授業改善行動の実効性を高めるために(その1)

課題形成から改善プラン作りの準備

授業改善を継続的かつ確実に進めていくには、現況把握に基づく課題形成、改善プランの策定、改善行動の効果検証からなるPDCAサイクルを着実に回す必要がありますが、様々な学校の取り組みを拝見していると、正しくサイクルを回せているケースばかりとは限らないようです。
模試の成績や授業評価アンケートの集計結果など、改善課題を発見するのに十分なデータが揃っていても、合理的な手順に沿って改善プランを起こすところまで辿り着けないケース、計画を立てただけで終わっているケースも散見され、改善行動の効果測定まで到達して、改善ノウハウそのものを確立させてきている学校は、それほど多くないようです。
生徒による授業評価アンケートの結果に基づいて授業改善を図るときにも、踏むべきステップを整理しておく必要があるように感じます。

2017/10/11 公開の記事をアップデートしました。

❏ 授業評価アンケートで着目すべきは「学力向上感」

別稿「組織的授業改善の土台:データを使った効果測定」でも書いた通り、学習指導の好適性を判断する場合は、テストで点数化できる結果学力、学びに対する生徒の意識、学習者の行動などを、それぞれに応じたデータ(評価結果)を用いて「多角的」に評価する必要があります。
このうち、授業評価アンケートがカバーするのは「学びに対する生徒の意識」の部分ですが、最も重要な、目的変数とすべき評価項目は「授業を受けて学力の向上や自分の進歩をどれだけ実感しているか」です。
授業を受けて学力や技能の向上、あるいは自分の成長などを十分に実感している生徒は、その科目の学びに自己効力感を持って臨み、新たに生まれた興味や関心によって、学びの意欲を高めていきます。
アンケートは様々な質問の組み合わせで構成されますが、「学力向上感/学習効果」だけを訊いても、それだけでは、学力向上感を妨げているボトルネックが存在する場合にその所在が特定できません。
だからこそ、充足が不十分だとボトルネックになり得る項目を想定し、それらを「説明変数」として質問設計に加えていくことになります。

当然ながら、説明変数に設定する各項目は、目的変数(学力向上感)に有意に寄与することが確認されている必要があり、回答データを用いた検証は欠かさずに行う必要があるのは言うまでもありません。

❏ 学習効果の向上を妨げている要素を探り出す

学力や技能の向上や学びを通した自分の成長(=学習効果)を確かなものにするには、

  • 知識・理解の確実で効率的な獲得を図るための「伝達スキル」
  • 学習活動を通して様々な能力・資質を獲得させる「授業デザイン」

などが不可欠ですし、目的意識の強さや学習方策の獲得を確かめながら適切な負荷を掛けるにも、相応の測定項目を設ける必要があります。
こうした項目を説明変数に加えた質問設計であれば、学習効果の集計値が期待ほど上がってこない場合に、どこにボトルネックが存在しているかを探しやすくなるはずです。
伝達スキルは十分でありながら、知識・理解に生きて働かせる場を十分に与えられていないなど、授業デザインに改善すべき点を抱えていることもあれば、逆のパターンもあり得ます。
対話・協働の充実が十分に図られながら、学習効果が上がらないというのであれば、学びの仕上げに向かわせるフェイズに問題があるかも。
学習方策の獲得が進み、目的意識も十分なのに負荷を抑え過ぎて学びの手応えを希薄にしているケースなども少なからず見られます。

生徒による授業評価アンケートの集計結果が揃ったら、まずは「授業を受けて学力や技能の向上、自分の成長を実感できるか」に類することを尋ねた項目での回答分布に注目しましょう。
その上で、さらなる授業改善に、どこに注力した取り組みが必要か(どこにボトルネックを抱えているか)という視点で、説明変数に設定した他の項目群の集計結果に目を移していくのが好適です。

❏ 改善プランを策定する前に、優良実践からの学び

学習効果の実感を妨げているボトルネックとなっている項目にアタリがついても、この時点ですぐには有効な改善プランは立てられません。
これまでも自分の発想できる範囲で、最善と思われる教え方・学ばせ方をしていたはずです。
つまり、現時点での知見・発想だけでは、ドラスティックな効果を見込める改善策が思い浮かばない可能性が高いということです。
有効な改善策を講じるには、校内に存在している優れた実践(先行して改善が進み、高い評価を得ている授業)などを参考に、授業作りの発想や知見を拡充するワンステップを挟む必要があるはずです。
他の先生の話を聞いたり、実際の授業を参観したりすることが、発想や知見を広げる機会になるはずです。教科会などでの実践報告(手応えのあった取り組みの紹介など)も根付かせたいところです。
校外から持ち込んだ「新たな工夫」が自校の生徒の学習者特性にマッチするとは限りませんが、校内で既に高い評価を得ている授業のやり方であれば、親和性にも高いものが期待できると思います。
こうした「学び」を挟まずに、改善プランを立てても、期待したような成果が出ないかも。改善にトライして失敗を重ねては、生徒も巻き込んでしまいますし、先生ご自身も改善の意欲を維持しにくくなります。

❏ シミュレーションや思考実験を通した仮説づくり

これまで通りの方向で授業改善を進めるならば、倣うべき「正解」は、多くの場合、既に校内に存在していますが、入学者の質的な変化が生じたり、進路希望の分布が変わったりしたとき、あるいは教育課程が大きく変わるときなどは、既存の手法だけでは変化に対応しきれません。
このような場合には、新たな環境が求める学びがどういうものかを想定し、その仮説に基づいた試行を重ねていくことになりますが、ひとりで考えても発想には限界があり、教科内での協働が期待されます。
例えば、主体的な学びを実現させようとするなら、どんな働き掛けで、生徒一人ひとりに「学ぶことへの自分の理由」を持たせ、「学ぶのに必要な方策」を獲得させるかなどを探っていかなければなりません。
働き掛けに対する生徒の反応を想像しながら、シミュレーションを重ねて仮説を立て、日々の授業の中でそれを試していくしか方法はないはずです。当然ながら、新たな取り組みの成果を測る方法(アンケートに新たに加える評価項目など)も考える必要があります。
以前の記事「新たな取り組みを始めるときの鉄則」でも書きましたが、新たな指導目標に、先生方がそれぞれに考えた「最善と思われる方法」でトライし、効果測定の結果に照らして、より良いものを選択していくことを繰り返す中で、好適な手法の確立に着実な歩を進めましょう。
その2(改善プランの具体化、中間検証)に続く。



アンケートの集計結果を正しく読み取って、改善課題の特定に繋げるには、適切に設計された評価項目群が不可欠であるのは言うまでもありませんが、質問設計に込めた意図を正しく理解しておくことも重要です。
新課程への移行で目指すべき学力も変化し、その獲得に必要な学習活動の在り方(学ばせ方)も変わりました。長らく授業評価アンケートを行い、質問設計の見直しがなされない場合、一度点検が必要です。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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