部分理解と全体把握

人の話を聴いていて、目の前でなされている説明の一つひとつは理解できるのに、全体として何が言いたいのか、どこに向かおうとしているのか、どうにもピンとこない。こういった経験はないでしょうか。
授業中の生徒も同様の経験をします。先生方の話す内容はその都度理解できていても、「この授業は何を目指しているのか」「いま自分が何を学んでいるのか」、全体像を生徒が掴み切れていないことがあります。
つまりは、説明の部分部分は理解していても、それが全体の中でどんな意味を持つのか、どんな位置づけなのかが見えていない状態。言い換えれば、部分の理解が全体の把握にまで繋がっていないということです。特に新しい内容を学ぶ場面では、決して珍しいことではありません。

❏ 教える側と学ぶ側の間に横たわるギャップ

教える側は、科目・教科の全体像を捉えた上で部分を教えているのに、学ぶ側は部分を積み上げながら全体を把握していく必要がある。これが教える側と学ぶ側の間に、厳然と横たわっているギャップです。
既にAを学んでいる段階で、Aと関連するBを新たに学ばせるとき、教える側にとってAとBの関連は自明でしょうが、生徒がそれ(BがAの先や隣にあること)に気づけていないことも少なくありません。
まずは、導入フェイズでの発問などで、Aを学んだときのことを想起させ、その理解を確かめた上で、両者の比較も行いつつ、共通点や相違点、関連性などに気づかせたりしていく必要があります。
教科学習指導に限らず、探究や進路、生活の指導でも、常に「生徒に見えている景色を想像しながら教えているか」を自問しながら、伝えることを組み立てていく必要があるのではないでしょうか。

❏ 全体像をつかまえさせるタイミングと方法

初めて学ぶことがらでは、全体像の把握もそうですが、何より「今、学んでいることがどこに繋がるのか」「どんな場面で必要になるのか」を想像するのは、生徒にとって容易なことではありません。
自分事の課題(身の回りに存在する解決すべき問題)にどう関わるのか、どういう形で理解を問われるのか、生徒はピンとこないものです。
授業の開始に「単元名」を板書したところで、学習目標を伝えたことにはなりません。文字列(単元名)を目にして想像できることは、教える側と学ぶ側で、まったくと言って良いほど違うのが通例でしょう。
学習目標は、別稿でも申し上げた通り、解くべき課題で示すのが最も効果的。もし、それでも十分に伝わらないときは、少し学びを進め、ひと通りの説明を経て、例題を解き終えたくらいのところで、本時の学びの位置づけを示し直すようにした方が、上手くいきそうです。
なお、学びのプロセスの中で「目指すもの(ゴール)を把握していること」は、様々なメリットを持ちますので、学習目標を伝えるのは「伝えられる状態になったらできるだけ早く」が正解。無駄に先送りせず、なるべく早いタイミングで示していきましょう。

❏ そこまでに書き上げてきた板書を振り返りながら

少し学びを進めてから目標を示し直すには、そこまで伝えてきたこと/確認してきたことを、短時間で確実に振り返る必要があります。
最も効率が良いのは、そこまでに書き上げてきた板書を辿り直すことでの振り返りです。「ここは何をしようとしていたのか」「ここでの一手が、あとでどんな効果を得たのか」を尋ねていきましょう。
こうした過程を経てから、「今日の授業で押さえたいこと」を言語化して伝えれば、なるほどそういうことだったかと腹落ちしそうです。
また、個々の知識や理解を全体像の中に組み込むことも同時にできます。きちんと位置づけされていないバラバラの情報は、記憶に保持されませんし、次の理解の土台にもなりにくいものです。
やり方のポイントは、要所ごとに「何をしているところか/何をしようとしているのか」 を問い掛け、生徒自身に言葉にさせてみること。手元のメモに起こさせても、隣に説明させてもかまいません。
その上で、書かれていることを指し示しながら、必要なことを加筆していけば、理解を押し広げ、一つひとつの位置づけを明確にしていくのも容易です。
ひと通りの説明を聞きながら、目の前で展開してきた板書なので、ある程度まで理解も進んでいるはず。そこに「問い掛け」と「加筆」で関連付けをしていくことで生徒が得る学びは、決して小さくありません。

❏ 生徒自身による体系化、目次を使った全体把握

学習していることがらを全体像の中に置くことに、生徒自身にも取り組ませる必要があります。いつも先生が先回りしたり、支援したりしているだけでは、一人で学ぶとき(卒業後など)に不足が生じます。
別稿「単元で学んだことの体系化に挑ませる」で書いたような、単元を振り返って、まとめシートを生徒が作るというタスクを課すのも好適。
最初は上手にできなくても、先生からのフィードバックや周りのやり方などを参考に、整理の仕方やまとめ方を学んでいくものです。
また、学習内容を体系的に編んでいるものと言えば、「教科書」でしょう。とりわけ、目次は学習内容(項目)の配列を、章立てという形で明示しており、学び終えたときに立ち戻るところとして最適です。
カリキュラムのスパイラル(同じ内容やテーマを、学年が上がるごとに深めながら繰り返し学んでいく構成)上での学びの中で、教科書の目次を適宜参照させましょう。cf. 目次を使って”全体像”を捉えさせる

❏ 小学校や中学校で何をどのように学んできたか

また、生徒がこれまでに学んできたことと結び付け/関連づけて、新たに学んでいることの位置づけや意味を伝えるには、小学校や中学校で、何をどのように教えているかを知っておくことが欠かせません。
中高一貫校で、高校生を教えるときに中学の内容を踏まえたり、中学生を教えるときに高校の学習をイメージしたりするのは比較的容易ですが、高校単独校では、中学での学びは意識的な把握が必要です。
学習指導要領の上ではスパイラルが設定されていますが、先生方ご自身が、その全体像を十分に理解しておかないと、それを十分に活かすことはできません。他校種の教科書を見る機会は案外少ないものです。
高校の先生たちと一緒に公立中学の授業を観に行く機会がありますが、初めて見る光景(学ばせ方など)に驚かれている様子もしばしばです。せめて、中学校の教科書(採用数の多いものだけでも)職員室に常備し、必要に応じて参照できるようにしておきたいところです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一