データの組み合わせで見えてくる改善課題

どんなに精緻に設計した調査でも、そのデータを単独で見ているだけでは、個々の生徒が抱える問題点を把握しきれないことがあります。
例えば、模擬試験の成績が伸びない生徒について、家庭学習時間調査の結果を照らし合わせなければ、学習時間の不足が問題なのか、学習方法に改めるべきものがあるのか、問題の切り分けができません。
これに第一志望宣言などで記述させた志望理由の具体性や志望を固めるまでの経緯をスコア化したデータも加えれば、学習計画を見直させるべきか、志望理由を固め直すのが先決かの判断材料も得られます。
様々な場面で得られたデータや調査の結果を組み合わせることで、指導の方向性をより精緻に探れるはずです。

2014/04/25 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 個々の生徒のレコードをしっかり残すのが大前提

複数のデータを組み合わせた解析で、最も頻繁に行うのは、同一生徒についての「時間の経過に伴う変化量」の把握でしょう。
模試成績や家庭学習時間についても、ある時期の結果だけ見ても改善しているのか、停滞/後退しているのかの見極めすらつきません。
模試については業者が整えてくれるデータで十分かもしれませんが、校内で独自に行った調査では、個々の生徒について変化量を把握できる形式に整っていないことが多いようです。
進路希望調査にしても、「国公立大学志望が〇人」といった統計量に丸めた後の結果しか残っていなければ、そこからわかることはごく限られたものになってしまいます。
ポートフォリオに記録・保管する形で、個々の生徒のレコードを残していくことの必要性のひとつはここにあります。個々のレコードさえ保存しておけば、集団としての特性は再集計でいつでも把握できます。

❏ 定期考査の得点と公開模試の成績を比べてみれば

定期考査と模擬試験の成績を照らし合わせてみると、定期考査で成績上位群にいながら、模試成績では中位以下に埋もれている生徒がいるかもしれません。
真面目には取り組んでいるのでしょうが、実力に結び付いていないということは、学び方に改めるべき点がある可能性があり、教科担当教員によるコンサルも検討すべきでしょう。
また、個々の生徒のデータをもとに{考査得点×模試成績}の相関も定期的に算出して確かめてみる必要があります。

定期考査の平均点が適正な範囲に収まっていたとしても、模試や外部検定のスコアと相関しないなら、考査が求めている学力が、進路希望実現に必要な学力と違っている可能性を疑うべきです。

❏ 進路希望調査の結果と科目別の家庭学習時間から

国立大学を志望していたはずなのに、受験で必要な特定科目の家庭学習時間が減少している/増えてこないし成績も低迷したままという生徒がいたとします。
もしかしたら、国公立大学への志望をあきらめかけ、私大専願に気持ちが流れ始めているのではないでしょうか。
諦める方向に向かわせている原因を特定し、どうやればそれを解消できるか、生徒と先生が一緒に考える機会を持てれば、進路希望への意欲と努力を継続させられるかもしれません。
目標達成に困難が生じたときこそ、「目標を放棄する前に、まずは実現の方法を考える」という姿勢を学ばせるチャンスですが、必要なデータが揃っていないとその機を逸するリスクが高まります。

❏ 伸びている生徒と伸び悩む生徒の比較で得られる知見

個々の生徒の模試成績の伸びを追跡したデータをもとに、伸びた生徒と伸び悩んだ生徒を抽出し、それぞれの行動特性などを先生の記憶や様々な記録と照らし合わせることでも様々な指導知見が得られます。
照らし合わせるべきデータは様々ですが、

  • 志望校別の自主勉強会に参加したかどうか
  • 自習室をどのくらいの時間利用しているか
  • 任意提出としたチャレンジ問題の答案提出数

など、先生方が「効果的」と見込んで導入したり環境整備を進めてきたことなどは、その効果を検証するためにも統計的な有意性を確かめておきたいところです。
伸びている生徒の行動パターンが示せれば、後輩学年にモデルとして示すことも、先生方の生徒観察の視点とすることもできるはずです。

❏ 散布図の上において、個々の生徒の状況を把握する

また、集団としての特性を把握した上で、個々の生徒の状況をそれに照らして見ると、本人のデータだけをじっと見つめているよりはるかに、その生徒にとっての課題を特定するのが容易です。
日頃の学校生活で抱く感情や自己肯定感、将来の希望、学習の意欲やその理由などを調査するアンケートを行った場合、個々の質問への回答だけ注視しても、見えてくる生徒像はごく限られたものです。
各質問をグルーピングして算出した領域別スコアや、主成分分析で出力された得点を用いてパラメータを減らした上で散布図を描いてみると、座標のどこに位置するかで、個々の生徒の特性が垣間見えます。
もし、将来の希望ははっきりと表現しているのに、その理由が曖昧な生徒に何の支援もせずに放置しては、希望実現への意欲が低下したり、本当にやりたいことを見つけるのが遅れたりします。
個々独立に設定した質問/調査項目で得られたデータもまた、組み合わせて解析してみる必要があるということです。
その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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