ここ数年、お手伝いする機会が増えてきているのが「卒業生を対象に行うアンケート」です。学校生活を終える生徒に自分の成長を振り返ってもらうと同時に在学期間を通した様々な場面での指導を評価してもらうことで、学校の教育活動の成果を測り、更なる改善に向けた課題を形成しようという目的で行われています。
2017/01/31 公開の記事をアップデートしました。
❏ 卒業生からの評価で、手応えの確認と次への課題形成
どの学校にも「育てたい人間像」があり、教育活動はその実現を目指して設計され、様々な教育リソースを投じて実行されています。
設計図が妥当なものであったかを確かめるには、3ヵ年/6ヵ年の指導を通じて生徒一人ひとりをその人間像にどこまで接近させることができたかを測る必要があります。
卒業させる時こそ、効果測定の最も大切なタイミングの一つです。
きちんと成果を確かめないことには、手応えを得ることも、さらなる改善に向けた課題を形成することもできません。
現場で頑張る先生方がモチベーションを維持するには、積み重ねてきた努力の中に確かな手応えを感じることが欠かせませんし、やりっぱなしにしては、どこに不足があったか探ることも困難です。
❏ 評価されるのを機に、根っこの思いに立ち返る
アンケートの質問文を起こしたり、集計結果を分析したりするのを機会に、学校が実現を目指してそれまで取り組んできたことを再確認し、社会の変化などに照らして見直し/更新を図ることも大切です。
取り組みを始めたころの意図を改めて意識の上に取り出すことで、多忙な日常の中に埋もれがちな「根っこの思い」を改めてシェアすることにも大きな意味があると考えます。
卒業していく生徒を新入生として迎え入れるときの学校広報に用いたプレゼン資料や学校案内を取り出して、生徒募集を通じて入学前の生徒と交わした約束を思い出してみる必要もあるのではないでしょうか。
また、学校教育を取り巻く環境や、社会からのニーズが変化してきている中、「育てたい人間像」のアップデートも必要なはずです。
卒業生アンケートを企画し、質問文を起こす工程は、そうした見直し・振り返りのまたとない好機になると思います。
❏ 卒業を迎え、全体を見渡した上で冷静な評価ができる
卒業生は、3年間、6年間の学校生活をひと通り経験しており、この点は在校生とは大きく違います。
ゴールまで走り切ってこそ、途中にあった良さもしっかりわかれば、こうすれば良かったという反省も冷静にできるというものです。
学校が用意した教育機会や取り組みについて、直接的に尋ねる質問への卒業生からの評価は、在校生のそれより高めに出るのはよくあること。
長く一緒に時間を過ごしたことで、学校への帰属意識が高まっていることや、卒業を機に利害が対立する関係ではなくなっているので、距離を置いた冷静な判断ができることなどが作用しているのかもしれません。
それに対して、自分自身を振り返ってもらったり、成長の度合いや好適な資質の獲得や意識の変化などを尋ねたりすると、在校生以上にシビアな答えが返ってきたりします。
例えば、学校はグローバル人材の育成やリーダーシップの涵養を目指していたのに、それらに関する卒業生の評価は低く、まったく別のところに学校の価値や良さを見出していることも少なくありません。
❏ 属性情報とのクロス集計でも様々な知見が
内進生と外進生、部活動や生徒会活動への関わりの度合い、希望進路といった、個々の生徒が持つ属性を同時に把握しておくと、回答データから得られる示唆がぐんと大きくなります。
募集定員の少ない高入生は、内進生と一緒の学校生活に慣れ、コミュニティに参加するのに時間がかかるのではないかと見込んでいたのに、コミュニティへの帰属意識や活動の主体性では、むしろ外進生の方が高い値を示した、なんてことも少なくありません。
高校からの入学をためらう生徒や保護者に対して、安心感を与える広報材料にも使えそうです。
また、育てたい人間像から描き出した「望ましい資質、好ましい行動」の充足度を分けている要因を、如上の属性情報や他項目への回答の中に探れば、より高い成果を得るための作戦も立案が可能になります。
こうした調査は当然ながら在校生に対しても行えますが、教育の成果は途中ではなく出口やその先にこそ発現するものですので、高校生活の最後に、認識を質し、評価してもらうことの意味は小さくないはずです。
❏ 最良の学校サポーターである卒業生とのパイプ
もう一歩欲張るなら、自校の教育を受けた生徒が、卒業後にどのような意識で日々を過ごしているかも、継続的に調査をしたいところです。
高校生活の中のどのような体験が役立っているかをダイレクトに訊くのも良いと思います。卒業を前にした生徒に書いてもらう合格体験記は、その第一弾といったところでしょうか。
学校に残っている様々なレコードに照らし、どんな活動に取り組みどんな日々を過ごした生徒が、卒業後により大きな充足感を抱いているかがわかったら、今後の教育活動の設計にも活かせそうですよね。
いうまでもなく、学校のことをよくわかっている卒業生は、いざというとき最も頼りになるサポーターですから、関係は切らずに維持したいものです。定期的に行うアンケート調査はパイプ作りとその維持にも役立つはずです。
アンケートを通して得られたデータは、進路部の先生の手で生徒向けのメッセージに編み、在校生の指導にも活かせます。
卒業後を追跡するアンケート調査は、大変な手間がかかりますが、トータルでは費用に見合った効果を期待して良いのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
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