家庭学習時間の延伸を目指した対応策を検討するときに想定すべき「生徒は家庭学習に十分な取り組みを見せてくれない理由」には、様々なものが考えられますが、最も大きく影響しているのは「取り組みに喜びが見いだせないこと」、即ち「家庭学習に取り組むことの中に達成感を得たり、自分の進歩を実感できないこと」ではないでしょうか。
❏ 真面目に取り組んだことの成果を実感できるか
指示された予習や復習、与えられた課題に真面目に取り組んでも、新たに何かができるようになったとの認識が持てなかったり、学ぶ前の状態との変化(自分の進歩)を感じ取れなかったりしては、生徒はそれらに真面目に取り組む意義を見出せません。
頑張って取り組んだことで、何らかの達成感が得られたり、学んだことの中に新たな興味を見出したりしてこそ、次の学びに向けたモチベーションの維持・向上を図ることができます。
当然ながら、中長期的には、学力向上/成績伸長という「目に見える成果」に繋がる必要もあります。
時間をやりくりし苦労を重ねて与えられたタスクに取り組んできたのにいつまでも効果が出たとの実感が持てなければ、先生が指示するタスクに対してそのコスパを疑うのではないでしょうか。
実際には効果が出ているのに生徒が実感できないこともありますので、きちんと振り返りをさせることも欠かせません。
このように考えてみると、予習・復習で取り組むことや授業外の課題は、以下のようなものである必要があるということになりそうです。
- 課題を仕上げたときに、取り組む前との違いがはっきりわかる
- こなしただけではなく、何かを達成できたとの実感が得られる
- 真面目に取り組めば、学力の向上/成績の伸長という結果が出る
❏ 自分の進歩や可能性に気づけるような課題か
授業で教わったことを家に帰って復習し、きちんと覚えるだけの勉強では、真面目に取り組んだ/知識が増えたとの実感はあっても、それによって新たに何ができるようになったかピンとこないこともあります。覚えたことを使う場面を想像することすらできていないかもしれません。
習ったことを用いて「自分事として感じられる課題」(一番、直接的なものは志望校の過去問やその改題かもしれません)が解けた/自力で解法を考え出すことができたという体験は、科目への自己効力感を大きく高め、頑張る気持ちを強くすると考えられます。
自分にもこんなことまでできるんだという、新しい可能性を見つけることは、大きな喜びです。予習にしろ、復習にしろ、単なる作業の繰り返しや、習ったことを覚えるだけのタスクでは、こうした自分の進歩/新たな可能性に出会うことはありません。
前々稿(#1)で触れた「学びの深まりに繋がり、達成感が得られる明確な課題」をきちんと与えることが、如上の体験を作り出す鍵です。これまで与えていた課題が、作業的なものに偏っていたとしたら、課題解決型の要素を持つものとのバランスを取り直してみるべきだと思います。
❏ 効果測定を行い、予・復習課題の妥当性を確かめる
授業開きなどで指示した予習・復習の方法や、授業外学習で取り組ませている課題についての効果測定も欠かせません。
指示した方法にきちんと従っている生徒は、そうでない生徒と比べた場合に、成績や学ぶ意欲、学びの方策といった観点で、より大きな伸長が見られて当然だと思いますが、実際のところは如何でしょうか。
・予習や復習で課しているタスク
指示をきちんとこなしている生徒(A群)、通り一遍しかやっていない生徒(B群)、ほとんど/まったくやっていない生徒(C群)に分けた場合、模試成績の伸びに各群の間で差が生じているでしょうか。
半年前の模試と直近の模試の成績差をサンプル(データ)に、A群とB群+C群の間で分布に有意差が生じていないようであれば、その指示は成績伸長に寄与していないことが疑われます。
全生徒の成績一覧をもとに、前回偏差値、今回偏差値、予習状況を列方向に並べて、ピボットテーブルを作成すれば、あとはエクセルに実装されている関数(ttest)で有意差の検定は簡単に行えます。
なお、生徒一人ひとりの予習・復習の様子を観察する機会を持つには、授業内で予・復習に取り組ませてみるのもお奨めです。
・週末や長期休業期間に取り組ませる課題
週末課題や長期休業期間中の課題についても同様の検証が必要です。
宿題にきちんと取り組んだ生徒と、形だけ整えた生徒/未提出の生徒との間で、科目への興味や学びに向かう姿勢に改善が見られなかったとしたら、その宿題を与えたことの意義が疑われます。
もしかしたら、面白くないことに取り組まされてその科目を嫌いになっている可能性もゼロではないはずです。
生徒に負担を強い、先生方も点検や採点に手間をかけながら、効果が逆の方向に向かってしまっては、何のための「投資」かわかりません。
・平均家庭学習時間の目標値は合理的なのか?
もっと突っ込んでいえば、少ならかぬ学校で昔から今もなお掲げられている「平日は1日平均2時間以上」「学年プラス1時間」といった数値目標がありますが、どの辺が現実的で且つ合理的な線引きなのか、各校の事情に合わせて再検討してみる必要もありそうです。
ちなみに、生徒は一週間に50分の授業を6コマ×5日で1,500分(25時間)の勉強をします。これに加えて部活動を90分×5日(450分=7時間半)行ったとすると合計で32時間30分。サラリーマンの法定労働時間は原則として週40時間ですから、40-32.5で残りは7.5時間です。平日1.5時間か、平日1時間+週末2日に2.5時間でこの数値に達しますね。
生徒とサラリーマンを同列にしても始まらないかもしれませんが、如上のラインが落としどころかと。もし、学習に当てる時間を増やすなら、課外活動の総量を抑えることも考えなければなりません。
各科目が課している予復習のタスクや追加の課題について、想定される所要時間を想定の上、その総時間が如上の目標時間の枠に収まるように調整しないと、却って履行率を下げるだけの結果にもなりそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一