授業公開を機に行う小中校教員の意見交換、出前授業、考査問題やレポートの閲覧など、異校種間の連携を通じて授業の改善や指導計画の最適化を図る方法をご紹介してきましたが、もう一歩踏み込めるようなら検討してみたいのが、「考査問題の作成(=到達目標の設定)における協働」と「数年後の状態と照らした分析(コホート研究)」「総合的な学習/探究やキャリア教育の接続」です。
いずれも、現場の先生の負荷が小さくありませんが、指導主眼を正しく配列することで、初等・中等教育を通した教育成果の総量を最大化するという目的に近づける上での「切り札」となるはずです。
小中高を一体で運営している私立の学校でも、きちんとマネジメントできているケースはそれほど多くありませんので、実現すればとても大きなアドバンテージが築けるものと思われます。
2014/05/20 公開の記事をアップデートしました。
❏ 考査問題作りの協働で、到達目標の適正配置
小中学校のテスト問題作りに高校の先生も参加するというものです。定常的に行うのはさすがに無理がありますが、アドホックなイベントとしては実施の可能性はゼロではないはずです。
テスト問題作りのスタートは、測定項目の配置などの「考査問題仕様」の作成です。どんな学力をどんなバランスで測るのかを議論する中で、どこに重点を置き、どう教えてほしいかを伝えることもできます。
先に述べた通り、何を測るかは何を教えるかと同義です。テスト問題が好ましい設計を持つことは、日ごろの指導における主眼の置き所を最適化することにほかなりません。
出題内容だけでなく、採点基準作りも活動に加えましょう。答案を正しく評価できているかでお伝えした通り、採点基準の在り方しだいで設問は良問にも悪問にもなり得ます。
生徒はテスト問題に合わせて勉強のスタイルを作りますので、どんな問題を考査で課すかは、生徒の学びの方向性を大きく左右します。
教えた内容をどれだけ覚えてくれたかという視点だけの場合と、次の段階に進んだ後の学習での前提が正しく作られているかどうかを測ろうとする場合とでは、問い方もまったく違いますし、「学びの接続」にも大きな違いをもたらすことは容易に想像できるはずです。
❏ 考査以降のパフォーマンスを追跡するコホート研究
どんな考査問題であれば個々の生徒の将来のパフォーマンス(学業成績)を正しく予想するかを知るにも、校種間の連携は欠かせません。
小学校、中学校、高校がそれぞれに持つ、学習ログなどのデータを突き合わせることができるかどうかがカギであり、個人情報の取り扱いのルール作りなども必要ですので、仮に、そうした基盤が整ったとしてのお話です。
例えば、中学校の定期考査に出題したある問題の正誤/得点と、その生徒が高校に進学した後の成績との間には高相関があるのに、別の問題はほとんど無相関であるということが分かったとしましょう。
後者タイプの問題をいくら出題しても、また一生懸命に覚えさせたり間違い直しをさせても、のちのパフォーマンスに好ましい影響を及ぼすとは思えません。
一方、前者タイプの問題での正誤には、指導者も学習者も十分な注意を向けなければならないでしょうし、同タイプの問題を意識的に多く出題すれば、生徒はそれを意識して学びますので、将来の学力を大きく左右する要素の獲得も促進されるはずです。
ノートの取り方や予習復習の方法、わからないことがあったときにどうするかなどの学習者行動についても、同様の研究が可能です。どんな行動を取らせることが、先行きの学習に好ましい影響を及ぼすかがわかっていれば、小中学校の先生も自信をもって生徒の指導に当たれます。
現時点では、途方もない作業しか想像できず、試しにやってみる気にもならないかもしれませんが、ポートフォリオが広く活用されるようになり、電子化された学習ログが(AIの支援も受けて)自在に扱えるようになれば、こんな取り組みも現実味を帯びてきそうです。
❏ キャリア教育も段階を踏んで連続的に
平成20年に閣議決定された教育振興基本計画に「関係府省の連携により、小学校段階からの キャリア教育を推進する」との文言が現れてからこちら、小中高がそれぞれにキャリア教育をデザインして実施してきましたが、お隣の校種で何をやっているか、あまり関心が向けられていないようです。
それぞれの学校で最善と思われる活動を指導計画の中に採り込んでいても、それは「部分最適化」に過ぎず、12年間を通した指導計画全体の最適化とは違うのではないでしょうか。
実際、公立の中学校でやっているのと同じことを、同一市内にある高校でもやっていたり、横断的・体験的な学びを経験させても、そこでの気づきを俯瞰し直して、次に向けた内省を促す機会が中高どちらにも用意されていないケースも珍しくなさそうです。
小中高それぞれで進路指導・キャリア教育を担当している先生方が集まって、互いの指導計画を突き合わせてみるようなことがあっても良いのではないでしょうか。
もちろん、小中学校でも高校でも、学校ごとの違いが小さくありませんので、各校種、数校ずつの担当者に集まってもらう必要があります。
同一校種でも別の学校先生との情報交換が不足していることもありますので、その解消も同時に図りつつ、学校を跨いで情報共有を活発に行うコミュニティを作っておくことのメリットは小さくないはずです。
❏ 総合学習から探究活動&進路意識の形成への接続
中学校までの横断的で体験的な活動を主とする「総合的な学習の時間」と、その成果を踏まえて行うべき高校での「総合的な探究の時間」との接続も大きな課題です。
詳細は、以下の別稿に譲りますが、ここでも小中高それぞれで指導の設計に当たる先生方が情報を交換し、校種をまたいだ全体デザインを描いた上で、自校での指導をアレンジしていく必要があると考えます。
■ご参考記事:
- 中学での経験を踏まえて考える「高校での探究活動」
- 探究活動の課題~調べ学習との境界と進路への接点
- 学習指導、進路指導、探究活動で作るスパイラル
- 探究型学習を使った進路指導(全6編)
- 調べたことの先に~新たな知と当事者としての関わり
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一