ゼロ学期を目前に、いよいよ最上級生となる高2生は、先輩たちの受験生としての日々を間近に見ながら、自らの進路希望の実現という大きな挑戦を強く意識し始めているかと思います。ゴールまでの最長14か月に亘る長期戦のスタートをどう切るかは、結果とともにその過程での成長の度合いも大きく変えるのではないでしょうか。
2016/03/25 公開の記事を再アップデートしました。
旧タイトル: 志望理由を書いて選択に向き合う
❏ 明確な目標を持つことが「頑張りへの自分の理由」に
第一志望を実現できたかどうかという最終的な結果ももちろん大事ですが、「受験期は、またとない成長の好機」で書いた通り、頑張り続ける中で遂げた成長そのものが生徒の将来の大きな糧になるはずです。
目標とするところやそれを目指す自分の理由をどれだけ強く持っているかが、自分の頑張りを支える力の大きさを大方決めてしまいます。
- 大学でどんなことを学びたいのか
- 学んだことを使って社会にどんな関りを持ちたいのか
これらの問いに強い思いを持って答えられるようなら、勉強の成果があまり出ないときやつらいときにも、諦めることなく頑張れるはずです。
学ぶことへの自分の理由を持っているか/作れているかどうかを生徒自身に確かめさせるためにも、如上の問いへの答えを志望理由書という形で言語化させておくことは重要かと思います。
❏ 志望理由がどう生まれたかが問題
現時点で明確な志望校があっても、選んだ理由がはっきりしていないことも少なくありません。
科目の得意/苦手や模擬試験での成績、良く調べもしないで漠然としたままの大学のイメージなどで選んだ”志望校”ありきで、理由は後付けで考えられたものだとしたら、…
土台のない理由は、別の理由(多くは「言い訳」)で容易に上書きされてしまうだけに、頑張りを支える力にはなりにくいように思います。
上の質問2つへの答えが、生徒自身が経験してきたことの中に根っこを持っているかどうかはどこかで確かめさせたいところです。
進路希望を調べるときは、前段階の確認も併せてでも書いた通り、選択の結果を訊くなら、選択に至るプロセスをきちんと踏んできたか、前段階の履行状態も、併せて確かめておくのが好適です。
❏ 書き出すことで「自分の理由」を確認させる
これらを確かめるためには、以下のような質問を提示し、生徒に答えを書かせてみるのが好適です。
- 現段階で、どんなことに興味を持っているか(大学で何を研究したいと思っているか)
- それに興味を持つようになったきっかけ[原体験]は何か(読んでみた本、聞いた話、ニュースや報道、体験、…)
- その興味に基づいて、これまでどんな行動を重ねてきたか(調べてみたこと、話を聞きに行ったこと、体験したこと)
- その行動の中で、学問や研究とどんな接点が見つかったか(それを学べる学部・学科、先端研究や社会の課題、…)
- 社会の中で、自分がどんな役割を引き受けるか(活躍する自分のイメージ、自分が持つ可能性、…)
人は、問われて初めて自分と向き合うことも少なくありません。質問に答えようと、考えるところを言葉にしてみる中で、欠落や矛盾、気づいていなかった自分の思いなどがはっきりしてきます。
志望大学を訊くのは、如上の質問に答えさせた後にすべきです。最後の問いに「それらを学ぶのに最も適した大学・学部はどこだと考えていますか」と加えてみましょう。
訊く順序を逆にしてしまうと、最も大切な「志望理由」の部分が「後付け」になってしまいかねないからです。
❏ 補うべきものに気づくだけでも大きな進歩
きちんと書けるようになっているなら「さあ、あとは頑張るだけ」ですが、必ずしもそうとは限らず、実際に書かせてみると、最初の質問で躓く生徒も少なくないかもしれません。
如上の質問の一つひとつに向き合い、自分の中にあるものを言語化しようとする中で、
- 現時点できちんと答えが書けるもの
- 内容に曖昧さが残ってしまうもの
- 書くことが思いつきさえしないもの
がどのように分布しているかに気づいてこそ、次にやるべきことがおぼろげながらも見えてくるはずです。
中には、やりたい事が見つからないことに悩んだり、自分を責めたりする生徒もいるでしょうが、質問に答えようとすることを通して、現状を冷静に捉えてこそ、次への一歩が踏み出せます。
面談などを通じて、生徒が確固たる進路希望と志望理由を見つけていくのをサポートしましょう。個々の生徒について各質問が如上の三段階のどこに位置するかを知れば、今後の指導を選択しやすくなります。
❏ もう一度、進路意識形成のプロセスを辿り直す
しかしながら、最終学年に進級する時点で、志望が決まっていないからと言って、何かを無理に選ばせるのは避けたいところです。
とりあえずの選択を助長することになり、選んだことの外に可能性を探さなくなるリスクが膨らみます。
本来なら、2年生のうちに通過すべき事柄かもしれませんが、進級後になっても日々の学びに取り組みながら、改めて自分の答えを探していくのでも、場合によっては良いのではないでしょうか。
最も避けたいのは、志望理由が書けないことに気づけないまま、頑張るべき時期を過ごし、そのまま願書提出の日を迎えてしまうことです。
出願校を決めるのは、まだまだ先です。しっかりと勉強して「選べる範囲」をできるだけ広げつつ、きちんと答えられなかった問いに自分の答えを見つけさせるように促し、かつ支えていきましょう。
❏ 興味を見出したときに、それを選べるように
進路を選べないこと/選んだ理由が書けないことに思い悩んで、勉強が疎かになっては本末転倒です。
興味は、努力して達成した中に生まれるものですから、「やりたいことが見つからないなら、なおさら勉強」ではないでしょうか。
何より、悩みを抱えて勉強がお留守になっては、成績も伸びません。ようやく進路を見つけ出したときに今度は学力が壁になってその道を選べない、という事態は避けたいところです。
ゼロ学期以降、最終学年も含めて、面談指導も幾度か予定されているはず。志望理由を文字に起こすことは、次の面談までの宿題にして、声をかけつつ言動の変化を注意深く観察していきましょう。
進路を選択できずにいる生徒を放置しても、逆にいたずらに選択を急がせても、「選択の力」を養う機会として機能しません。
❏ 自分の選択に向き合うことを目的に
総合型選抜など、志望理由書の提出が求められる場合を除けば、志望理由書を無理に書かせる必要はないのかもしれませんが、言語化することを通して自分が選択したことに向き合う機会は有益です。
このステップをしっかり踏んだかどうかは、受験に向けての頑張りはもとより、大学に進んでからの学業意欲も左右します。
もちろん、18歳での選択にその後の人生が縛られる必要はなく、新たな興味を見出したら自由にそれを追求すれば良いのですが、その一方で、歩を進め続けないことには新たな世界との出会いは遠のきます。
現時点での選択に向き合うからこそ、頑張れるし、その結果、新たな世界が拓かれていく可能性が広がるということだと思います。
立ち止まっていては、クランボルツが「計画的偶発性理論」で言うところの「偶然との出会い」は起こり得ないことを、生徒にはことあるごとに伝えていきたいところです。
■ご参考記事:
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一