実践報告に触れての気づきを言語化することの効果

より良い授業の実現を目指し、全国各地で様々な指導法研究や実践報告が行われています。ご参加の先生方からの意欲的な提案や報告にいつも大きな刺激をいただき、たいへん勉強になります。
各地の先生方が、それぞれの置かれた状況の中で「あるべき学びの姿」を考え続けて生み出してきたアイデアの数々は、それに触れた人が授業をデザインするときの手札を増やし、それを使ってさらに工夫を重ねた実践はまた別の機会で報告され、別の場での新たな試みに繋がります。
こうした相互刺激の連鎖を途切れさせることなく、知見をより有益なものとするのに役立つのが、タイトルにある「気づきの言語化」です。他者の理解を得られる表現を与えていく中で、気づきはより具体的なものに進化していくはず。そもそもシェアするには言語化が不可欠です。

❏ 言語化によって気づきの深化と拡充を図る

指導法研究会などで有為/魅力的な発表に触れたら、そこで感じたことや考えたこと、担当する授業で試してみようと思ったことなど、ご自身の気づきを言語化しておく必要があると、最近強く感じています。
意欲的な実践に刺激を受けて、素晴らしいなと感銘を受けても、自教室に戻って実践に移すには、提案をより精緻に吟味する必要があります。担当する生徒の特性に合わせてアレンジしようとすれば尚更です。
まとまった文章にするのは手間も時間もかかりますので、レポートにまとめたり本格的なプレゼンに仕上げたりする必要はありませんが、文字にするだけで、意識下に埋もれていた気づきがあふれ出してきます。
気づきをひとつひとつ付箋に書き出してKJ法などで整理してみたり、マインドマップで発想を膨らませてみたりと、気づきに肉付けをしていくことで学びはより広く深いものになっていくはずです。

❏ 問題点の解決策も、思いつきをメモしながら考える

もちろん、研究会での報告や提案に何らかの問題を感じることもあるでしょうが、問題点を解消したり回避したりする方法を見つけることさえできれば、アイデア自体は棄却することなく活かすことができます。
そうした「改善策」を考えるにも、感じ取った問題点を文字に起こして自分の目の前にドンと据えてみるのが好適です。
問題の原因は何か、発想のどこに間違いの起点があるのかを考える中、思いついたことを次々と書き出していくうちに、効果的な解決策が思い浮かぶことも少なくありません。
頭の中だけで考えていると、瞬間ごとに様々なアイデアが浮かぶのに、それらが頭のレジスタに収まり切れなくなることもしばしばです。
数分前に思い浮かんだちょっとしたアイデアが、パズルを完成させる最後のパーツになり得る(=それまで重ねた思考が互いに関連を持ち形を作る)場合も、その後に考えたことに上書きされて消えてしまっていては、パズルはいつまでたっても完成しません。
メモに書き出すことで、瞬間ごとの思い付きにいつでも立ち戻れるようにしておくことは大切ではないでしょうか。異なる瞬間に浮かんだ考えが重なりあい、繋がることで解決策がパッと浮かんだりするものです。

❏ 気づきをシェアして、発想のさらなる拡充を

研究会/実践報告会に参加した個々の先生が得た如上の気づきも、その先生の内にだけ止めおくのはちょっともったいない気がします。
対話による気づきの交換により、それぞれの参加者が持ち合わせる発想の総量を超えた成果に結ぶことが少なくないのは、生徒の場合も先生方の場合も変わりません。
研究会が終わった後も、次回の開催まで電子会議室をオープンにしておき、参加者が感じたところやその先を考えた結果を書き込めるようにしておくのも悪くないと思います。
ある学校では、会議の終了時刻を厳守するという目的で如上の方法を採ったところ、会議時間内で発言チャンスがなかったメンバーから多くの意見が上がり、建設的な議論が進んだとか。
校務多忙の中、対面であろうとオンラインであろうと、都合を合わせて特定の時間に行われる議論に参加するのは容易でないときもあります。
いつでも書き込みができるし、誰かが書いたことに対してじっくり考えて自分の意見を投稿できる電子会議は、研究会/報告会の間を繋ぐものとしてとても有為なものだと思いますが、如何でしょうか。
Slackなどのビジネスチャットツールを使えば、実現はさほど難しくありません。対面で議論を深めたい場面では、Zoomとの連携も好適かと。

❏ 次回への「宿題」の答えをみんなで考えて持ち寄る

こうした、継続的な議論ができる場を設ければ、次回の研究会や報告会までの「宿題」にメンバー皆で答えを考えていくこともできそうです。
時間枠の決まった研究会/報告会では、問題点の共有までは進められても、その解決策を考えるところまでは中々進まないものです。
拙速に結論を求めるのも何ですが、かといって、答えが出ないまま放置される問題が積み上がっていくばかりというのも困りものです。
拙稿「研究授業の実りをより大きくするために」で書いたことと共通しますが、議論の場で得たことをそれぞれの参加者が持ち帰って、個々に思考や考察を重ね、成果が出たら次の機会に持ち寄ることは大切です。
全員が共有できる時間は限られていますので、それぞれ都合の良いときに課題への答えを考え、その成果を事前にぶつけ合っておくことが、次の機会の貴重な時間をより有意義なものにしてくれそうな気がします。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一