作成・保存されているデータの"たな卸し"から

どの学校でも実に様々なデータが蓄積されています。進路指導の領域に限っても、模試成績、家庭学習時間、志望校の変遷、最終的な出願校と合否結果など、挙げていけばきりがありません。
データは、個々の生徒が抱える問題を把握するにも、指導の改善課題を見つけるにも欠かせませんが、現状においてデータが有効に利用できているとは言えない部分もあるのではないでしょうか。
どのようにデータを取得、保存し、活用に結び付けていくべきか、一度しっかりと考えてみる必要がありそうです。

2014/04/24 公開の記事を再アップデートしました。

❏ どの組織がどんなデータを持っているか、きちんと把握

データを有効に利用する方法を考えていく前に、まずは現状において校内でどんなデータが作られているのか、「たな卸し」をしましょう。
分掌や学年、あるいは教科が独自に、それぞれの必要に応じてデータを収集してきた結果、似たようなデータが”散在”しているケースも少なくありません。
比較的データの活用が進んでいる進路指導でさえ、進路指導部が管理しているものと学年進路が独自に持っているものがバラバラに存在しているケース(例えば、個々の生徒の進路希望など)もよく見かけます。
進路指導部は、模試の際に生徒が記入した「志望校」を集積しているのに対し、学年では「進路希望調査」の結果を持っていたりします。
双方をきちんと突き合わせていれば、「本来の希望と異なる志望校を挙げている生徒」などを見つけ出すのにも使えますが、どちらか一方しか見ていないのでは、正しい理解から遠ざかるばかりです。
同じようなことを、異なる訊き方で、それぞれの時期に調査すれば、違ったデータが手元に残ります。これでは、聴き方による違いなのか、時間が経過する中で生じた変化なのかも、区別がつかないはずです。
データの取得(調査)も、計画的に、且つ組織間できちんとすり合わせをして行う必要があるということです。

❏ 分掌・学年・教科に既存データの一覧を作ってもらう

各組織で、生活・学習・進路の各領域について、どのようなデータをどんな形で所持しているか、一度書き出してみるべきです。
各組織が所持しているデータについて、

  1. データの名称(ファイル名)とその概要★
  2. データの保存場所、閲覧・アクセスの方法★
  3. 生徒指導や指導戦略の立案に活用した場面★
  4. 媒体種別、データ形式
  5. ファイルに含まれる情報(データ構造、フィールド名一覧など)
  6. データのソース、調査方法・取得時期
  7. 平均値などの集計結果に加え、ローデータも保存してあるか★

といった事柄を調べてもらい、一元的に把握してみましょう。少なくとも、★を付した項目の調査は必須です。
ときには、ある先生のパソコンに入っているだけで他の先生はアクセスできなかったり、プリントアウトを綴じたファイルが棚を占拠しているだけでデータとしてまったく活用されていなかったりすることも…。

❏ 重複するデータ、使われないデータは取らないように

如上の調査をしてみると、同じようなデータを複数の組織でそれぞれに持っていることがあるのは、前述の通りです。
整理をして一方に統合すれば削減できた業務で、仕事量を無駄に増やしていたことにならないでしょうか。
同じ事柄を異なる手法(アンケートでも選択肢の構造や尺度の設定が違えば結果は違ってしまいます)で調査した結果、状況の把握を誤っていた可能性もあります。
上記3.の活用場面が曖昧だったり、活用の結果として効果が出ていないようであれば、調査にかけた労力が回収できていない、つまりは「調査のための調査」になっていたことにもなりそうです。
どんなデータが存在しているかを、どこかできちんと「たな卸し」してみることで、業務の合理化の糸口も見つかりそうです。

❏ 固有のIDを付与して、データを結び付けられる状態に

個々の生徒の指導や支援に活用することが想定されるデータは、回答者(=生徒)と回答内容がきちんと結びつけられる状態で取得・保存する必要があるのは言うまでもありません。
考査や模試の結果や、その振り返りの記録は言うまでもなく、

  • 様々なアンケート(家庭学習時間や進路希望の調査も含む)への回答
  • イベント(進路行事、校外学習、補習・講習など)への参加記録
  • 各場面におけるルーブリックに照らした評価結果
  • ポートフォリオに残された各種ログ
  • これらに対する先生方からのコメントや面談等での指導記録

なども、すべてのデータを、個々の生徒に結び付けた形で保存する方式になっているか、きちんと点検しておきましょう。
個々のデータを「混ぜる」ことなく、しっかりと保存しておきさえすれば、後になって必要が生じたときに、如何ようにでも解析が行えます。
教室でのタブレットやスマホの利用もごく普通のことになった今、如上のデータをオンラインで取得するようにすれば、ログイン時に使わせたIDで、すべてのデータを簡単に結びつけられます。
調査機会ごとに独自の形式でデータを集めていたとしても、データベースソフトや表計算ソフトでルックアップを設定すれば良い話です。

❏ ローデータが保存され、解析ができる状態か

これまで保存されているデータが、平均値や度数分布などの「統計量」やそのグラフだけでになっていないかも併せて点検しておきましょう。
報告書のような形で、データが整理されていても、詳しく解析してみようと思ったときに、ローデータが行方不明ということもしばしばです。
所謂「集計結果」だけが残っていても、相関係数の算出やクロス集計すらできないのでは、個々のデータの関連を調べることもできません。
授業評価や学校評価のアンケートは、個々の生徒の指導に活用する場面を想定しませんので、往々にして、ローデータの扱い(整理と保存)がずさんなことが多いようです。
集計の単位を変えて、データを見なおしてみるだけでも、思わぬ気づきがあったりするものです。
調査の結果をわかりやすく伝える形に加工(集計、グラフ化)することは大切ですが、加工が終わった後も、ローデータの保存は不可欠です。
ちなみに、アンケートフォームを転用して行った授業内のミニテストの結果だって、各設問に生徒がどう答えたか追跡できると、意外なところに有用な指導知見を見つけることも少なくないと思います。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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