クイズで導入、教科書への落とし込みで仕上げ

2019年に出版されてベストセラーになった『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』では、その冒頭に簡単ながら、答えがちょっと意外なクイズが 13 個用意されています。例えば、こんな問題です。

自然災害で毎年亡くなる人の数は過去100年でどう変化したか。
{2倍以上になった/あまり変わっていない/半分以下になった}

単純な三択問題ですので、まったく手掛かりなしに当てずっぽうで答えたとしても33%の正解率は期待できるはずですが、巻末資料によると、この問題での日本人の正解率は15%だったそうです。
ちなみに、正解は「半分以下になった」です。意外な答えに驚きを感じれば、「本当なの?」「一体どういうこと?」と興味が刺激され、より詳しく(広く/深く)知りたいとの欲求が生まれます。つかみとしては極めて効果的。この本が売れた要因の一つもここにありそうです。
こうした「つかみ」の方法は、日々の授業にも応用できるはず。導入の仕掛けとして大きな効果が見込めるのではないでしょうか。本時の学習内容に即したクイズを用意し、生徒に答えを選ばせて、その分布を調べるところから授業を始めてみるのも面白いと思います。
正解のあるクイズ以外にも、どれが好き/どれに共感できるか、どんな印象があるかなどをアンケート形式で聞いてみる手もありそうですね。

❏ クイズに答えて生まれた興味の先には…

日々の教科学習指導において、生徒の好奇心に最初のひと転がりを与える仕掛け(ここではクイズですが)を講じれば、その後の誘導のいかんによって、大きく学びを膨らませていくことができるように思います。
クイズで生まれた素朴な疑問を起点に、手元の資料、図書室に備えた書籍、ネットで探した信頼できるソースなどに当たってみて「なるほど、本当だ」というところまで進めるだけでも、かなりの学びです。
少なくとも、情報スキルなどを駆使する(=鍛える、評価する)機会になりますし、情報の信頼性を評価し、集めた情報を知に編む工程を経験できれば、そうした能力も伸ばされるのではないでしょうか。
近年の異常気象続きで自然災害は増加しているのに、被災による死亡者が減った理由を考えてみたり、仮説を立ててあれこれ調べてそれを確かめてみたりするところまで踏み込めれば、探究活動の入り口に立ったことになるかもしれません。
そこからさらに、自然災害の犠牲者や経済的損失を現在以上に減らす方法を考えるところまで進もうとする生徒もいるはずです。こうした学びの先のどこかには「自分が果たすべき役割」との出会いもあり得ます。
調べ始めてみたばかりの段階では、自分事としてピンとこない「遠いところのお話」であっても、調べたり話し合ったりする中で、より多くを知るところとなり、そこからさらに問いと思考を重ねていく中で、興味は次第に膨らんでいくことが少なくないと思います。
自分事として捉えられれば、ちゃんと知りたい/調べてみたいという欲求が生まれ、「学ぶことへの自分の理由」も持てるはずです。

❏ 身の回りの話題の中に、自教科の学びとの接点を探す

冒頭のような「ネタ」に偶然出会うこともあれば、SDGsのフレームの中、日々の生活の中で見聞きするニュースや話題の中にも、自教科の単元のどれかで学ばせる事柄との接点が見つかることもあるはずです。
教科書内容をそのままなぞっていくだけでは、生徒の側では「教科書の中の他人事」を学ばされるという意識が残るでしょうが、身の回りにある「自分事」との接点を導入フェイズで見つけ出させることさえできれば、生徒の学びに向かう姿勢は大きく違ってくるように思います。
例えば、生物の授業で遺伝子を学ぶとき。生徒は新型コロナウイルスのワクチン開発が進むニュースなどを通して、mRNAという言葉に教科書以外でも触れています。
ここで「mRNAワクチンを接種したこと自体で新型コロナに感染することはないっていうけど、どうして?」という問いを挟めば、その真偽を確かめるにも、教科書に書かれていること(セントラルドグマとか)を学んで理解する必要があるとの認識を持たせることができそうです。
この場面で、もし生徒がピンとこない顔をしていたら、「mRNAって聞いたことない?」と尋ね直して、スマホで検索させてみましょう。これだけでも、如上の問いに戻る準備は(多少なりとも)整うはずです。
科学技術の急速な進歩や社会の変化などで、真偽の入り混じった様々な情報が錯綜する中、正しい情報を選び、それに基づく判断を重ねていくことは、より良く生きる(=正しい選択を重ねる)のに欠かせません。
広く偏りなく張られた「認知の網」や、情報を集めて知に編めるだけの能力(基礎力や思考力)がなければ、情報の真偽を確かめる方法すら持てないことになり、膨大な情報に弄ばれるだけになってしまいます。
先生方が日々の生活の中で、アンテナを高めに張り、今まさに話題となっているニュースに対し「自教科の教科書のどの項目と関連付けることができるか」を考えてみる習慣を持つことが、こうした授業作りを進めていく上では大切なのだと思います。
これと逆のスタンスを取って、各単元の内容から生徒の関心を刺激し得る切り口を探そうとすると、接点が見つけにくいかもしれません。

❏ 教科書に落とし込んで、学びを仕上げる

クイズで作った小さな驚きを起点にした学びが首尾よく大きく膨らんだとしても、それだけで「手応え十分」と手放しに喜んではいけません。まとめと仕上げに取り組ませてこその「深く、確かな学び」です。
何はさておき、忘れてならないのは「学ばせたことは、きちんと教科書に落とし込む」ことです。学んだことが教科書ではどう書かれているか生徒自身にしっかり確認させましょう。
生徒が自ら、教科書のすべてのページをめくって、該当する項目を拾い上げてくれたら言うことなしですが、さすがにこれでは負担過剰です。
学びの中に登場した用語(概念など)のリストは用意してあげて、教科書の索引で探させてみるのは如何でしょうか。索引に記載がないものは先生が教科書、資料集のどこを参照すべきか示してあげましょう。
教科書の該当箇所をただ読むだけでは、学びが深まるとは限りません。中には、教科書の紙面に用語を見つけて「あった、あった」で終わりにしてしまう生徒だっていそうな気がします。
そこに書かれていることをしっかり読んで理解すれば、答えられる問題を添えておき、その答えを作ることをタスクとするのが好適です。そこに生徒が志望しそうな大学群の出題例でも混ざればより刺激的です。
次回の授業で提出させても構いませんし、ICTを利用して、アンケートフォームで作った小テストに回答させるようにすれば、頻出した誤答も把握でき、次回の授業でさっそくフィードバックができるはず。
学んだことを落とし込む先として、教科書に加えて、SDGsのフレームも併用しておられる先生もいらっしゃいました。
本時の授業で学んだことが、社会が取り組んでいるどの問題と関連してくるのか、同じ領域にほかにどんな問題があるのかを知ることは、世界を見る目をより広く(視点を高く)しますし、これからの時代を生きる人間として持つべき問題意識が芽生えるきっかけにもなりそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一