一月は行く、二月は逃げる、三月は去るとか…。これから先、日々を忙しく過ごす中、終業式を迎え、生徒が春休みに入るのもあっという間かも。春休み中の生徒に課す宿題は、もうお決まりになったでしょうか。
春休みは、言うまでもなく、新学期を迎えるための準備の期間。進級後の学びへの備えを整えることが最も大事なことになりますが、そこで必要なことは生徒一人ひとりで異なるのが普通です。
長期休業期間は、時間的に余裕があるからこそ、平常期にできなかった課題に挑んでもらうという考えもあろうかと思いますが、生徒の持ち時間をびっしり埋めるような宿題を用意するのはちょっと待ちませんか。
2016/02/29 公開の記事を再アップデートしました。
何をやるかを生徒自身に考えさせ、自分できちっと計画を立てて実行させることもまた、「自立的な学習者」に成長してもらうのに欠かせないトレーニングです。生徒の側でも、
- 学期中はこなしきれずに中途半端にしてしまった副教材
- 興味があったが、読めなかった本/調べられなかったこと
- 思いのほか出来が悪く、次回のリベンジを誓った模擬試験
などなど、普段はできなかったことに取り組みたい、放置していたものを仕上げたいと、思っているかもしれません。
休みに入ったら手を付けようと思っていたことも、先生方に指定される宿題に追われて、結局やらずじまいになってしまうこともあり得ます。
宿題がずらりと並べられたら、「さて、何をやろうか」という方向には考えが膨らまなくなってしまうのではないでしょうか。
❏ 仕上げ切らず、先送りにしていたことに挑ませる好機
やろうと思っていたけど、「多忙」のせいで出来なかったという体験を重ねていたら、自分で考える意欲や姿勢もやがて失っていきそうです。
指示に従う姿勢よりも、自分なりの目的を持っている方が、より多くの成果につながるのは、別稿で示したデータも示唆しています。
社会人が仕事に追われるうちに、ノルマをこなすだけの日々になりがちなのと、そんなに変わらないかもしれません。
生徒に「計画的に、自律(自立)的に学べるようになってほしい」と求めるなら、そうなるチャンスを失わせないようにしたいものです。
まずは、生徒自身にこれまでの学習(各教科、探究活動)を振り返らせて、「やりたいこと」をリストアップさせてみてはどうでしょうか。
並べ上げさせたら、優先順位をつけさせます。その際、「やりたい順」に加えて、「やらなければならない順」もしっかり考慮させましょう。
❏ 優先順位をつけさせるトレーニング
have to ばかりを優先させてwant to を後回しにするのは窮屈ですし、want to ばかりでもちょっと問題がありそうです。
原点を中心とする同心円をイメージして、「遠い(下図で矢印が長い)ものほど優先順位を高く」という考え方が良さそうです。
その上で、優先順位の高いものから順に、あらかじめ見込みを立てておいた「期間内に自分の持ち得る時間」の中に配置させていきましょう。
持ち時間が足りないなら、他のことと折り合いをつけてどこかに時間を作ることになりますが、そうした思考は卒業後も必要になるはずです。
❏ 生徒に「やるだけの理由」がないまま、挑ませても…
先生方の目で「やらなければならない」と思えることは、もちろん宿題として生徒に課すこともできますが、学ぶ/挑むことに「自分の理由」を生徒に作らせないまま、強制力に頼っては得るものも少ないかと。
ただやらせてみたところで、コストに見合うだけの効果や、次に向けた更なるモチベーションにつながるような達成感は期待できません。
他人が決めた仕事(=他人事)に追われるよりも、自分で決めたことを実行する方が、やる気もでるし、成果も大きくなると思います。
生徒が作ってきた「やるべきことリスト」に、先生がやらせたいと思っていたことが含まれていないことも多分に予想されます。
それまでの授業内外の指導を通じて、興味を刺激できなかった/必要性を認識させられなかったことを反省しつつ、頭を切り替え、進級後の指導の中で、それらに取り組む機会をどう作るかを考えていきましょう。
同じ反省を次年度末にも繰り返さないよう、以下のようなことがなかったか、生徒の頭に「やらなければならないこと」としてリストアップされていなかったのはなぜか、しっかりと振り返っておきましょう。
- 日々の授業の中で、生徒の興味関心を刺激する問いの投げ掛けが足りなかった。(cf.探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問)
- 興味をもった兆候が見て取れたときに、それを掘り下げそこなった。( cf. 「学びの拡張」まで考慮したカリキュラムの設計)
- 模擬試験や定期考査の結果(答案)を返却したときに、「間違い直し」しか課さなかった。(cf. 模試の結果を正しく振り返る)
❏ やるべきことが見つけられない生徒には
学習計画を作らせてみても、やるべきことがどうしても見つからないという生徒には、先生が予め用意しておいた「宿題の候補」を幾つか提示して、その中から生徒に選ばせてみるのも好適です。
選択肢が示されたとはいえ、どれをやるかは自分が選んだ以上、そこには「やることへの自分の理由」を持てる可能性が膨らみます。
やるべきことを見つけられないことに多少なりとも困っていた生徒にとっては、先生が示した選択肢はある種の「救い」かもしれません。
しかしながら、「やるべきことを見つけられるようにすること」も大切な目標です。新年度の指導で目指すことが一つ増えたと考えましょう。
夏休みもまた同じことが起きたとしたら、学習者としての成長はなかったということです。そんな事態は何としても避けたいところです。
❏ 自立的な学習者に育てるために重ねさせる練習
入学時や夏休みなどに行われる「勉強合宿」でも、やるべきことを生徒自身に探させることを目的とするケースが増えてきたように思います。
入学前まで、やるべきことはすべて指定され、それをこなすだけで上手く事が運んだという「成功体験」を重ねてきた生徒もいるかと思いますが、その体験が自立的な学びへの移行を妨げることもあり得ます。
やるべきことをきちんと選び出し、それをひとつずつしっかり行う姿勢の獲得を「目指すことの一つ」と生徒に認識させていきましょう。
如上の勉強合宿などは、そのきっかけとしては好適ですが、それだけでタスク管理の姿勢とスキルが十分に身につくとは思えません。以下の3フェイズを日常の中で繰り返し求め、練習を積ませていきましょう。
- 自分の置かれた状況に照らして何をやるべきかをリストアップし、
- それらに優先順位をつけて、
- 計画に落とし込む(=持ち時間の中にレイアウトする)
平常授業期には、授業準備(予習)や学びの仕上げ(復習)に課したタスク(宿題)で、生徒の持ち時間はその多くが満たされてしまいます。一定以上のまとまった「練習」をするには、春休みなどの長期休業期間はまたとない好適な時期だと思いますが、いかがでしょうか。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一