学習機会としての模試受験(その3)~好機はいつ?

近くに予定されている模擬試験をターゲットに学び直しに挑ませる機会を整えるのは、未習熟・未定着を解消して模試の成績を引き上げるためだけではありません。これまでの学びを振り返らさせて、主体的に且つ計画的に学習を進める姿勢と方法を学ばせることも狙ってのことです。

2014/11/27 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 好適時期に集中して行うべき指導

勉強と部活動との両立を図り、ときに二兎ならぬ三兎を追う忙しい高校生活で、いつも次の模試のことばかり考えているわけにもいきません。
仮にできたとしても、連続する刺激に対していつまでも敏感に反応できるわけもなく、高い集中力で取り組む効果は薄れるはずです。
となれば、効果的な時期を選んで、集中的に行わせるのが合理的です。
年間指導計画を立案するときに予め、「模試に向けた準備学習の期間」を想定しておき、その間は通常授業の課題を一定範囲に抑えましょう。
また、その時期に学校行事や生徒会活動も過剰に膨らまないようにすべきであり、部活動の顧問団との連携で活動時間の延長はしないなどの取り決めも必要かと思います。

❏ 大きな選択に臨む前が指導に最適なタイミング

こうした指導の最適タイミングの一つは、次年度からの文理選択を迫られる1年の秋と、3年時の履修科目選択に向かう2年の秋です。
定期考査は何とかなっても模試の成績が停滞/低下するなど、日々の勉強で「伸びている実感」や「頑張れば何とかなりそうだという展望」を持てないでいると、生徒は選択を迫られたときに「あきらめる」というカードを切ろうとしがちです。
こうした事態を避けるためには、十分な準備を経て模擬試験に臨ませることで、目標への接近や成績伸長への手応えを掴ませたいところ。
仮に成績そのものが「目標」とするところまで伸びなかったとしても、取り組みの中で「こうすれば良かったのか」と気づいたり、以前はできなかったことができたと感じられれば、自己効力感は高まります。
こうした「手応え」は、進路希望を維持し、より高いところを目指す気持ちを膨らませさせるためにも大事なことです。

❏ 環境や課題が変化するのに備える「助走」としても

進級を控えて生徒は覚悟や抱負を新たにしている春休みも「学び直し計画」の策定と実施に絶好機の一つです。
先生方の異動もあって、夏休みに比べれば補習・講習は少なめ。学校行事も多くはありません。生徒が自分の時間をコントロールするのが比較的容易な期間と言えます。

もうひとつ挙げるなら、部活引退を控えた時期や文化祭の準備に当てる期間も好適だと思います。
部活動を引退して/文化祭が終わってスパッと切り替えられないと、その後の伸びが抑えられてしまうのはいうまでもありませんが、この切り替えが中々の難儀です。
夏休みに参加する補習・講習を選ばせるにも、個々の生徒が自分の課題を明確にしておかないと、目的に照らした選択ができません。
いずれのケースでも、模試への準備というタスクが、環境・課題の変化に備えた好適なウォーミングアップ/助走になるはずです。

❏ どのタイミングで準備学習の計画作りに着手させるか

模試に向けた準備学習に適した期間は、学校の年間行事予定によっても異なりますが、計画を「実行」する前の「立案」に要する期間も考えておかないと、計画不足のまま走り出させることになりかねません。

・新年度を迎えるときに行う場合

例えば、3年生になって最初の模擬試験に向けて行うなら、学び直し計画の立案と実行を学年末考査の2週間前ぐらいにホームルームで予告しておくのがよさそうです。
そのうえで、考査終了後の採点期間を、1年間の学習の振り返りと学び直し計画の策定に充てさせます。
学年末考査を終えて、生徒なりに反省点も抱えているはずなので、高い意識で取り組むことが期待できます。
この段階で「さて春休みだ!」と思わせるか、反省を活かしながら「いよいよ最終学年だ」と覚悟を新たにさせるかで、その後の過ごし方に大きな違いが生まれることは必至です。

・部活引退を機に行う場合

部活引退期を想定するなら、夏休み直前の模擬試験をターゲットに進めていくのが好適です。中間考査の出題範囲を告知するときをスタートに以下のようなスケジュールで進めていくことになろうかと思います。

  • 告知し、生徒に心の準備をさせておく(2週間程度=考査期間)
  • 振り返るための材料が揃ってから計画立案(数日=返却期間)
  • 自分が立てた計画に沿って、次の模試を目指す(3~4週間)

実際の学習を進める期間が短すぎては大きな効果は見込めませんが、長すぎては間延びして意欲を維持できません。

❏ 短い期間から始めて徐々に長期的な計画に

こうした好適機を使った「模試への準備」に取り組ませることには、受験期本番を迎えたときに主体的・戦略的な時間の使い方ができるようにするための事前指導という意味合いがあります。
最後の定期考査が終われば、共通テストや二次試験まで、自分の計画に沿って準備を進めていく必要が生じます。
1年生の秋から始めて幾度か経験を積むうちに、前回までのトライの中で得た反省(計画の拙さ、実行フェイズでの自己管理など)を活かしつつ、生徒は自分なりのスタイルや方法を身につけていくはずです。
最初は2週間程度の比較的短期間でのタスク管理に取り組ませ、回数を重ねるうちに徐々に期間を伸ばしていきましょう。
高3の2学期が終わるまでに受験本番までに相当する期間を自分でコントロールできるようになっていれば、「指導は成功」と言えそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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