外部から講師を呼んで行う進路講演は、普段聞けない話に見聞を広げることで新たな世界の見方を知る、生徒にとって大切な成長の機会の一つですが、何の準備もなくただ話を聞かせるだけでは効果は限定的です。
前もって講演のテーマについて、調べたり、考えたりする「事前学習」の機会を設けることで、講演からの学びは大きく膨らみます。
多忙な日常の中で、生徒も先生も行事にむけた事前準備などにそうそう時間を当てられないという事情もあろうかと思いますが、せっかく行う行事が実りの小さいものになっては、費用対効果は低く、それこそ無駄な時間を過ごしたことになりかねません。
2017/01/25 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 講演テーマについて「認知の網」を張らせておく
せっかくの講演も、まったく問題意識を持たない状態で聞いたのでは、大事な情報も思考を刺激することなく頭を素通りしてしまいます。
同じ話を聞いても、周辺のことにある程度の知識があれば、より深く理解できるだけでなく、より広い範囲に思考を巡らせることもできます。
講演テーマについて事前に少しでも調べたり、考えたり、場合によっては話し合ってみたりしておくことで「認知の網」を整えておけば、受け止められるものがぐんと大きくなるということです。
講演会の実施予定を生徒に通知するときに、講演者との打ち合わせの中で挙げてもらったキーワードを提示し、それを検索キーにした調べ学習を生徒に課してみるのも好適かと思います。
生徒はスマホでの検索はお手のもの(?)。ちょっと時間を与えるだけで結構な情報を集めます。調べて知ったことを発言させながら、先生方からの問い掛けで「自分との関わり」に気づかせていけば、講演を聞くためのレディネスも整っていきます。
調べたり、考えたりする中で、さらに深く知りたいことや講師に訊いてみたいことなど(=興味)も浮かんでくるはず。それらの答えを得ることが講演を聞くことへの「自分の理由」になるはずです。
興味や関心、問題意識を持たせないまま講演を聞かせた結果、居眠りや内職を注意して回らなければならなくなるのも面白くありませんよね。
❏ 担任の先生からも同じテーマで話をしておく
日々のSHRで担任の先生から話して聞かせることも、講演に臨む生徒のレディネスを整えさせるのに重要な役割を持ちます。
講演と同じテーマで、担任の先生が考えることを話して聞かせておきましょう。担任の先生の話と講演の内容は当然ながら(似てはいるかもしれませんが)違うものになりますので、生徒はより多角的な理解ができるようになります。
似たような話をどこか別の場面で聞いていると、新しい話を聞いたときに「ああ、そういうことか」 と合点することも多々ありますし、担任の先生の思いをしっかり伝えておけば、講演で生徒が受ける刺激にも方向性を持たせることができるはずです。(過度な誘導は逆効果ですが…)
また、生徒に話をする前に、講師の著作(書籍やホームページなど)に先生が目を通しておけば、当日の話を聞かせる前に前提として押さえておくべきことに思い当たるかもしれません。
講演の内容をより生かすために、これまでの進路指導の中で生徒自身が気づいたことや考えたことを整理させておいた方が良さそうなら、具体的なやり方を添えて指示を出しておきたいところです。
❏ 行事の目的や位置づけを教員間でしっかり共有
講演を機に生徒にどのような変化や成長を期待するか、その学年を担当する先生方でしっかりと共有しておくこともまた大切です。
これを怠ると、如上の事前準備が十分に行われないクラスがあったり、方向性を誤った指導が行われたりといった、あらぬ事態を招きます。
学年団を構成する先生方のみならず、教科担当として学年の指導に関わる先生方にも、しっかりと「講演の目的」や「3年間/6年間を見通した指導計画の中での位置づけ」を伝えておきましょう。
講演の内容を受けて、それぞれの先生方がご自身の経験や知見を生徒に伝えていけば、生徒はより多角的に自分の未来を考えることができるでしょうし、講演で受けた刺激も上手に消化していけるはずです。
行事を通して、生徒がどのような刺激を受け、どんな課題に取り組んでいくのかを知っておいてもらわないと、こうした関わり/支援が期待できなばかりか、下手をすると分掌や学年の意図を十分に知らない先生方からの不用意な発言が全体の指導と競合を起こすことすらあり得ます。
行事を計画する段階から、先生方の目線を合わせるために、行事の目的や期待する指導成果などを話し合う中では、様々なアイデアも出てくるはず。それらをうまく取り込めば、企画そのもののブラッシュアップも図れるのではないでしょうか。
そこでのやり取りで出てきたものを講演の講師に伝えておけば、講師の側でも現場の先生方の思いを汲んで話の内容をアレンジできます。現場の先生方の思いが強く伝わってくるほど「一緒に仕事をしている感覚」を講師も持てますので、より良いものにしようとの意欲も高まります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一