規律ある生活、集団生活のマナー

規律ある生活を送り、集団生活のマナーを守れる生徒を育てるには、先生方からの「生徒に期待する行動」の絶え間ない発信が欠かせないものの一つですが、それだけでは所期の成果は得にくいようです。
併行して、「生徒自身が授業規律を考える機会」を設けて自律性を高めたり、「高校生としてのタスク管理やスケジューリングのスキル」を獲得させるための指導を計画的に行うことなども必要となります。
目指すところは、互恵意識で結ぶ学びのコミュニティの創出、生徒が互いの頑張りを支え合う集団作りではないでしょうか。

2015/06/18 公開の記事を再アップデートしました。

生徒意識アンケート⑩ 規律ある生活、集団生活のマナー
私は、規律ある生活を送るとともに、集団生活のマナーを守れるようになった

この質問に答えさせることで期待できる効果のひとつに「生徒の内省を促すこと」があります。質問に答えることを求められることで、意識がそこに向かい、行動を改めるきっかけになります。
もうひとつは、先生方が外から見て想像していたものと、生徒自身が感じていることのズレを察知できること。ズレを解消せずに放置しては、相互理解は進まず、信頼関係の構築も妨げるのではないでしょうか。

❏ 期待する行動を伝えつつ、生徒にも考えさせる

ルール、マナー、モラルなどを守らせようと、こうしろ、ああしろと口を酸っぱくして伝え、外圧で抑えているだけではうまくいきません。
先生の目の届かないところでルールを逸脱する行動を取ることもあるでしょうし、言われて従っているだけでは、状況が変化したときにどんな行動を取るべきか判断をする力が養えません。

教室内でのルールや高校生としてのマナーをどれほど熱心に伝えても、なぜそれを守ることが必要なのか、生徒が理解していないことには、うるさく言うほどに反発を招くなど、感情のもつれが生じそうです。
先生からの期待をしっかりと示した上で、その必要性を生徒自身が自分事として考える機会を作っていきましょう。
考えたことを発言させたり、ペアやグループで話し合わせたりして、生徒が考えていることを言語化させてみれば、その様子を観察することによって生徒がどこまで必要性を理解しているか確認できます。
もし、生徒が見落としていることや思考から漏れていることがあれば、そこに意識を向けさせる問い掛けで、気づきを促していきましょう。
新入生を対象とするホームルーム合宿を機会に、校則のいくつかをピックアップして材料にし、高校生にとっての規律とは何かを生徒たちにディスカッションさせている学校がありました。
後日、その効果を伺ってみると、与えられたものではなく「自分たちで導いた結論」として受け止められる生徒が増えてきたとのことでした。

❏ 行動選択の力を獲得させることからのアプローチ

生徒意識調査アンケートのデータを用いて、この項目(Q10規律ある行動)への寄与度を調べてみると、説明変数とした他の9項目の中で最も大きな値が観測されたのは、Q09 行動選択です。


生徒が「自分の目標」を見つけるなど、行動選択の基準を持ち、正しい判断ができるようになると、生活上の規律も自ずと改善してくるというのは、直感的にも十分に想像できますが、データもこれを裏付けます。
その一方で、Q02期待する行動との相関は、上の表内の数値を見ての通り、かなり希薄です。偏相関に至ってはほぼゼロという結果です。
この解析結果からは「先生の思いを伝えるだけでは上手くいかない、指導の強化だけでは十分な効果は得られない」という仮説を導かざるを得ないと思いますが、いかがでしょうか。

❏ 生徒の自己認識と先生からの評価のギャップ

先生の目からは、ルールやマナーからの逸脱が多いように見えても、生徒の側ではしっかり守っているつもりでいることも少なくありません。
アンケートを通じて如上の質問に生徒がどう答えているかを把握した上で、生徒観察を通じた先生方の見立てとを比べてみることは、その後の指導の進め方にヒントをもたらしてくれるはずです。
自分たちはちゃんとしていると思っているところに、あれこれとケチをつけられたら生徒も面白くありませんよね。
逆に、日頃の生徒観察では生徒の行動に明らかな改善がみられるのに、生徒の側では好ましい行動様式を獲得していることを自覚できていないこともあります。
好ましい行動を取れるようになったことを、言葉に出してきちんと評価して見せたり、なぜそれが好ましいのかを伝えたりすることで自己認識を正しく持たせれば、そうした行動の継続や固定に繋がります。
但し、これもやりすぎると、生徒は先生の期待に合わせるだけにもなりがちですので、前述の通り、生徒に考えさせることを優先しましょう。

❏ ビジネス手帳などを用いた日々の振り返りも効果的

ビジネス手帳を用いて、自己管理の方法と習慣を身につけさせようとする指導は、多く見られるようになってきました。
スケジューリングをさせたり、生活の記録を残したりするだけでなく、日々の内省の機会を整えることにも役立っているようです。

近年導入が進んでいるポートフォリオでいうところの「リフレクションログ」こそが、個々の生徒に成長のきっかけを与えます。
手帳を通じた担任の先生とのやり取りの中で、生徒は自分が考えたこと/感じたことにフィードバックを得ます。
自己を客観化したり、行き詰まりから抜け出すヒントを得られたりと、様々な効果をもたらすのではないでしょうか。
ただし、毎日、全員の手帳を点検するのでは先生方の負担も小さくありません。オーバーフローは形骸化に繋がります。曜日ごとにグループを分けるなど、継続可能な範囲に負担を抑える工夫も必要です。

❏ 効果測定を重ね、変化が現れるのを展望をもって待つ

新入生を迎えたり、学年が上がったりしたときには、先生方が示す期待の水準も一段と高いものになるかと思います。
当然ながら期待の水準が上がっていますので、それに照らした相対的な評価である、冒頭の質問への生徒の答えは、少なくとも一時的には否定的な方に傾くはずです。
頭で理解したことがすぐに行動に移され、次の瞬間には習慣として定着するようなことはむしろ稀であり、行ったり来たりを繰り返しながら、変化や成長が見られるのが普通です。
示された期待に応えるべく、生徒たちが自ら考え、工夫する中で「期待に応えられている」との認識を徐々に持つに至れば、再び肯定的な回答が増えてくるはずです。
期待を伝えてもなかなか生徒がそれを満たしてくれないとしても、あきらめず、且つ放置せずに、如上の展望をもって生徒の成長をじっくりと待ちたいものです。
当然ながら、そこでは、質問への回答の変化に現れる生徒の意識を、定期的・継続的に捉えておく必要があります。
授業評価アンケートに付随して行う生徒意識調査では、約半年のインターバルでの定点観測を行うことになりますが、比較的短いスパンで変化を期待したい場面では、指導と評価(=効果測定)のサイクルを短く設定するのが好適であるのは言うまでもありません。

授業のこと以外にも尋ねておくべき“生徒の意識”
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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