既卒生が残した「成果」を教材に~探究活動の導入指導

高校に入学してくる生徒は、小学校や中学校で横断的、体験的な「総合的な学習の時間」を経験してきていますが、高校で新たに取り組むのはその先にある「総合的な探究の時間」です。
数学や情報の授業で新たに獲得する知識や技能なども駆使して課題の解決に取り組む中、これから自らが生きていく社会に自分がどう関わり、どんな接点を持ちえるのかを「探究」していくことになります。
当然ながら、初めて挑戦する学びである以上、取り組み方もそこで求められる作法も、まさに未知の領域です。的確な導入指導(ガイダンスやオリエンテーション)を行わないことには、単なる調べ学習との境界もあいまいなまま、進路との接点も見いだせずに貴重な学びの機会を浪費してしまうことにもなりかねません。
総合的な探究の時間にどう取り組むか、何を目指すのかを学ばせるのに最適な「教材」のひとつは、過年度の卒業生が残してくれた「成果」ではないでしょうか。

❏ 先輩たちの作品を比較しながら評価させてみる

新課程への移行措置として、従来の「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」に改め、新しい学習指導要領に沿った指導を既に行ってきた学校も多く、過年度に生徒が取り組んだ成果品(論文や発表用のポスターやプレゼン資料など)も一定の量が蓄積されているはずです。
これらを教材に、探究活動にはどんな目的をもって、どう取り組んでいくのかを後輩学年の生徒たちに学ばせていきたいところです。
際立って優れた成果だけを見せるのでは、こうした学びは却って難しくなります。彼我の違いに乗り越え難いものを感じ取り、せっかく抱いていた挑戦意欲をなえさせてしまうこともあるかもしれません。
同じようなテーマに取り組んだものから、優れたものとそうでもないもの(=何らかの問題点を内包しているもの)を並べて提示して、「どちらが優れていると感じるか」から始めても良いのではないでしょうか。
その後、「どこに良さを感じるか」「他方については、どこに物足りなさがあるか」と問い掛け、徐々に具体的なところに観察の目を向けさせて、そこで考えたこと/気づいたことを言語化させていきましょう。
最初は主観的に「こっちの方がよい/こちらの方が好き」というだけですから、生徒もレスポンスしやすいはず。最初の一言が出ないと、その後に展開する「観察→気づきの言語化→対話による気づきの交換」が回らなくなります。

❏ 生徒間での気づきの交換で、観察をより広く・深く

先輩たちの成果品を見て、そこから学ぶと言っても、生徒が自分ひとりで論文を読んだり、ポスターを眺めたりするだけでは、そこで得られる気づきはそれほど大きくならないはずです。
何といっても、未体験のゾーンですから、「認知の網」もろくに機能せず、せっかくの「教材」が発信してくれているメッセージや教訓の大半は生徒の意識を素通りしてしまいます。
そこで上手に活用したいのが「対話による気づきの交換」です。多くの生徒が同じものを見て、そこでの気づきを言葉にして互いに伝え合う場を作れば、一人の気づきが他の生徒すべての学びになりますし、ある生徒の発言が他の生徒の観察に新たな視点を与えることもできます。
気づきの交換の場としては、対面でのグループ協議が真っ先に思い浮かぶと思いますが、生徒が自分用のタブレットを所持しているなら、個々に見て回りながら所感を入力し、即座にシェアするのも可能です。
他の生徒が書き込んだ評価や感想を読んで、それを刺激に生徒が各々の所感を膨らませれば、クラス全体での気づきの総量は雪だるまのように大きくなっていくのではないでしょうか。
もしかしたら、生徒の気づきに触れることは、先生方ご自身が「探究活動」の意味や取り組ませ方を新たに学ぶ機会になるかもしれません。

❏ 観察の視点は、探究の方策とテーマの選択

こうした「先輩作品の比較検討」にも、一定の観点を持たせることが大事だと思います。なんの方向付けもしないまま「さあ、始めよう」では面白いもの/周囲に受けそうなものに意識が向く生徒だっている(もしかしたら多い?)かもしれません。
着目させるべきところは多々あろうかと思いますが、まずは、探究活動の中で用いている手法や、探究テーマの立て方でしょうか。いずれも、先輩たちの成果品の中には具体例が豊富にありますので、概説本をただ読むよりはるかにリアリティのある学びになるはずです。
以下は、あくまでも着眼点の例に過ぎませんが、生徒が個々に/グループで先輩作品の観察・評価に取り組む前に、先生方の口頭説明やワークシートの記入例などで生徒の耳目に触れさせてみても良さそうです。

探究活動の中で用いている様々な手法

  • どのように調査/実験を行ったか(それが十分な成果を得たか)
  • 調査/実験の結果をどう検証しているか(統計の使い方)
  • 仮説や答えを導くべき問いの立て方(答えありきではないか)
  • 探究結果のまとめ方(説得力のある、明瞭なプレゼンか)

探究テーマの選び方、テーマの好適性

  • 問題意識の起点がどこにあるか(社会が抱える課題など)
  • 十分な調べ学習を行ったうえで、解くべき問いを立てているか
  • 探究活動を通して、この先輩は自分の未来に向き合えているか


総合的な探究の時間は、卒業時に抱く目的意識(志望理由や学修計画などにも表現される)を涵養する、貴重な指導機会です。

単なる「探究の真似ごとの経験」に終始させてしまっては、卒業後に求められる「新たな知を編む方法」「課題解決の方法を考える力」の獲得も覚束ないはず。他に代えがたい指導機会の「目的」をしっかり達成するには初動におけるガイダンス/オリエンテーションが重要です。
既卒生が残した成果を評価してみる学びを経てから、先生方の講評や総括で(強くなり過ぎないように)方向性を与えたり、「より良い探究活動とは何か」をお題とする生徒同士の協議など、探究活動に向けた意識を生徒が自ら方向修正できる場を与えたりするのも好適だと思います。
■関連記事:

  1. 探究活動の課題~調べ学習との境界と進路への接点
  2. 探究活動やPBLを通して涵養すべき統計スキル
  3. 中学での経験を踏まえて考える「高校での探究活動」
  4. 学ぶことへの自分の理由を持たせる~新単元等の導入指導

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一