お任せコースのみでやっているような料理屋さんもあれば、メニューが壁一面に「これでもか」と貼り出されている居酒屋さんもあります。
後者タイプのお店では、何度も足を運んでその店のメニューを熟知すれば、その日の気分で大いに楽しめますが、そうなるまでは何を頼むかの判断も容易ではないのが悩ましいところ。ときには、並んだ品書きには久しく注文を受けていないものも混じっています。
おかしな喩えから入りましたが、学校の教育活動にも似たところがあるのではないでしょうか。新しいプログラムや体験機会の追加を繰り返すうちに、メニューが膨らみ続けている学校も少なくありません。
❏ 選択肢の多さ、自由度の高さ=選択の難しさ
選択の余地は最小限ながら、3ヵ年、6ヵ年を通して生徒が歩む道筋をしっかり描きだしたカリキュラム/教育活動の配列は、いわば「コース料理」のようなものです。
全体の流れがしっかり設計されていますので、途中で肉料理を選ぼうと魚料理を選ぼうと、食事を終えたときにはバランスの整った、満足感のある体験ができていると思います。
一方、豊富なオプションから生徒がその場で判断して、参加する活動を選ぶスタイルは、言わば「アラカルト」のようなもの。好きなものを選べる一方、全体がちぐはぐなものになる可能性も抱えます。栄養バランスも心配ですね。
ある行事に参加しての体験・学びが、後に設けられた別の機会での学びの前提となる場合もあるはずですが、料理の注文を生徒任せにするだけは、こうした指導機会の連関が機能しなくなるかもしれません。
場合によっては、参加したい行事が同じ日時や準備期間がバッティングして、どちらか一方を諦めざるを得ないような事態だって起き得ます。
❏ 選択の機会に臨むまでに何を経験しておくべか
3ヵ年/6ヵ年を終えたとき、「確かに色んな体験ができたけど、あれもやりたかった/やっておくべきだった」と後悔しても後の祭り。居酒屋さんなら別の日にお店を訪ね直せますが、高校生活をやり直すことはできません。選べずに体験できなかったことはそれまでです。
やり損ねたことがあっても、卒業後に改めて自分で体験すれば良いとの考えもありますが、進路形成は様々な機会での選択の積み重ねであり、ある瞬間の選択はそれまでの経験で得た知識や気づきに基づくもの。
一つひとつの選択場面を迎える時点で何を経験して学んでいるかで、選択そのものが変わり、その後に開ける道のあり様も変わってきます。
臨時休校中に、Zoom や YouTube の活用が進んだことで学びの場を記録しておきオンデマンドで追っかけ体験する手も生まれましたが、多忙な高校生活の中で、改めてその時間をひねり出すのはたいへんです。
入学から卒業までの進路形成のストーリーの中に現れる、様々な選択の機会(大きなところでは文理や履修科目選択など)を基準に、そこまでにどんな経験が必要なのかを考えた教育活動の設計は、生徒が「正しい体験の配列」をできるようにするための前提条件だと思います。
❏ アラカルトの良さを活かすコンシェルジュ機能
多様なプログラムを用意し、生徒個々のニーズと志向に合わせて柔軟に選択ができることにも大きなメリットがありますが、何を体験するかを選び取るのかは、生徒にとって容易なことではありません。
冒頭の喩えでも触れましたが、幾度も通いその店のメニューを熟知すれば、「今日の体調やシチュエーションならこういう組み合わせだな」と考えて存分にそのお店での食事を楽しめますが、生徒は何度も高校生活をするわけではありません。
各プログラムの詳細な説明が与えられ、ガイダンスやオリエンテーションが充実していても、実際に体験するまで、どんな気づきや学びがそこで得られるのか、その先の選択にどう生きるのかなんてわかりません。
選択の自由度が高いプログラムを提供するなら、先生方やアシスタントとなる方が生徒一人ひとりのコンシェルジュとなって個々のニーズと志向を探り出した上での提案をしなければならないということです。
このような態勢が取れるのであれば、教育の個別化という観点で「コース料理的なカリキュラム」を凌駕する可能性が大いにありますが、その実現はかなりの困難が予想されますし、同じ志を持った生徒が同時に活動してこそ、相互の刺激の中で生まれる価値もあります。
❏ 個々のプログラムをストーリーに沿って再配列
学校説明会などを通して、すでに校外に対して告知した教育プログラムを今さら引っ込めるわけにはいきませんが、個々のプログラムを入学から卒業までの3ヵ年/6ヵ年の流れの中に再配列するのは可能です。
入学してくる生徒の志望や目的、興味などを改めて想定した上で、いくつかの類型を作り、それぞれのグループが辿る「経験と選択」の工程に沿ったものになるよう、指導計画をアレンジしておきましょう。
年間行事予定を確定するのは、年度末になろうかと思いますが、如上の想定や「コース料理のような構成」(=3ヵ年/6ヵ年のストーリー)の描出を経ることを考えると、作業の着手はそろそろだと思います。
指導計画をアレンジするにも、そこで必要なリソース(指導体制=教員チームの編成、ノウハウ取得を含めた準備に必要な期間、予算や機材)を調える必要があり、結構な時間がかかることを踏まえましょう。
まずは、年度末の作業工程を、ガントチャートに落とし込むなど、具体化・可視化するところがスタートです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一