先生方の多忙は日常化しており、校務の削減と効率化は先送りできない課題の一つです。多忙の原因には、制度の更新を必要とする構造的なものと現場レベルでの仕事の進め方で解消を図り得るものとがあります。
構造的な問題の改善を急がなければならないのは当然として、同時に、日々の教育活動に改善の余地がないかを洗い出し、ひとつひとつ片づけていきたいところです。制度変更で構造的な問題に解決の筋道がついたとしても、日々の仕事/教育活動に非効率的な部分が残っては、多忙は解消しきれません。現場レベルで可能なコストカットも考えましょう。
2017/10/20 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 工夫を重ねた結果、膨らんでしまった指導内容を整理
多忙の原因は、生活、学習、進路の各指導領域に存在しますが、とりわけ教科学習指導には、大きな時間とエネルギーが(生徒を伸ばそうとの思いの強さに比例して)投じられているものと拝察します。
個々の指導に投じているコストと、得られる効果を秤に載せましょう。
宿題などもその一つです。「その宿題、本当に必要ですか?」でも書いた通り、効果に疑問符が付く宿題が混ざっていることもあり、その点検や添削に、必要以上の労力を投じていることが少なくありません。
補習や講習も同じです。過去に始めた、既に定例化している取り組みを中止するとなると、それによって成績が下がってしまったらどうしようという不安から取り止めを決断できないことも多いはずです。
生徒に与えている宿題・課題、補習・講習などの学習機会の一つひとつについて、必要性を合理的かつ客観的に評価し直す必要があります。
先生方が中高生時代に経験したことを無自覚なまま「再生産」しているケースや、以前からの慣習に沿って続けているだけのケースなどは、効果を疑ってみるべき対象の筆頭かと思われます。
きちんと効果測定を行い、十分な効果のあるものに絞って、限りある教育リソースを集中的に配分していくことが、より大きな効果を引き寄せますし、先生方と生徒の双方での多忙の解消にも繋がるはずです。
❏ 個々に試行錯誤を重ねるのでは、効率は高まりにくい
指導の効率化を図ろうとする場面でも、適切な手順を踏めていないために、却って非効率な進め方になっていることが少なくありません。
学校の教育目的を達成するために配列した各組織(分掌、学年、教科)の指導目標という共通した方向性があるにも拘らず、先生方が個々の思いを優先し、それぞれに試行錯誤を重ねているのは珍しくありません。
授業改善でも同じです。cf. 授業改善行動の実効性を高めるために
個々の成果や失敗が共有されないと、無駄や重複が増えるばかりでしょう。先生方一人ひとりの試行錯誤に生徒を巻き込むのは、学校全体あるいは各組織の行動として、効率的とも合理的とも言えません。
複数の先生がそれぞれ最善と思える方法でトライしながら、成果が上がらなかったとしたら、そのアプローチ/発想そのものが、効果を引き寄せるポテンシャルを持っていなかった可能性があるはずです。
年度をまたいで同じような問題が繰り返されていることすらあります。
ある方法ではうまく行かないとの知見が得られたのは「成果」の一つ。その成果を活かさず同じ轍を踏むのは無駄以外の何物でもありません。
逆に、ある学年が効果的な指導を実現したのに、それを継承もせず(土台にもせず)、自前で新たな工夫を始めるというのも勿体ない話です。
こだわりは時に必要なことがありますが、生徒を巻き添えにするようでは、プロとして「 意地の張り方」を間違えているように思います。
❏ 効率化を進めるためのデータ取得にも無駄が隠れる
様々な事柄で「定点観測」を行っているはずなのに、せっかく蓄積されたデータがろくに活用されていないケースも方々で見受けられます。
活用する気がないのなら調査を止めた方がよほど効率的。必要なデータならば、活用の場面を想定した調査・蓄積の方法を考えるべきではないでしょうか。
- データをいかに利用するか(全4編)
例えば、少なからぬ学校で行われている「家庭学習時間調査」でも、上手にデータを取れている学校はそれほど多くありません。学年と教務がそれぞれ異なる方法でデータを取っているケースすらありました。
どちらの調査がより合理的なのか、家庭学習の定着等の指導に有意なデータがどちらの調査から得られているかを基準に、(他方の良さも取り込んで)どちらか一方に整理すれば良い話。これを怠り、両方を併存させている「怠慢」が、多忙解消を妨げているということです。
❏ 実効なく書類コストばかりが膨らんでいないか
教育活動の改善を図ろうとの意図からなされた取り組みも、その意図が正しく周知されていなかったり、やり方への習熟を十分に図っていなかったりしては、「コストだけで実効なし」になりかねません。
例えば、先生方に授業改善プランを起草してもらう際、プランを立てる手順への理解が不十分なままでは、実効性に乏しいプランしか起こせないかも。そこには無駄なエネルギーが費やされるばかりです。
どんなところに意識を向け、現状認識と課題形成にどこまでの具体化が期待されるかくらいは、点検項目を明示したいところです。(チェックリストサンプル「授業改善プランの策定までに踏むべき手順」)
組織的に新たな取り組みを始めようとするときには、意図するところと実際の手順がきちんと整合しているかを点検し、仕組みの完成度を高めておくと同時に、取り組みの当事者たる現場の先生方に対して、事前の案内や研修を抜け目なく行う必要があるはずです。
❏ 手段が妥当かを判断する基準は、目的との整合性
教育のデジタル化、AIの利活用は、今後の学校現場での大きな課題になりますが、ここでも「何をどこまで行うか」の判断をきちんと行うことが求められます。新しい技術を使うことを自己目的化しては、無駄を膨らませるだけの結果になりかねません。
特色ある教育活動を打ち出すときも、そのインパクト(主に生徒募集への影響が考慮されるのだと思いますが)だけに意識を向けず、学校全体での教育目標や既存の教育活動との整合性も大事にしたいもの。これが欠けると大きな効果は見込めず、コスト倒れになります。
また、もう少し小さい(日常に近い)ところでも、同様の考慮は欠かせません。補習や講習といった、授業外の学習機会にしても、何を目指してのものかを明確にしないと、「できそうなこと」のイメージばかりが先行して、結果的に手間が増えるばかりです。
また、新たなことに限りませんが、どんな取り組みにも、「中間検証」が欠かせません。適切なタイミングで現在位置を把握し、地図に照らしてみないと、その後の効率的なルートの選択もできないはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一