模試の結果や考査の答案を返却するとき、間違え直しや解き直しを指示することも少なくないと思います。出来なかったところを復習を通じて埋めて知識・理解の補完を図るだけでは、他の部分に不足が残ります。
配布された「解答と解説」を読んで「なるほど」と納得しても、それだけでは自力で題意を理解する力、解法を考え出す力が身につくかは疑問です。解法も示されたものを覚えるだけなら「知識」に過ぎません。
また、「事前のテスト勉強で身につけておくべきだったもの」が身についていなかった原因を見つけ出し、その解消を図らなければ、次の機会でも同じような失敗を繰り返すことになりそうです。
2016/06/27 公開の記事をアップデートしました。
❏ 知識の欠落を補うだけでは根っこの問題が未解消
模試や定期考査のたびに「間違え直し」を指示している場合、一定以上の割合の生徒に、次以降のテストで成績に改善は見られるでしょうか。
事後学習を終えた生徒にアンケートを取って、テストの間違え直しに取り組んだ度合い(真面目に取り組んだ~やらなかった)でグループを分けた上で、その後のテストでの成績変化を調べてみると、成績の変動に「グループ間の有意差なし」という結果になることもしばしばです。
正解を覚えるだけでは、まったく同じ問題に再会したとき以外にはあまり役に立たないでしょうし、同じ問題に出会うこと自体が稀なはず。
未獲得の知識・理解を補うことは大事ですが、一度の間違え直しで覚えられるとは思えませんし、「覚え方が非効率的」「覚える努力を習慣化できていない」などの根っこの問題を放置しては次回も同じ結果かも。
知識・理解は備わっていても、それらを題意理解・解法立案に活用できていなかった場合、模範解答をみて納得/丸暗記するだけでは、知識・理解を生きて働かせる方法を学べるかどうかも怪しいところです。
❏ なぜ間違えたのか、どう学ぶべきだったかを振り返る
一方、同じアンケートで以下についても尋ねてみると、それぞれに肯定/否定で答えた生徒の間には一定の差が確認できました。
- なぜ間違えたのか/ミスしたのか理由が分かった
- これまでの勉強方法のどこが良くなかったか分かった
事後学習用の「ポートフォリオ」(ひと昔前なら「やり直しノート」)への記載に、如上の記述がみられる生徒にも、経時的に観測した成績推移には有意な改善がみられる傾向があります。
題意をどう取り違えてしまったか、解法立案に際してどんな見落としをしたか、といった具合に「間違えたときの自分の行動・思考」を客観的に捉えることでの成長は小さくないはずです。
メタ認知・適応的学習力は21世紀型能力において「思考力」の一部を構成する要素ですが、テストの事後学習を通して目指すべきは、その獲得ではないでしょうか。
生徒に「間違えた原因、改めるべき学び方」を考えなさいと指示をしても、最初は戸惑うばかりできちんと考えることはできないはずです。
如上のポートフォリオに生徒たちが残した記載に目を通し、好適なもの(他の生徒の参考になるもの)を見つけ出して、他の生徒の目にも触れさせることで「相互啓発」を働かせるのも効果的かと存じます。
❏ 各自の位置を相対化するデータで生徒の振り返りを支援
振り返りを正しく行うには、生徒が「自分の学びのあり方とその成果」を相対化できるだけのデータなどが用意されている必要があります。
定期考査の結果が平均点しか示されていないのでは、生徒は「平均以上か未満か」しか知ることができませんし、仮に総合点が同じだったとしても、大問ごとの得点が違えば、抱える「課題」も違うはずです。
授業をきちんと聞いて理解・記憶していれば解ける問題と、獲得した知識を応用する力を初見の問題での正答率の違いにも課題は現れます。
前者の問題群と、後者の問題群とで集計を分けて、それぞれを横軸・縦軸においた散布図を答案返却時に配布して、自分の位置を捉えさせることも、次に向けた課題がどこにあるか見つけさせる助けになります。
定期考査限定学力タイプ:
近似線から大きく下に離れていたら、習ったことをきちんと覚えるところまではOKながら、初見の課題を解決するのにそれらの知識をうまく活用できていないということ。傍用問題集などに積極的に取り組む中で題意理解・解法立案などの力をつけることに注力させましょう。
学力貯金の切り崩しタイプ:
既習内容の定着を見る問題で振るわなかったら、日々の学習を大切にする姿勢に不足があるということです。過去の貯金で点数が取れていたとしても、授業を通じた積み上げが足りないので早晩、アドバンテージを失うかもしれません。タスク管理の姿勢とスキルを学ばせましょう。
❏ 学習時間が足りないのか、学習方法が非効率的なのか
学習時間と考査成績の相関にも生徒の意識を向けさせたいところです。
成績が振るわない生徒は、たいていの場合、学習時間も不足していますが、一定以上の時間を投じて勉強しているにも拘わらず、成績が振るわない生徒もいます。
学び方が間違っている(入学前の学習観から離れられず、今の学びにアジャストできていないなど)ために、努力が結果に結びつかず、学びへの自己効力感を失いつつあるかもしれません。
その一方で、「この科目は苦手だ」と思い込んでいる生徒も、実は学習時間が他の生徒と比べても圧倒的に少なく、もしかしたら「やればできる子」なのに「やらないからできない子」になっているかも。
そうした「自分の状況」を知るためにも、模試/考査の成績とともに、学習時間調査の結果も併せて示してあげたいものです。
Googleフォームなどで、以下の質問に答えさせるだけで、後者のデータは取得できますし、生徒のIDで考査得点と結び付ければ、上図と同じようなグラフを作るのも簡単です。
「この科目の予習・復習にはどのくらいの時間を掛けているか」
「考査期間中、この科目はトータルでどのくらい勉強したか」
学習時間を尋ねることを事前に予告して、日々の学習時間を記録するようにさせれば、その日一日の勉強生活を振り返る機会にもなり、時間の使い方に工夫を凝らすようになる生徒も出てくるはずです。
定期考査や模擬試験は、答案を返却したあとも大切な学習機会です。生徒は、それまでの学習経験の中で、「間違えたところを直せばOK」というイメージしか持っていないかもしれません。定期考査ごとに知識・理解を蓄えさせていくだけでなく、学び方そのものを改善させていくことに注力しましょう。
答案返却時の採点講評で、成績の上・中・下位層のそれぞれに対するアドバイスを送ることも少なくないかと思いますが、個々の課題に応じたものになっているとも限りませんし、生徒が自分の学びについて考える機会を不用意に肩代わりすることで、学習者としての自立を遅らせてしまうリスクを抱えることも意識しておくべきだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一