改善プランの具体化、中間検証
授業改善を確実、且つ継続的に進めるためのPDCAサイクルの前半である「改善プランを立てて、実行する」フェイズでは、データに基づき現況を正しく理解しておくことに加えて、改善策を考える段階で、
- プランを立てる前に新たな手法を学ぶ場を持ったかどうか
- その学びから改善に繋がりそうな知見を十分に得たか
という2点を確かめて進めないと、その先での行き詰りが懸念されるのは前稿でお伝えした通りです。これまでの発想の中に立ち止まったままで、あれこれと策を講じても、ブレイクスルーは期待できません。
校内に存在している優良実践(先行して改善が進んでいる授業)に学ぶ場を、改善プランの立案に先立ってしっかり確保しましょう。外から持ち込んだ「新たな手法」より、自校の生徒が備える学習者特性にマッチした手法が存在しているはずです。
2017/10/12 公開の記事をアップデートしました。
❏ 優良実践を複数で参観し、互いの気づきを交換する
授業改善に向けて具体的なプランを立てるときは、教科内あるいは校内にある優良実践から有効な手法を学ぶことが重要ですが、ここでも押さえるべき幾つかのポイントがあります。
相互参観を行うにしても、倣うべき優れた手法を確立している授業を選ばなければ、空振りもあり得ますし、良い授業を観ても、教室の様子を漠然と眺めるだけでは改善に活かせる「気づき」は増えません。
手に入れたいのは、学習効果の向上を妨げているボトルネックを解消する方法やその発想です。ただでさえ忙しい日々の中、授業を参観するのですから、観察の効率は少しでも高めておきたいところです。
授業評価や模試などの結果が出たら、高い評価を得ている授業/効果が上がっている授業をデータで選び出し、その授業を担当している先生から、教科会などで実践を報告してもらいましょう。
その報告に触れて、どの授業を、どこに焦点を置いて観察するか、しっかり考えてから教室に足を運ぶことが大切です。
また、可能なら、複数の先生で、同じ授業を参観することをお奨めします。同じものを見ても気づきは人それぞれ異なりますので、互いの気づきを交換することで、参観からの学びはより広く深くなるはずです。
気づきを共有する過程で、「授業を見て感じたことを言語化する」ことになりますが、このこと自体の効果も小さくありません。
言語化を試みる中で、気づきをより具体的なものにできますし、感覚に止まる曖昧な理解をより確かなものにすることができるからです。
❏ 出し合った知恵を土台に、より良いものを目指して工夫
授業改善は、先生方一人ひとりが取り組むべき仕事ではありますが、力を合わせて「協働」で取り組んだ方が確実な成果が期待できます。
如上の授業参観などで、優れた手法を学んだら、それを土台により良いものにブラッシュアップをするにも、別の科目・クラスにも適用できるようにアレンジするにも、知恵の出し合いが進歩を大きくします。
優れた手法を学ぶ機会がせっかく持てても、それを忠実にコピーするだけでは、それ以上の発展は見込めません。他の先生がお持ちの手法との組み合わせや、効果を高める工夫なども話し合ってみたいところです。
出し合って膨らんだ知恵を土台に、それぞれの先生が一定期間に亘って自分の授業で新しい工夫を試してみたら、どこかのタイミングで、その結果(効果)を、改めて突き合わせてみましょう。
そこで見出された「より大きな効果を得たもの」を改めて共有すれば、改善に向けた協働はさらに一歩先に進んだことになるはずです。
❏ 改善プランを具体化~授業デザインへの組み込み
授業改善に繋がる好適な手法を見つけても、それまで行っていた授業にただ「付け加える」だけではうまく機能するとは限りません。
50分の流れを想定して、どこに組み込み、従来から行っていることとの適合性をどうやって高めるかも考えておく必要があります。
参観や協議で得た「改善に役立つ新しいパーツ(学習活動など)」を組み込むだけでは、授業時間の枠をはみ出してしまうのも半ば自明です。
生徒が個々に取り組む学習活動(予習など)でできるところと、教室の中でしかできないことの切り分けを明確にして、50分間の設計全体を新しいものにしていく必要があります。
また、急な変更は生徒を戸惑わせ、不要な躓きを生みます。「生徒にできること」を増やしつつ、段階的に変更を重ねなければなりません。
どのタイミングで、どんな準備を経て、より良い授業にデザインを変更していくか、しっかり見通しを持って改善プランを立てましょう。
❏ 改善の効果を予測し、次の目標を設定する
ここまでのステップを踏んで授業改善プランが出来上がったら、それによって生じる変化(改善効果)を予測しておくことも肝要です。
生徒の学習目標認識が高まったり、授業内活動を通して充足感を得たりといった、学習者側の認識や行動における変化であれば、次の授業評価アンケートでの集計値で目標を設定するという手もあります。
成績伸長や学力形成を直接的な目標にするのであれば、模試や外部検定での分野別得点や技能別スコアの変化を目安にするほか、ターゲットとなる設問を用意しておき、チャレンジさせる時期とその時点で期待する正答率などを指標にしても良いと思います。
目標を明確にすることで、意欲的な改善行動が継続しやすいメリットもありますし、達成した場合の手応えもより大きくなるはずです。
仮に未到達に終わったとしても、あとどのくらいだったかが捉えられれば、次の手を具体的に考えるヒントも得られるのではないでしょうか。
❏ 中間検証の機会を設け、小さなPDCAサイクルを作る
目標の達成可能性を高めるカギは、中間検証を経てプランを逐次修正していくことですが、授業改善に向けた取り組みも例外ではありません。
次の授業評価アンケートの結果が出るのを、中間検証も行わずに待っていては、「改善できた/できなかった」の二値で改善行動の結果が固定されてしまいます。
途中でミニアンケートを実施するなり、ターゲット問題と似た出題意図を持つ課題を用意し、その達成率/正答率や誤答分析の結果を見て学力形成の状況を中間時点で検証することで、その後の改善行動の最適化を図ることが大切です。
7月の授業評価の結果を受けて2学期の授業改善を進めているなら、次の授業評価アンケートを行う前(中間考査の前後や単元の区切りなど)に、重点的に改善を図っている項目に絞ってミニアンケートを実施してみても良いと思います。
また、同じ方針の下で授業改善を進めている他の先生の取り組みを聞いて、自分の進み方を相対化してみたり、互いの改善成果を改めて共有してみたりすることで、目標の達成可能性はさらに高まるはずです。
その3(改善行動の効果測定とその後のアクション)に続く。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一