授業評価アンケートの結果をみると、理解確認と活用機会のバランスを欠く授業が少なくないことがわかります。下図は、授業評価アンケートをご利用いただいた学校でのデータで作成したものですが、理解確認と活用機会の双方が一定以上の水準に達している授業は全体の一部です。
2015/07/14 公開の記事をアップデートしました。
❏ 覚えることに偏らず、活用の前提もしっかり整える
理解確認と活用機会の双方を高い次元でバランスさせないと、学びは正しく機能しないはず。生徒にも誤った学習観を抱かせかねません。
理解確認 先生は、生徒の理解を確かめながら授業を進めてくれる。
活用機会 習ったことを使ってみる機会(課題など)が整っている。
理解の確認が足りずに知識・技能の活用だけが求められれば、課題に挑んで返り討ちに合うことを繰り返す中で、学びへの自己効力感を削られていく(不要な苦手意識を膨らませる)生徒が出てくるはずです。
逆に、理解確認ばかりに重きが置かれ、獲得した知識を活かす/働かせる場面を経験しなければ、学んでいることの意義もつかめず、また獲得した知識の活かし方にも習熟が図れません。「習ったことを覚えることが、即ち学習」との誤解を抱かせては、正しい学びから遠ざかります。
先生が丁寧に教えて、生徒はそれを覚えるばかりでは、自力で学んでいくのに必要な「学習方策」の獲得も進まないのではないでしょうか。
❏ 理解確認が不足のまま、課題に挑ませたところで
理解確認が不足するということは、正確かつ、十分な生徒の側でのレディネスを確かめないまま課題に挑ませているということです。
もし、生徒の側での必要な道具立て(知識や手順への習熟)が揃っていなければ、それらを活用して解決すべき課題を与えても、達成可能性は担保されておらず、生徒は返り討ちに合うリスクを抱えます。
確認を怠るということは、多くの生徒が返り討ちに合う事態になったときの対処も予め想定されていない可能性が高いのではないでしょうか。
せっかく整えた挑戦機会が、リカバーできない失敗体験を積み上げるだけのものになってしまっては、残念な結果を招くばかりです。
課題ありきで授業を設計したとしても、いざ挑ませるときにはしっかりと状況を探っておく必要があるのは申し上げるまでもありません。
また、理解の確認を怠っては、「伝えたつもりなのに伝わっていなかったこと」の所在に気づくこともできず、先生方が抱える伝達スキル上の不備を見落とし、改善のチャンスを逃してしまいかねません。
❏ 活用機会なしには、知識が生きて働いているか不明
一方、活用機会が不十分でありながら、理解確認だけが徹底されていると、生徒は習ったことを覚えただけで学習が完結したような気になってしまうことがあります。
習ったことを別の形で使ってみないと本当にわかっているかどうか確認が取れません。理解の確認は、新しい学力観の下では、「獲得した知識が生きて働いているか」を確かめることにほかなりません。知識に生きて働く場を与えないことには、確かめようがないはずです。
正解を知り(=教えられ)、それを覚えて答案に再現するだけの学びを繰り返していては、自力で情報を集めて知に編み、問題解決に役立てる力を身につけていくことにはいつまでたっても意識が向きません。
こうした学びを重ねても新しい学力観で作られた問題には対処できないことに、受験本番が近くなってようやく気づいたのでは後の祭りです。
実際、大学入学共通テストの試行テストに参加した生徒が、「これまでの勉強法では通用しない」との感想を漏らしたのは記憶に新しいところではないでしょうか。
ちゃんと学んだつもりになっていたのに、後になって「力がついていなかった」という事実を突きつけられても、生徒は自分のやり方に自信を失うばかりです。習ったことを覚えればそれでよし、という誤った学習観を持たせては、困ってしまうのは他ならぬ生徒です。
❏ 両項目の換算得点を比べてみることも習慣に
授業評価アンケートに限らず、評価や調査の結果は項目別の集計値だけみても、適切に改善課題を見つけることができないときがあります。
アンケートの集計が終わったら、理解確認と活用機会の換算得点を比べてみることも習慣化したいことの一つです。
学校全体や教科ごとに冒頭のような散布図を描くことができれば、担当している授業ごとに近似線を基準とする相対的な位置も把握できます。
同じように教えていても、クラスごとに生徒が備える学習方策は違いますので、散布図上の位置もそれぞれ違ったものになります。
このクラスでは理解の確認をもっと丁寧にやる必要があるな、こちらのクラスでは知識を生きて働くものとして活用させる場の拡充が必要だなといった具合に、クラスの特性にそったアレンジをしていくにも、両項目の集計値(換算得点)を比較しながら結果を見る必要があります。
当然ながら、(他項目も含めての話ですが)改善を試みた項目については、前回との差(変化)にも着目して、改善行動が方向性として正しかったかどうかを確かめていくことも忘れないようにしましょう。
■ご参考記事:
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一