことに慣れていた生徒が、あちらこちらで言葉のやり取りが同時に起こる中で、「先生の説明が聞き取りにくい」と感じていることさえあるかもしれません。
PBLでは、自力で資料に当たって情報を集め、必要な知に編むことを求められます。しかし、これまで「丁寧に教えてもらったことを覚えるのが勉強」と考えていた生徒は面食らうことでしょう。結果的に「何をすればよいかわからない」と感じては、学びが止まってしまいます。
先生方の意欲的な取り組みほど、生徒にとっては不慣れで戸惑いを覚えがちな場面であることを、しっかりと認識しておくことが大切です。
❏ 様々な方法を試し、アンケートの結果で検証
新たな手法を採り入れれば、生徒に大なり小なりの混乱と戸惑いが見られるのは半ば当然。短期間なら「やむを得ないもの」と割り切りつつ、対応を進めましょう。(cf. 新しいことに生徒が戸惑いを見せても)
しかし、それがいつまでたっても収束しないのは問題です。
こまめにアンケートを取り続けるのは、新しい学ばせ方への転換に、生徒がどのくらい適応してきたかを見極めるために欠かせません。
期待するほどのペースで、新しい方法への納得と習熟が進まないこともあります。その場合、授業方法を微調整する・個別のフォローを増やすなどの対策が必要です。
しかしながら、感覚的に生徒の様子を眺めているだけでは、進み具合を正確に把握できず、必要な対処の選択材料が得られません。
複数の先生がそれぞれ最善と思う方法で取り組んでいるなら、それぞれのクラスで同じアンケートを行い、結果を突き合わせてみましょう。
データの比較からは、どんな指導を行えば、戸惑いの解消に要する期間を短縮できるのか、といった貴重な指導知見が得られるはずです。
❏ 好ましい資質や姿勢の獲得に関する生徒の自己認識
教科学習以外の領域での指導にも拡張してみると、以下のような事柄についても、「外からの(=先生方による)観察と、生徒自身の認識(感覚?)との間には、ずれが生じていることが多いようです。
- 立場や考えの異なる相手の意見にも耳を傾けられるようになった。
- 将来を考えて、どんな行動を取るべきか考えられるようになった。
- 高校生としてふさわしい集団生活のマナーを守れるようになった。
- 協働で課題の解決を図るとき、自分の役割を理解し果たせている。
いずれも「好ましい資質や姿勢の獲得状況」と括れるものでしょう。これらを獲得させる指導の中で、自己認識(生徒自身の見立て)と他者認識(先生方による評価)が大きくずれていることも少なくありません。
そうした場面を見逃さずに、適切な手を打つべきなのは当然のこと。例えば、「自分は協力的に行動している」と考えている生徒が、実際にはクラス内で孤立していた場合、適切なフィードバックが必要です。
アンケートを通して、本人の認識とこちらの見立てが大きくずれていることが把握できたなら、面談の機会を待って、少し掘り下げて話を聞いてみてもいいのではないでしょうか。
また、全クラスで同じ質問項目のアンケートを継続的に行ってみれば、如上の質問に対する肯定的な回答の割合の変化も捉えられます。
一定期間を挟んで、肯定的な回答が大きく増えたクラスには、その変化をもたらした何らかの要因があるはずであり、実践の共有を図れば、学年/学校全体で指導ノウハウの蓄積も進むはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一