〇〇的な(教科固有の)考え方・見方を養う第一歩

教科や科目に固有の「物事を捉える視点や思考方法」(所謂「〇〇的な考え方・ものの見方」)を学ばせることは学習指導の重要な目的です。
目指すべきところは、3年/6年間の教育活動を通じて「物事を多角的に、深く、正しく捉えられる状態」に近づけること。全ての科目がそれにコミットすることではじめて、死角のない「見方」が実現します。
正しい捉え方ができるようになれば、科目の学びに対する自己効力感も高まり、より広い対象に興味や関心を持てるようになるはずです。世界と自分の関わりにも、新たな接点を見出せるかもしれません。そこから先の成長にも、より大きな可能性が期待できそうです。

旧タイトル「〇〇的な(教科・科目に固有の)考え方、ものの見方」

❏ 考え方・見方の獲得に近づくにも準備(体験)が必要

考え方・見方の確実な獲得には、日々の学びで、(教わるだけでなく)生徒自身が観察し、考える中で物事を捉えていく練習が欠かせません。
何事につけ、実地に経験しなければ身につくものではないはずです。
そうした具体的なタスクを経て蓄積した気づきを整理、捉え直させ、学びに再構築するための振り返りの場を整えることも不可欠でしょう。
教科・科目に固有の考え方を言葉で伝えたところで、理解の土台にある経験を欠く生徒には、期待するほど(十分に)伝わらないはずです。
だからこそ、段階的に理解へ近づけていく必要があるはずです。少なくとも、以下のステップはきちんと踏むべきと考えます。(詳細後掲)

  • 事象の背後にあるメカニズムを考えさせる
  • 観察→仮説→検証の工程を実際に辿らせる

こうしたタスクを通して、現代の「知」に先人たちがどう獲得してきたかを窺い知ることができるようになった生徒は、「各科目で学ぶこと=覚えるべきこと」という思い込みから離れ、身の回りの事象をどう捉えていくべきかを考えるきっかけを得るのではないでしょうか。
日々の授業の中で、どんな活動を配列することで、如上の体験を蓄積させることができるかを考えるところから、指導計画を作りましょう。

❏ 事象の背後のメカニズムを理解、適応する練習

各単元を学ばせるときに、事象を作り上げているメカニズムを説明して覚えさせるだけでは、不十分であるのは言うまでもありません。
説明に用いたのと同じ原理が働いている別の事例を提示し、説明で聞いたことをそこに当てはめてみると理解が十分か確かめられます。
さらにメカニズムの中に組み込まれたパラメーター(条件)の一部を変えてみたときに、どんな結果が予想されるかを考えさせ、理由も言語化させてみましょう。周囲とシェアすれば思考は広がり、深まります。
こうしたタスクを経験する中で、生徒は事象を表面で捉えるのでは不十分であり、掘り下げたところにある背後のメカニズムに思考を巡らせていく必要があることを、実感しながら学んでいくはずです。
結果を正しく予測できることが増え、論理的に説明できたとの手応えを掴めてきたら、生徒は自分の理解や学びに自信を持ちます。別の言い方をするなら、科目学習への自己効力感を高めるということです。
並べられた事象を知って覚え込むのでなく、根っこの理屈の上に様々な事象を捉えられるとなれば、そこに見出す面白さも違ってきます。
先生方が今、教えている科目に興味や関心を持ち、仕事/専門にすることなったきっかけも、そうしたものだったのではないでしょうか。

❏ 事象を観察させ、そこに働くメカニズムを推測させる

次にトライさせるべき「知的作業」は、現象や事例を見せたり探させたりした上で、それらを支配しているルールを考え出させること。
言うまでもありませんが、観察をタスクに「問題発見力」を育てることも兼ねますので、指導計画の中に効率的に配列したいタスクです。
そこで考え出した仮説としてのメカニズムは、他の事例に当てはめてみて、どれだけ説明できるかで、その妥当性・合理性を確かめます。
上手く説明できない事例を前に、どう捉え直す必要があるのかを考えることで、物事をより正しく捉えるために必要なこと(=ものの見方、考え方)に近づいて行くチャンスを生徒は得ていきます。
こうした体験を、先生方が不要に先回りした説明で肩代わりしてしまうと、生徒は得られたはずの気づきもないまま学びを終えてしまいます。

❏ そうした体験を全教科で満遍なく重ねさせてこそ

総合的な探究の時間では、調査を通してデータを集め、そこに仮説を立てて検証することを生徒に求めますが、週に1~2回の探究の時間だけではそうしたスキルと姿勢を育むのに指導機会の不足は明らか。
対象とする事象も、テーマに関わる部分に限定されますので、社会・世界を多角的に、且つ正しく捉えられる生徒に育てるためには、すべての教科・科目で、同様の体験を積ませていく必要があります。
単元の学びを終えるタイミングで、普通に考えると同じ結果が予想されるのに、違うふるまいをする2例を示し、違いを生じた原因が何かを考えさせてみるだけでも、思考の訓練が可能。こうした場を各教科の学びの中で、少しずつでも意識的に作ってあげることが大事です。

探究のテーマとは縁遠く見える言語系の教科(英語や国語)だって、同じような構造や語彙を持つ例文を集め、それらを支配している文法規則を考えさせるなどの活動は可能。生徒の興味を刺激するはずです。
教科書のページを最初から最後までめくり、そこに登場する「言葉」という語をすべて拾い上げさせて、使われている文脈/指しているもので分類し、「言葉」という語の定義を考えさせるというのは、『教えることの復権 (ちくま新書)』で紹介されていた大村はま先生の実践です。



教科・科目固有の考え方が身につけば、教わっていないことがらに対しても、現象を観察してそこに働くメカニズムを推測できたり、それらをコントロールするすべを考案できるようになっていくはずです。
世の中を正しく捉え、解決すべき問題にアプローチできることは、より良い社会を創り出すためにも不可欠。そうした力を獲得していく「入り口」に立った状態で、高校を卒業させたいところです。
各教科で学ばせた事柄(知識に加えて考え方・見方、思考力など)を、自ら選んだテーマの探究に使ってみる中で、学んだことをより良く使いこなせるようになると同時に、考え方・見方も深まります。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一